2017年

3月

07日

【EconomistView】:酪農の現状と未来を考える 2017年3月7日号

(写真)日量300tを安全・衛生的に処理する

茨城県央クーラーステーション

国産牛乳の生産者と消費者をつなぐ仕組み

 

日本の農業産出額のうち一位を占める畜産業。中でも牛乳となる生乳は国産100%を保ち、生産量で米を上回る基礎食品だ。鮮度が命の生乳を廃棄することなく、365日安定供給する日本の酪農の取り組みを取材した。

 

 


◇酪農家の安定経営を支える指定団体の多様な役割

 

 

 牛から絞った生乳()は腐敗しやすく貯蔵しにくい液体なので、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要がある。そのため、酪農家が単独で価格交渉すると不利な立場に置かれる傾向にあった。そこで1966年に設立したのが、指定生乳生産者団体(指定団体)制度。生産者に代わって乳価交渉や受給調整などを行う。

  乳業メーカーは用途も買取価格も異なるため、いったんプールし、酪農家には同じ単価で支払う。生乳をまとめて輸送することでコスト削減、広域ルートの利用で販売調整も可能になった。天候や天災、景気の変動などで生じるリスクの負担も公平に分散できる仕組みだ。

 栃木県那須烏山市鴻野山で乳牛140頭を飼育する高瀬賢治さん(60)は、妻と2人の息子さんとの家族経営。高瀬さんも「安定した牧場経営に欠かせない制度」と言う。

「生き物相手ですから、毎日、クーラーの生乳がカラになってくれるのが一番ありがたい。厳格な検査も消費者の安心につながると理解しています」(高瀬さん)

 平均80頭の経産牛で年間千トン近い生乳を生産する高瀬牧場。従来のつなぎ飼いから、「フリーストール」とよばれる放し飼いに変えた。搾乳場にも牛が自分で移動する。

 

 「牛のストレスと労働力が軽減されるし、糞尿のある寝床とエサ場が分離しているので衛生面でもいい。頭数を増やすより、牛の質を高めて一頭当たりの生産量を上げる方が効率的だと考えています」 

 関東圏内には茨城と千葉にクーラーステーション(CS)があり、毎朝、タンクローリーが牧場を回って集乳する。厳密なサンプル検査を完了後、CSのタンク内に受乳、その日のうちに各乳業メーカーへ送乳する。集乳時のバーコードと個別サンプルの保管で、万一異常が発見されても生産者まで追跡できる。CSの経費は会員が負担している。政府が農業競争強化プログラムに基づく補給金制度の見直しや流通改革を進める中、中央酪農会議(指定団体と酪農関係全国機関で構成される指導団体)の内橋政敏事務局長は次のように語る。

(写真)高瀬牧場では息子二人の就農を機に牛舎を増築。

飼料も12㌶作付けし循環型の酪農を目指す


 「牛乳は売り場では安売りされがちな食材です。経済効率一辺倒で生産現場と消費者が切り離されてしまうのはお互いによくない。消費者に届くまでの生産者の苦労や安全性確保の取り組みについても、消費者に理解していただきたいですね」

 トランプ米大統領の離脱宣言で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の見通しは不透明だが、食料自給率向上と食の安全性確保の観点からも、生産者を支えるのは消費者であるといえそうだ。

)生乳―牛から絞ったままの乳。殺菌処理されたパイプを通って保冷タンク(バルククーラー)に保管される。真空のままタンクローリーで工場に運ばれ、低温殺菌、高温殺菌、超高温殺菌などの加熱処理が施されたものが「牛乳」。

中央酪農会議の取り組みについてはホームページ(http://www.dairy.co.jp)で詳しく紹介されている