「直葬」から「遺体ホテル」 ジャズ&ワインの超豪華葬まで

様変わりする葬儀(本文と関係ありません)
様変わりする葬儀(本文と関係ありません)

小谷みどり(第一生命経済研究所主席研究員)

 

 2000年以降、参列者が少ない小さな葬儀が増えている。「家族葬」という言葉もすっかり市民権を得た。バブル景気の時代(1980年代後半)は、一般的な葬儀でも、参列者は優に100人を超えていたが、公正取引委員会の05年調査では、個人葬の参列者が減少したと回答した葬祭業者は67・8%にのぼった。

 

 参列者の減少は、葬儀単価の下落につながりやすい。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」では、葬儀社の1件当たりの平均売上高は06年の152万円をピークに減少し、15年には144万円となっている。しかも、100万円未満が全体の55・5%を占め、05年の53・9%より微増。つまり、葬儀費用が二極化している。

 

 

 ◇遺族のいない死者

 

 小規模な葬儀が増加する背景の一つには、死亡年齢の高齢化がある。死亡時に80歳以上だった人が全死亡者に占める割合は、00年の43・8%から15年には61・3%に上昇した。いまや死者の4人に1人は90歳を超えている。

 

 超高齢になると、兄弟や友人の多くはすでに亡くなっており、親の死亡時に子どもが定年退職していれば、仕事関係の義理参列者は激減する。これまでの葬儀は遺族、参列者双方にとって、見栄や世間体を重視してきた傾向があったが、「60歳ライン」を子どもも超えれば、こうした「たが」が外れ、廉価で小規模な葬儀が増えるのは当然だ。

 

 50歳時点での未婚率を示す生涯未婚率の上昇も影響している。特に男性の割合は90年前後から増加し、15年には23・5%に達した。これからは遺族のいない死者が急増する。こうした人は、社会とのつながりがないことも多い。国立社会保障・人口問題研究所が12年に実施した調査では、ひとり暮らしの男性高齢者の6人に1人は、2週間のうち1度も誰とも電話や会話をしていないことが明らかになっている。

 

 ひとり暮らし高齢者の貧困も深刻だ。生活保護を受ける高齢者世帯は、15年で80万3298世帯あり、00年と比べると2・4倍以上に増加している。そのうち単身世帯が90・4%と大多数で、筆者の試算では、ひとり暮らし高齢者の11・6%が生活保護を受けている。家族がいない、社会とつながりがない、お金がないという高齢者の死は、葬儀の意味合いを根本から揺るがす。

 

 無縁死を少しでも減らすため、横須賀市では15年7月から、資産が少なく年金などの月収が16万円以下で、頼れる親族がいないひとり暮らし高齢者を対象に、エンディングプラン・サポート事業を開始した。

 

 市の職員が葬儀・墓・死亡届出人・リビングウィル(生前の意思)について本人から事前に聞き取り、書面に残して保管しておき、同時に葬儀社と生前契約を結ぶという仕組みだ。葬儀費用は、生活保護の葬祭扶助基準の20万6000円以内で葬儀社に先払いする。市の職員は契約時に立ち会い、高齢者が亡くなった時には、本人の希望通りに行われたかをチェックする。神奈川県大和市でも昨年、横須賀市と同様の「葬儀生前契約支援事業」を始めた。

 

 ◇増えるネット仲介

 

 葬儀に対する意識の変化もある。90年代以降、高騰する費用やお仕着せのあり方に不満を抱く人が増えたことで、葬儀に消費者意識が芽生え始めた。

 

 国民生活センターに寄せられた葬儀への苦情相談件数は00年以降急増しており、96年度には83件だったのが00年度には164件、15年度には764件に急増した。

 

 以前に比べると、ブラックボックスだった葬儀費用の透明化はかなり浸透している。多くの葬儀社がホームページを開設し、消費者がインターネットで葬儀や葬儀社に関する情報を簡単に得られるようになったことが大きい。総務省「平成27年度版情報通信白書」によると、60代のネット利用率は75%を超えており、ネットで葬儀を依頼する遺族は珍しくなくなりつつある。遺族に代わって複数の葬儀社から一括見積もりを取り、条件に合った業者を紹介する仲介ビジネスだけでなく、葬儀や法事の僧侶をネット注文で派遣するビジネスに参入する業者も相次いでいる。

 

 消費者が葬儀費用を簡単に比較できるようになると、廉価な葬儀を志向する人が増え、業者間の価格競争につながる。葬儀社は物品販売業ではなく、サービス業の性質が強い。ネット仲介業者は廉価な費用を明示し、集客するものの、実際の葬儀は提携葬儀社が行うため、サービスや従業員の質が担保されているのかは、不透明な部分もあり消費者は注意を要する。

 

 家族数人しかいなければ、従来のような葬儀をしないケースもある。火葬だけですませる直葬は、都内では3割近くにものぼる。

 

 葬儀をしない場合、火葬までの間、家族は遺体の安置場所に苦慮する。そこで、遺体安置が新しいビジネスとして生まれた。「霊安室」ではなく、「遺体ホテル」「フューネラルアパートメント」などと呼ばれているのが特徴だ。遺体安置は倉庫業としての許可があればできるので、異業種にとって参入障壁は低い。「宿泊費」は1泊5000円から3万~4万円とさまざま。ひつぎごと冷蔵施設で保管する業者もあれば、遺族が遺体と24時間いつでも面会できる部屋や、数人での簡単なお別れ会ができる部屋を併設している施設もある。

 

 ◇「旅立ちのドレス」

 

 家族数人だからこそ、こだわりの葬儀を望むケースもある。死に装束の専門店はここ数年で、続々と登場している。「旅立ちのドレス」「エンディングドレス」と呼ばれ、女性用はフリルたっぷりの白やピンク、ブルーなど淡い色のドレスが主流だ。既製品だと10万円前後だが、フルオーダーになると30万円以上するという。

 

 最後の闘病が長かった場合、「長い間お風呂に入れてあげられなかったので、最後にきれいにしてあげたい」と希望する遺族に注目したのが、訪問入浴サービスの会社だ。浴槽を遺族の自宅やセレモニーホールなどに運び込み、シャワーで故人の体や髪を洗い、顔そりや爪切りもおこなう。湯かん室を完備したセレモニーホールも多い。

 

 ひつぎにこだわる人もいる。華道家の假屋崎省吾さんがデザインしたひつぎ、3層構造の強化段ボール製ひつぎ、参列者が寄せ書きできるひつぎなど、ひつぎのバリエーションも多様化している。

 

 骨つぼも大理石や九谷焼など高級品を志向する人もいる。日本を代表する高級洋食器メーカーの大倉陶園は昨年、骨つぼプロデュースに参入した。04年に葬祭業に参入し、有名人の葬儀で知られる東京都青山葬儀所の指定管理者でもある日比谷花壇は、「ジャズとワインで送りたい」「色とりどりの花で送りたい」など費用は多少かかっても個性的な葬儀を望む消費者に対応する。

 

 葬儀の意味が時代とともに変化することで、新たなビジネスチャンスを生み出している点は興味深い。

 

(小谷みどり・第一生命経済研究所主席研究員)

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号 掲載