リスク打ち消し緩やかに円安へ 予想覆しても混乱は一時的 欧州政治リスク:楽観

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市川雅浩・三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト

 

 欧州の主要国で相次ぎ予定されている政治イベントによる金融市場の動揺は、発生しても一時的なものにとどまり、深刻な危機に発展する可能性は低いだろう。ドル・円相場は、年前半は欧州の政局混迷に対する警戒感からリスクオフ(回避)の円高に振れやすい地合いが続くとみられるが、年後半は過度な警戒感が後退し、緩やかな円安基調に転じるだろう。

 

 目前に迫るオランダの議会選挙(3月15日)は、極右政党の自由党(PVV)が第1党となる可能性が高いものの、連立が必要となるオランダ政権において、他の主要政党がPVVとの連立を否定しているため、結局は現与党である自由民主党(VVD)が、PVVを除く連立政権を樹立するというのが大方の見方だ。市場ではこの見方が既に織り込まれており、PVV政権が誕生しないことで市場の混乱は回避されるため、1ドル=110円を超えるほどの円高にはならないだろう。

 

 

 4月23日と5月7日に予定されるフランス大統領選挙でも、極右政党である国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首の勝利は困難との見方が大勢で、円高の動きは一時的となるだろう。ただ、ルペン氏は、第1回投票では勝ち進むとみられており、この過程においては市場は一時警戒感を強め、円高に傾くとみられる。また、この時期に、米国でオバマケア代替法案の成立が遅延し、減税を含む税制改革への着手も遅れる見通しが強まるなどの悪材料が重なれば、1ドル=100円台後半の円高を見込む必要も出てくる。

 

 フランス大統領選を波乱なく通過すれば、ドイツ連邦議会(下院)選挙(9月24日)も、比較的無事に終わる公算が大きい。社会民主党(SPD)が支持率を伸ばし、緑の党などと連立政権を樹立すれば番狂わせとなるが、その可能性は低く、現与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が勝利し、アンゲラ・メルケル首相の続投は確実とみられる。また、反ユーロ政党のドイツのための選択肢(AfD)の支持率も既に頭打ちで、新政権に参加する可能性も低いため、オランダ、フランスに続きドイツでも市場の予想通りとなれば、ドル・円相場は再び緩やかな円安基調に戻ると思われる。

 

 ◇EU離脱難しい

 

 この他、英国ではEUに対する離脱通知が3月末までに行われる見通しで、英国独自の離脱方針の実現に向け、原則2年間のEUとの交渉が始まる。しかし、英国のEU離脱は、ドル・円相場にとっては既に長期目線の材料となっており、英国がよほど深刻な状況に陥らない限りは、短期的なドル・円相場への影響力は縮小しているとみてよいだろう。

 

 仮に、相次ぎ行われる国政選挙が市場の予想を覆す結果となったとしても、市場は既に英国民投票に続き米大統領選と2度のショックを経験しており、比較的冷静に受け止める可能性もある。万が一、反EU勢力の台頭によって市場が大きく動揺し、金融機関に大きな打撃を及ぼしたとしてもショックは一時的にとどまり、これまで長く続いた量的金融緩和によって市場にあふれている過剰流動性が、欧州全体の金融機関に十分な資金繰りの余裕を与え、金融システムを下支えするとみている。

 

 また、実際にユーロ加盟国で反EU政権が誕生したとしても、ポンドを自国通貨とする英国と違い、ユーロを自国通貨とするオランダやフランスは新たな自国通貨を導入しなければならず、英国以上に時間と労力と費用を要する。EUから離脱できるハードルは極めて高いだろう。

 

 

(市川雅浩・三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト)

 

*週刊エコノミスト2017年3月21日号 「為替2017」掲載

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