経営者:編集長インタビュー 楠雄治 楽天証券社長

◇iDeCo(イデコ)とラップ口座を投資の入り口に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どのような顧客層が多いですか。

楠 口座数は220万を突破しています。そのうち数万人がデイトレーダー(ほぼ毎日取引する利用者)で、大半は週に数回などたまに取引をする層です。預かり資産は4兆円を超え、国内インターネット専業の証券会社のなかでは2位です。

 

── 楽天証券の強みは。

楠 当社の利益基盤となっているデイトレーダー向けだけでなく、積み立てなど長期的に資産構築したい人向けも含め、ほぼ全ての顧客層にサービスを提供していることです。

 最近は、スマートフォン向けアプリで取引する利用者が増えています。FX(外国為替証拠金取引)では約71%、先物・オプション取引では約60%、日本株は約41%にまで上昇しています。FXのスマホ率が高いのは、比較的若い人が多く、株式の取引は年齢層が少し高いためです。

 

 ネット証券業界は、楽天証券の他、業界1位のSBI証券、松井証券、カブドットコム証券、マネックス証券が主要5社だ。業界2位の楽天証券は、1999年創業のDLJディレクトSFG証券が前身。その後、楽天が2003年に子会社化。04年に名称を楽天証券に変えた。

 

── 楽天市場や楽天トラベルなどの「楽天会員」をどう生かしますか。

楠 楽天証券の口座数は現在220万ある一方で、楽天会員は1億1000万人を超えています。例えば、節税効果も高い個人年金である個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」は、投資を積極的に行っていない一般層の開拓に役立つと考えています。60歳まで毎月5000~2万3000円まで(会社員の場合)積み立てられる制度なので、特に30代、40代を中心に働きかけていきます。

 また、16年7月に、おまかせの資産運用サービス(ラップ口座)「楽ラップ」を始めています。投資金額は10万円からで手数料は年間1%未満、利用者数はすでに1万人を超えています。楽ラップの特徴は、世界最大級の運用助言機関の米マーサー社のサービスを使っている点です。アルゴリズム(機械)で運用せず、世の中の動きを見ながら先読みをして投資判断をしています。例えば、トランプ大統領誕生後、債券にウエートを置いていた一般的なラップ口座サービスは悪影響を受けましたが、楽ラップは株式にウエートを置いていたため好影響を受けました。

 

── 楽天銀行との連携は。

楠 楽天グループの各サービスのお客様にも新規の口座開設を呼びかけていますが、楽天銀行から流れてくる人が一番多いです。楽天銀行は現在、577万の口座、約1・8兆円の預金残高を持っています。銀行と証券の口座をシームレス(つなぎ目なし)に連携することで、銀行口座に入金すれば、そのまま投資資金になるような口座間の連携サービスを提供しています。

 例えば、楽天証券はATMカードを発行していません。ただ、楽天銀行の口座を持つ人がコンビニで楽天銀行の口座におカネを入れれば、投資で必要な時にこれを使えるようにするサービスも提供しています。反対に、楽天証券の口座に現金ができれば、そのまま自動的に楽天銀行に移動できるサービスもあります。

 

── その他の利用者開拓は。

楠 約600人の独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)と契約しています。当社と契約するIFAには元証券営業マンも多く、中には自分の顧客を抱えている人もいます。彼らには当社のサービスを紹介してもらうので、私どもの販売代理店のような位置付けです。

 IFA経由で獲得した口座数は1万6000まで伸び、その預かり資産は2000億円を超えました。彼らは独立系なので、所属する証券会社の都合で営業しないことが差別化要因です。

 

 ◇香港とマレーシアへ

 

── 「フィンテック(金融と技術の融合)」分野の取り組みは。

楠 楽天グループとしては、フィンテック技術を持つ欧米企業などに対して15年11月から100億円規模の投資をしているところです。私もこのファンドの投資判断をする委員なので、フィンテックの最新情報は入ってきます。楽天証券のサービスをいかに充実させるか、競争力のあるものにするか、便利にするかを念頭に、自社で開発できるものはするし、ベンチャー企業などから取り込むこともしていきます。

 フィンテックを実際に活用することも意識しています。16年8月には、分散型台帳を実現する画期的な技術として注目される「ブロックチェーン」を使った本人確認システムを、ソラミツ(東京・港区)というベンチャー企業と共同開発を開始しました。高いセキュリティーのシステムを構築していきます。

 

── 海外戦略はどうですか。

楠 FXでは香港と豪州シドニーに拠点を置いています。香港が中国本土の顧客の窓口となり、豪州で口座を開設するためです。豪州ではレバレッジ(少ない資金でも大きな取引ができる仕組み)の規制がないため、例えば、100倍とか200倍のレバレッジも可能です。これで中国市場の開拓を狙います。

 また、マレーシアにも進出します。現地の証券大手ケナンガと、5対5の出資比率でネット証券会社「楽天トレード」を作りました。この合弁会社を作るために、政府との交渉など2年かかりました。まもなくサービスを開始します。

(構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 31歳で米国に留学し、帰国後はコンサルティング会社に入りました。36歳で前身のネット証券立ち上げに参画しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A もともとはシステムエンジニアでしたので、チャールズ・ワイズマンの『戦略的情報システム』には影響を受けました。

 

Q 休日の過ごし方

A 海外出張も多いですが、フィットネスクラブで汗を流したり、月に1回はゴルフもします。

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 ■人物略歴

 ◇くすのき・ゆうじ

 広島市立基町高校、広島大学卒業。1996年、米国でMBA取得後、ATカーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現・楽天証券)入社。2006年4月に楽天証券COO、同年10月に社長就任。54歳。

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事業内容:インターネット専業の証券会社

本社所在地:東京都世田谷区

設立:1999年3月

資本金:75億円

従業員数:340人(2016年9月)

業績(16年3月期)

 売上高:550億円

 営業利益:246億円