WEC破産申請 東芝最終赤字1兆円超へ “願望”経営の先行きは

 東芝の子会社で巨額損失の源泉となった米原子炉メーカー、ウェスチングハウス(WEC)は3月29日、米連邦破産法11条の適用を申請した。東芝は「再生手続きの開始により、実質的支配から外れる」とし、2017年3月期で連結対象から切り離すことで損失を確定させ、再建を急ぎたい考えだ。

 

 しかし監査法人の承認は得ておらず、WECの米原発の建設撤退などで損害賠償請求を受けて損失が見込みより膨らむ恐れもある。かつてWEC買収で成長をうたい、今度はWEC売却で安定をうたう東芝の“願望”経営の先行きはなお見通せない。

 

 米連邦破産法11条は、日本の民事再生法に相当にする。東芝はWECの破産法適用申請に当たり、WECの経営破綻で原発を完成できなかった場合に、代わって違約金や損害賠償金を支払う契約の「親会社保証」(17年2月末現在で6500億円規模)と、WECへの債権(同1756億円)を全額損失として計上。17年3月期の最終損益は1兆100億円の赤字となる見込みだ。日立製作所が09年3月期に計上した7873億円を大きく上回り、国内製造業としては過去最悪となることが確実となった。

 

 WECの破産法適用申請の狙いは、米国で建設中の原発4基に絡み、WECが米電力各社と結んだ「固定価格契約」の見直しを図ることにある。リスクが懸念されて売却先が見つからない事態を避けるためだ。ただ、見直しの是非は裁判所の判断次第。あくまで東芝に「責任の履行」を求める電力会社の逆襲も予想される。

 

「なぜ我々が日本企業を救済しないといけないのか。東芝や日本の銀行のプライドはどこに行ったんだ」。米南部サウスカロライナ州電力協同組合のクルーイック理事長はまくしたてる。WECが建設中のVCサマー原発2、3号機で発電される電力の約3割を購入する最大需要家として、発注元のスキャナ電力に「予算内の原発完成」を求めて圧力をかけてきた。建設費用を電気料金に転嫁できる総括原価方式の下、原発建設に伴い同州の電気料金は既に18%も上昇した。「固定価格契約」は工事遅延に伴うコスト増をWECが負担する内容で、州民にとっては料金上昇を抑える切り札だ。

 

 申請にあたり、トランプ政権からの横やりが心配された。ボーグル原発3、4号機(ジョージア州)の発注元であるジョージア電力などに対し、連邦政府が総額83億ドル(約9000億円)の債務保証を付与しているためだ。しかし、保証が履行され、国民負担になるのはジョージア電力も経営破綻するケース。電力事業を監督する州公共事業委員会が認可すれば、追加のコスト増も料金に転嫁でき、ジョージア電力は無傷でやり過ごせるため、現時点では現実的なリスクではない。地元関係者は「委員会が認可しないことなどない。ジョージア電力は委員選出に大きな影響力を及ぼし、常に意向に沿う決定が行われてきた」と指摘する。

 

 ◇リスク遮断に疑問符

 

 両原発が20年末までに運転を開始しないと優遇税制の対象外となり、電力会社がWECや東芝に損賠賠償を求めるとの懸念も一部で指摘されるが、元州公共委員で現在は弁護士として活動するボビー・ベーカー氏は首を横に振る。「その件ならジョージア電力が連邦議会にロビー活動中だ。かなり高い確率で期限延長が認められる」と見る。民間政治資金監視団体「責任ある政治センター」によると、ジョージア電力の親会社サザン電力は16年にロビー活動費として米業界随一の1390万ドル(約15億円)を投じ、首都ワシントンでも強力な政治力を誇る。

 

 この政治力が東芝の再建を左右する展開もあり得る。申請当日の3月29日、東京に乗り込んだサザン電力のトム・ファニング最高経営責任者(CEO)は米メディアに「東芝との約束は金融上、事業上だけでなく、道義上のものでもあった。約束の貫徹を期待する」と述べ、東芝の責任を追及する構えを見せた。トランプ政権が動くとすれば、電力会社が州政府も巻き込んで政治力をフル回転させた時だろう。WECを裁判所に駆け込ませたとしても「海外の原発事業は撤退と言える。リスクはほぼなくなった」(東芝の綱川智社長)とは言い難い情勢だ。

 

 東芝は17年3月期、返済が不要な資金「株主資本」が6200億円のマイナスとなる見込み。3月30日の臨時株主総会で半導体事業の分社化の承認を得て、株式の過半数売却も視野に2兆円規模の資金を調達し、債務超過状態を解消する方針だ。

 

 しかし、道筋は見えない。綱川社長は3月29日の記者会見で、米電力会社からの損害賠償訴訟による追加損失について「電力会社に説明を尽くして良好な関係にある。親会社保証契約に従った最大額を計上しており、これ以上はあり得ない」と否定したものの、裁判所や取引先がどう判断するかは予断を許さない。

 

 また、分社した半導体事業が期待通りの高値で売却できる保証はない。政府は海外への技術流出を警戒し、中国や台湾の企業が売却先になった場合、外為法に基づいて中止や見直しを勧告することを検討しているとされる。売却先が限定されることで期待した金額に達しなければ、債務超過解消後も財務基盤は脆弱(ぜいじゃく)なままだ。

 

 2度延期している16年4~12月期連結決算の発表期限を4月11日に迎える。営業利益で20年3月期に2100億円の黒字という「V字回復」シナリオを描くものの、綱渡りの情勢が続く。

(清水憲司・毎日新聞北米総局記者、酒井雅浩・編集部)