特集:人手不足ですが何か? 2017年4月18日号

自動化が進むリンガーハットの厨房
自動化が進むリンガーハットの厨房

◇バブル期並みの水準

◇自動化と職場改善で解消

 

「オーダー入りました!」

 3月30日正午前、東京都大田区のJR大森駅近くにあるリンガーハット大森店ではホール担当の店員から大きな声が飛んだ。お昼時の店内はほぼ満席。木原兼士店長(43)は厨房(ちゅうぼう)内の機械に表示された注文を見て、看板メニューの長崎ちゃんぽんを四つの鍋で同時に作り始めた。

 

 かつては大きな中華鍋で4人前を一気に作っていた。このため、味にムラが出ることがあり、調理担当者が腱鞘炎(けんしょうえん)になることも多かったという。現在は、4個のIHヒーター上に設置された「自動鍋送り機」により、調理担当者が鍋を移動させなくても、具材が入った鍋が約35秒ごとに右から左に移っていくシステムが導入されている。

 

 

 木原店長はまず、一番右端のIHの上に魚介類や野菜、スープを入れた鍋を置いた。自動で左隣のIH上に鍋が移り、煮込みを続行。3番目のIH上では、別の機械で解凍した麺を入れてさらに煮込み、左端のIH上に鍋が移動したところで、箸を使って軽く具を混ぜながら仕上げ、どんぶりに移してちゃんぽん1人前ができあがった。3分かからないスピード作業。その合間に焼き上げたギョーザも皿に盛りつけた。

 入社21年目の木原店長は「昔は調理から接客まで一通りできるようになるまで半年かかったが、今のシステムなら30分間教えればできるようになる。厨房にいる人数も減った」と話す。野菜を自動で炒められる機械も設置されており、広報担当者は「自動化により、女性や外国人が働きやすくなったことで、社員を増やさずに対応できている」と話す。

 

 回転ずしチェーン「はま寿司」のウィラ大井店(東京都品川区)では、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」が接客対応している。タッチパネルに人数や希望する席の種類を入力し、空席ができると「発券用紙に書いてある番号のお席にお進みください」とペッパーがアナウンス。店員に案内されることなく、指定した席につくことができる。ただ、勝手がわからず戸惑う客もいるのが課題だ。

 

 はま寿司では、同店を含む首都圏3店舗でペッパーを試験的に導入。これまでは、会計と案内は同じ従業員が担当しており、会計の対応をしてしまうと、すぐに案内できなかったため、客がイライラすることが多かった。だが、ペッパーが案内することにより、会計と案内が同時にできるようになった。運営するゼンショーホールディングスの担当者は「効率よく商品を提供できる技術革新なしではやっていけなくなる」と危機感をあらわにする。

 

 ◇若者のライフスタイル変化

 

 ファミリーレストラン業界は営業時間の短縮を進める。「ガスト」や「バーミヤン」などを運営する「すかいらーく」の広報担当者は客の変化について「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及により、若者が深夜にファミレスに来ておしゃべりしなくなった」と語る。さらに若者のライフスタイルの変化はアルバイトの働き方にも及んでおり、「深夜に働くことを希望するアルバイトが減り、深夜帯にシフトを入れざるを得ない社員に負担がかかっていた」(担当者)ため、「午前2時閉店、同7時開店」を原則として営業時間の見直しを進めている。また、ロイヤルホストを展開するロイヤルホールディングスは1月末に全店で24時間営業を廃止した。

 

 コンビニ業界も人材の確保に必死だ。「セブン─イレブン」を運営するセブン&アイホールディングスは2014年から、それまでは個別店舗に任せていたアルバイトの採用を、一括対応するためのコールセンターをオープン。応募者が希望する店舗での面接などの日程調整をしている。担当者は「応募者が店舗に直接問い合わせても、店員が少ないために対応が遅れることも多く、その間に他の店に人材を取られることもあった。一括対応で、確実に人材を確保できるようになった」と話す。

 

 ◇面接で会社が選ばれる

 

 日銀が4月3日に発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)の雇用人員判断では、「過剰」から「不足」を差し引いたDI(業況判断指数)が全規模・全産業でマイナス25を記録し、約25年ぶりの低水準となった。また、2月の完全失業率も22年8カ月ぶりの水準となる2・8%まで低下する一方、有効求人倍率(季節調整値)は1・43倍で、1991年7月以来の高い水準が続いている。

 25年に583万人の労働力が不足する──。

 

 労働市場や企業の人材マネジメントについて調査・研究する「パーソル総合研究所」が16年に発表した試算では、こんな結果が出ている。25年までに0・8%の経済成長率を維持したと仮定して推計。6484万人の需要に対し、供給は5901万人にとどまる。

 

 業種別の人手不足数は、情報通信・サービス業が最多の482万人。今後もIT関連企業のなどの成長が続き、エンジニアなどが大量に不足する可能性が高いという。次いで卸売・小売業の188万人。多様な業種の求人が増え、以前はこの業界で働いていたアルバイトやパートが他の業種に移りやすくなったことなどが影響している。

 同研究所は人手不足の解消に向けた方策として「生産性の向上」「女性・シニア・外国人の雇用促進」を挙げる。特に企業は「働く人から選ばれる存在とならなければ、生き残っていくことは難しい」と指摘する。

 

 労働者から「選ばれる企業」となるための取り組みも始まっている。

 

 総合商社の豊田通商は4月から、管理職への登用や国内外の転勤がある「担当職」(総合職)と、転勤しない代わり管理職にならない「業務職」(一般職)という職種を廃止し、新たに担当職を「グローバル職」、業務職を「地域限定職」にする新人事制度を導入した。転勤の有無の区別はこれまでと同様だが、地域限定職でも管理職に登用できるようにした。また、子育てや介護などの社員の事情に応じて、職種間の移動もできる。担当者は「ライフステージによる人材の流出を防ぎ、長期的にキャリアを積めるようにした」と説明する。

 

 業務用食品メーカー「ケンコーマヨネーズ」は現在「24時間フル稼働」に近い状態の工場の稼働時間を「午前8時~午後5時」にする体制を目指している。総額150億円強を投じて新増設する国内4工場は、増え続ける業務用総菜への需要に応えるのが主な目的だが、炭井孝志社長は「長時間労働が嫌だから、工場を新増設する意味合いもある。朝一番から働く人間は、夕方以降も力を発揮することはできない」と話す。

 

 労働力の中心となる生産年齢人口(15~64歳)はピーク時の95年(8726万人)から約1000万人減り、15年には7728万人となった。さらに25年には7084万人まで減少すると推計されている。

 マクロでの人手不足は避けられない状況となるが、日本人事経営研究室の山元浩二社長は「10人が10%生産性を上げれば、1人分の仕事ができる。まだまだ生産性を上げられる企業は多い。明確な経営計画と社員の教育システムをつくって働きがいのある職場にすれば、その企業の人手不足は解消できる」と指摘する。

 

 今後は「面接で会社が選ばれる時代になる」(シンクタンク研究員)かもしれない。企業は「魅力ある職場」をつくることができれば、人手不足経済の中で生き残れるだろう。

(松本惇・編集部)

週刊エコノミスト2017年4月18日号

発売日:2017年4月10日

特別定価:670円


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