第46回 福島後の未来:日本の原発政策 北朝鮮の脅威を直視せよ=村沢義久 2017年5月2・9日号

◇むらさわ・よしひさ  1948年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学MBA。米国系コンサルティング会社日本代表、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデントなどを経て、2005年から10年まで東京大学特任教授。13年4月から16年3月まで立命館大学大学院客員教授。
◇むらさわ・よしひさ  1948年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学MBA。米国系コンサルティング会社日本代表、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデントなどを経て、2005年から10年まで東京大学特任教授。13年4月から16年3月まで立命館大学大学院客員教授。

村沢義久(環境経営コンサルタント)

北朝鮮情勢がにわかに緊迫している。米海軍当局は4月8日、原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群を朝鮮半島近海に派遣したことを明らかにした。このため韓国内では「米軍が4月27日に北朝鮮を空爆する」とのうわさまで飛び出した。

 

 今回の危機の原因は、北朝鮮が昨年来ミサイル発射を続けていることだ。トランプ大統領就任後初めて発射した2月12日以来、異常な頻度で続けており、4月16日午前にも弾道ミサイル1発を発射した。北朝鮮の一連の挑発行為に対し、米国は「あらゆる選択肢を検討する」とし、先制武力行使の可能性も示唆した。

 あまり考えたくもないことだが、仮に米軍が北朝鮮を攻撃した場合、米の同盟国・日本は報復対象になる可能性がある。北朝鮮が日本を狙うとすれば、在日米軍基地や東京などの大都市が想定される。実際、北朝鮮は3月6日、同国西岸から4発の弾道ミサイルを発射し、3発が我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。翌7日には国営メディア朝鮮中央通信が、ミサイルを発射したのは在日米軍基地を攻撃する任務を負った部隊だと伝えた。つまり日本本土が標的になっているのだ。

 

 一連の発射を通じ、北朝鮮のミサイル技術の進歩が著しいことが分かってきている。韓国国家情報院によると、2月12日に発射された新型ミサイル「北極星2」の射程は2000キロ超。北朝鮮南部から発射すれば北方領土から沖縄まで日本全土が射程内になった。

 

 筆者が一番気がかりなのは原子力発電所へのミサイル攻撃だ。原発は言わば巨大な火薬庫だ。日本にはそういう火薬庫が廃炉中のものも含めて60基もあり、その過半数は日本海側にある。実際、北朝鮮は日本の原発への攻撃の可能性に言及しており、2013年4月10日の『労働新聞』(電子版)は「北朝鮮が攻撃すれば広島・長崎の惨事とは比べものにならない被害になる」と報じている。

 

 運転中の四国電力伊方原発(愛媛県)や九州電力川内原発(鹿児島県)、運転停止の仮処分が撤回された関西電力高浜原発(福井県)は、いずれも北朝鮮南部から700~800キロしか離れていない。一番遠い北海道電力泊原発(北海道)でも1200キロ程度だ。意図的な攻撃がなかったとしても極度の緊迫状況の中、現場の暴走や判断ミスで、ミサイルが発射されるリスクも無視できない。

 発射の兆候を探るのも困難になった。筆者が特に注目するのが固体燃料の使用だ。液体燃料は発射前にしか充填(じゅうてん)できず、作業で発射の兆候を察知できた。一方、固体燃料の場合は配置された時点で既に充填されているため、決定から発射までの対応時間が短くなった。

 

 ◇外部攻撃に極めて脆弱

 

 日本に限らず、原発の安全対策は非常に心もとない。原発は原子炉建屋のほか、コントロール、廃棄物処理の各建屋、使用済み燃料貯蔵施設を備える。原子炉建屋の外壁は厚さ1メートル以上の強化コンクリート製で北朝鮮のミサイルでも破壊されないだろうとの見方もある。もっとも本格的な実験データがない(あるいは公表されていない)ので真偽は不明だし、ミサイルに装着された弾頭の種類や当たる角度などで変わるから、強いとは一概に言えないだろう。

 

 しかし他の建物は、はるかに脆弱(ぜいじゃく)で、至近距離での爆発でも壊滅的な打撃を受けることは間違いない。弾道ミサイルの命中精度は低いと言われるが、直撃しなくても近くに落ちただけで建物群が崩壊して電源や制御機能が壊滅し、燃料プールの冷却機能が失われるなどして原発に致命的な事故を引き起こす可能性がある。実際、福島第1原発では、主電源と予備電源、冷却系統の損壊により水素爆発や炉心損傷(メルトダウン)など致命的な事故が起きた。また福島事故時に司令塔となった免震重要棟も、物理的な攻撃には無力だ。

 

 警備面でも驚くほど手薄さが目立つ。地上からの侵入者対策では、警察や警備員による訓練が行われている。しかし想定通りに動く侵入者にしか効果はなく、海からの潜水侵入や、夜間のパラシュート降下には無力だろう。不備は日本だけでなく、スウェーデンでは12年、国際環境保護団体「グリーンピース」の活動家たちが核施設に侵入する事件が起こった。活動家らは原子炉を取り囲むフェンスを剥がして侵入し、原子炉の屋根の上で一晩中、身を隠した。14年にはグリーンピースの別の活動家グループがドイツとの国境に近いフランスの原発に侵入し、原子炉建屋に横断幕を掲げた。 

 

 各国の原子力関係者は、01年9月の米同時多発テロ以降、原発に対する外部の攻撃可能性に注目するようになった。米原子力規制委員会は09年2月、規制のハードルを引き上げ、原発新設にあたっては、航空機などが直撃した場合でも原発建屋や原子炉格納容器が破壊されずに放射能を閉じ込め、安全性を確保する設計を求めた。さらに福島事故後は、メルトダウンに関するシミュレーションを行い、事故やテロに備えた安全保障の見直しが行われることになった。フランスでも携行式ロケット発射機(RPG)による強化コンクリートの貫通テストなどを行った。弾道ミサイルの破壊力は桁違いで、参考にならないとの声もあるが、懸念の裏返しと言えるだろう。また16年3月の過激派組織「イスラム国」(IS)によるベルギーの首都ブリュッセル攻撃では、襲撃者たちが核関連で事件を起こそうとしていた証拠があるなど、懸念は続いている。

 

 ◇現実を直視した議論を 

 

 世界各国が原発に対して慎重になる中、日本国内の原発は外部からの攻撃に対しては無力なままだ。福島事故後、国は13年7月に新規制基準を定めた。地震と津波に対しては耐力が高くなったようだが、外部攻撃に対する対策は盛り込まれていない。安倍晋三首相や菅義偉官房長官は「世界一厳しい規制基準」と自賛するが、それは間違いだ。再稼働の審査基準となる新規制は、朝鮮半島情勢が緊迫している現在、「欠陥基準」であることは明らかだ。

 

 にもかかわらず、原発への外部攻撃を危惧する意識が政府や国民の間で高まっていない。15年7月の参院特別委員会で山本太郎議員が「川内原発で稼働中の原子炉が弾道ミサイルなどの直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定しているのか」と質問した。これに対し原子力規制委員会の田中俊一委員長は「弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない」と答弁した。あまりにも無責任だ。

 

 政府だけでなく、大手メディアもこの問題を取り上げておらず、正面から向き合っているとは思えない。政府からの圧力があるのか、あるいは、メディア側が「そんたく」しているのかと勘ぐりたくなる。

 

 むやみに危機感をあおる必要はない。しかし「日本の火薬庫」原発への脅威は常に想定しなければならない。

(村沢義久・環境経営コンサルタント)

………………………………………………………………………………………………………