【はたらく女子伝説】翁百合×大槻奈那×尾河眞樹 金融女子座談会 

個々を尊重した自由な働き方が必要

仕事と出産、双方実現できる社会を

 

 働く女性が、子育てをしながらキャリアを形成するために必要なものは何か。男性社会でキャリアを築いてきた翁百合(日本総合研究所副理事長)、大槻奈那(マネックス証券チーフ・アナリスト)、尾河眞樹(ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部長)の3人の女性エコノミストが語った。

── 現在の働く女性が置かれている環境は、昔と比べてどうですか。

 私が日本銀行に入行した当時は、女性総合職は珍しい存在でした。まるで宇宙人を見るかのように「結婚したらどうするの」と聞く人もいました。今は女性が働くことが当然ですから、隔世の感がありますね。大槻 私が三井信託銀行(現三井住友信託銀行)に入行した頃も、同じようなことを平気で聞かれましたね。今はM字カーブ(結婚・出産・育児期に女性の労働力が低下する現象)も少しずつ改善して、安倍政権になって以降は、女性活躍推進や働き方改革も浸透し始めているので、昔の何もなかった頃に比べれば、環境は良くなっていると感じます。

── 仕事内容も男性とは違いましたか。

翁 幸い、仕事は男女関係なく与えられました。私がいた当時の日銀の調査統計局は残業が特に多い部署で、終電ごろまで皆仕事するのが文化でもありました。日々の仕事に加えて、勉強の時間も確保しなければならないので、足りない時間は睡眠時間を削っていましたね。

大槻 私も外資系証券会社にいた頃は、寝る間を惜しんで働きました。朝5時に出社したら、すぐに超ハイテンションでニューヨークとロンドンに電話をかけまくる日々です。睡眠時間は平均3時間、土日がないのは当たり前で、決算期になればほぼ毎日徹夜です。会社で寝袋で寝ることもありました(笑)。当時はメディアによるアナリストランキングの他に、毎期お客様にランク付けもされるので、評価を落とさないようにと日々必死でした。

尾河 私も外資系銀行が長かったので、成果重視で男性も女性も関係なくばりばり働きました。結果的に睡眠時間は短くなりましたが、私は独身なので、家事の負担が少なく仕事にまい進できました。翁さんや大槻さんのように結婚して家庭を持ち、家事をこなしながら仕事でも成功されている方は本当に尊敬します。どうやって両立したのですか?

  私が出産したのは日本総合研究所に転職した後でしたが、日本総研は裁量労働制で時間にあまり縛られず仕事ができたので、仕事と育児が両立しやすい環境でした。

 特に子どもが小さい頃は、朝夕医者に連れて行くことが多く、本当に助かりました。私の場合、夫が家事・育児を随分手伝ってくれましたし、義母が背中を押してくれたこともあり、子どもが保育園に入る時に会社の近くに引っ越したことも、両立できた大きな要因です。通勤時間を大幅に短縮でき、仕事の合間に抜けてPTAの会合などに参加したりもできました。

大槻 女性が子育てしながらキャリアを築こうと思ったら、家族の支えや会社の理解は不可欠ですね。結婚相手となる男性は、「理解がある」というレベルではなく「違う目標を持って一緒に頑張っている女性が好き」くらいの男性でないと、長くは続きません。デートの段階で「妻にずっと家にいてほしい」なんて言われたら、その時点でアウトです(笑)。

── 女性の社会進出が進んだとはいえ、今は子育てと仕事を両立できる働きやすい社会といえますか。

翁 昔に比べれば働きやすくなったと思いますが、総合職と一般職という採用形態がいまだに残っているように、まだ企業の根っこには、男女を区別する文化が残っていると感じます。企業としても、女性の結婚後の離職リスクは考えなければならないので、なかなか大きな仕事を任せられないのでしょう。

翁百合

(日本総合研究所副理事長)

1982年慶応義塾大学経済学部卒業。84年慶応義塾大学大学院修士課程修了後、日本銀行入行。92年日本総合研究所入社、主席研究員などを経て、2014年より現職。この間、03年産業再生機構非常勤取締役兼産業再生委員、13年規制改革会議・健康医療ワーキンググループ座長などを歴任。京都大学博士(経済学)、慶応義塾大学特別招聘教授兼任。


 

◇「生意気」とみられる風潮

 

尾河 私の周りでも、ある会社で一般職で入社した女性が総合職試験を受けようとしたら、「あなたは一般職で入社したのだから、スーパーアシスタントを目指してください」と言われたという話を聞いたことがあります。

大槻 女性が何かを主張したり反対意見を言うと、世間一般的には生意気だと思われる風潮もいまだにありますよね。実力通りに「できます」と言うと、昇進に不利になると感じている女性は多いです。だから女性は、大きな仕事や昇進の話が来ても「私にできるか分かりませんが」とへりくだる傾向にありますよね。結果として、女性は実力より少し下のレベルのことまでしかさせてもらえない。

そうしていろんなことに挑戦しなくなると、失敗を恐れたり人目を気にする傾向も強くなります。

 アナリストの世界でも、ランキングにさらされる株式分析などの部門では極端に女性が少ない。人に評価されてランキングを付けられることを嫌がる傾向が強いことが一因だと思います。そうしていろんなことに挑戦しなくなると、失敗を恐れたり人目を気にする傾向も強くなります。アナリストの世界でも、ランキングにさらされる株式分析などの部門では極端に女性が少ない。人に評価されてランキングを付けられることを嫌がる傾向が強いことが一因だと思います。

尾河眞樹(ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部長)

ファースト・シカゴ銀行、JPモルガンなどの為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。16年8月より現職。

尾河 統計的にみても、男性より女性の方が自己評価も低いそうですね。しかし、上司からするといざ仕事を任せようとした時に自信のない反応が返ってきたら、「やっぱり女性には任せられない」と思うのも無理はありません。

 一般的に女性は横並びの仲間意識も強く、一人だけ昇進して嫌われたくないという面もあるようです。仮に昇進しても、部下に厳しいことを言わなければいけない時もあり、上に立つのも楽ではありません。そのため、昇進に積極的になれない女性が多いのも事実です。

── 男性だけでなく、女性の意識も変わらないといけない。

尾河 そうですね。そういう女性特有の傾向が徐々に変わり、女性が昇進や大きな仕事の話にもどんどん挑戦していく社会になってほしいです。そうしなければ、キャリアを築こうと頑張っている次の世代に続いていきませんから。

 

◇狭い「女性枠」の奪い合い

 

── 女性管理職の割合の低さにも、男女共に根強く残る高度経済成長期の価値観が表れています。

尾河 そうですね。管理職への道を諦めている女性も多いです。キャリアを築こうと頑張っている女性でも、周りに前例が少ないために、実際に自分が役員に昇進するような、現実感のある高い目標や自信を持てないんですね。 


大槻 まずは、企業が目標とする女性管理職の比率をもっと高く設定ししてほしいですよね。女性管理職を最低1人とか、そんな低い目標では現実感のある目標は持てないどころか、「女性枠」という一つの椅子を奪い合う、小さなパイの中での狭い競争が起きてしまいます。

「枠」が狭いと、誰が昇進するのかも大体分かり、お手本にしたくない人が昇進することもあり得ます。そうすると、下の世代は失望してますます未来を描けなくなることも考えられます。企業が思い切って高い目標を置いて、多様性のある、いろんなタイプの女性管理職を登用することが必要です。

尾河 評価の仕組みを明確にするのも効果的ですね。職場全体がその人の評価を認識して納得していれば、誰も文句は言わないと思います。

── キャリアを築けても、育児との両立は難しい現状もあります。

尾河 やはり企業の考え方が重要だと思います。前職のシティバンク銀行は本社の1階に託児所を設けていて、多くの子育て社員が利用していました。企業がそうやって会社としての考え方を示すことで、育児休暇を取得する社員や、短時間勤務制度を利用する社員への理解も職場全体で進むと思います。

 安心して子どもを預けられる保育の場所があることは、育児と仕事の両立の大前提になります。若い世代は皆そこを不安に感じているので、保育の量と質の拡充が急務だと思います。

大槻 育休の取得がキャリアの妨げにならないような職場作りも必要です。例えば、ある企業は、メンタルヘルスに問題がありそうな社員を大学などに派遣留学させたりしますが、復職時も階級を維持する制度となっているようです。では、社員が1年間育休を取った場合も同じかというと、なぜか違います。休職扱いになって階級も維持されない。これは非常におかしな話です。少なくとも階級は維持するべきでしょう。

 育休中に仕事から離れすぎてしまうことを会社が懸念するのなら、今はIT技術でどこからでも会議に参加できます。そうした形で補って、復職時に階級や役職を継続する方法はあると思います。

尾河 管理職で責任ある立場の社員が1年間育休を取るとなれば、企業はその社員が担っていた分の仕事をそのままにしておくわけにもいきません。この場合、全く同じポジションを用意するのはなかなか難しく、企業としては悩ましいところです。この問題については、今後考えていく必要がありますね。

 男性の育休取得も浸透させるべきです。女性も社会に出て働く以上、これからは夫婦一緒に子育ても家事もする時代です。その意味で、男性が一日中育児をするという時期は必ずあった方がよいと思います。

── アプローチはさまざまありますが、女性が仕事と育児を両立するために最も必要な解決策は何ですか。

 身をもって感じているのは、やはり時間に縛られない柔軟な働き方ができることではないでしょうか。ただ、それだけでは駄目で、家族や職場のサポート、企業が高い目標を掲げ女性を責任あるポジションに登用することも必要です。何か一つだけ強化して解決できるものではなく、同時に多面的な取り組みを行うことだと思います。

尾河 確かに、今日本企業の多くは、パソコン(PC)の稼働状況で離席時間を把握したり、家で仕事する場合もPCに備えられたカメラで確認したり、社員を四六時中監視しているような状況です。しかし、そうやって社員を時間で管理しているうちは、子育てと仕事の両立も長時間労働の是正も、根本的改善は難しいと思います。時間ではなく成果で社員を管理すれば、男女の区別なく時間に縛られずに働くことができ、生産性も向上するのではないでしょうか。

大槻 同感です。定時になると強制的にPCの電源を落としたりして長時間労働の改善を図る企業もありますが、働く意欲のある人や仕事を抱えている人にとっては不便でしかありません。労働時間を無理に減らすより、個々の考え方や生活スタイルを尊重した多様な働き方を目指すべきだと思います。

◇「出産を諦めないで」

 

── 最後に、キャリアを築こうと頑張っている女性や、仕事と育児の両立に直面する女性に向けて、アドバイスをお願いします。

 男性と同様にキャリアを形成するうえでは、得意分野を作り実績を重ねていくことが第一歩になると思います。そして、自分には少し厳しいかなと思っても、その時しか経験できない仕事には挑戦してほしいです。子育て中は時間的制約が常にあり、大変な時期もありましたが、私もそうした姿勢で仕事に取り組んできました。

 振り返ってみても、子育てから学ぶことは多く、社内外のさまざまな責任ある仕事を経験できたことも、自分自身の視野を広げ、成長につながったと感じています。悩んでいる人に、長い目で考えて両立に向けて頑張ってみて、と背中を押してあげるのが私たち世代の役目だと思います。

尾河 私は振り返ると、迷ったり悩んだりしたら必ず苦労する道を選んできました。ファースト・シカゴ銀行時代にロンドンに赴任することになった時も、慣れないことばかりで最初は後悔もしましたが、今思えばその時の選択が全て自分の肥やしになってきました。

 今若い世代の女性が悩んでいたら、意外と大変な道を選んだ方が、良かったと思える日が来ると言いたいです。

 

大槻奈那

(マネックス証券チーフ・アナリスト)

東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールでMBA取得。三井信託銀行(現三井住友信託銀行)入行。スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務を経て、2016年1月より現職。現在、名古屋商科大学経済学部教授、財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理運用アドバイザリーボード委員などを兼任。


大槻 私も、自分の選択の結果、苦労を経験したことも多々ありました。しかし、自分に負荷をかければ、成長できる機会もあると思います。

 そしてやはり、自分の最愛のものを、一生をかけて築いてほしいです。私は子どもという、女性として、人としておそらく最愛のものを得ることができませんでした。仕事にまい進する中で、その時々は最良の選択と信じて進んできましたが、仕事に脂が乗り責任も増す中、子育てに数年時間を取られることを考えると、踏み切る勇気がなかったんですね。

 だから政府や企業は、女性が子どもを産むという選択肢を取りやすい環境をさまざまな形で支援してほしいと強く思います。今はIT技術や短時間勤務制度を利用して、バランスを取る方法がたくさんあります。育休の数年間は長いキャリアでみればあっという間です。女性は、子どもを産むことを選択肢の一つとして持っていてほしいです。

(聞き手=荒木宏香・編集部)