経営者:編集長インタビュー 新田信行 第一勧業信用組合理事長

◇「人物中心」の融資で創業と地方を支援

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな信用組合ですか。

 

新田 東京23区内に22の支店と四つの出張所があります。預金が3300億円に対して、貸金は2400億円で、預貸率は75%と高い水準です。地域に密着した金融機関です。年間300の地域のお祭りや盆踊りに私も含めて参加しています。そのため、土日の予定が全て埋まっています。お祭りに参加するため、ポップコーン製造機や綿あめ製造機を所有しています。「お祭り組合」と言ってよいかもしれません。

 

── 強い地域は。

 

新田 世田谷、練馬、杉並以外は全てカバーしています。対象エリアは飲食街や商店街などです。顧客は小規模事業主、個人事業主、業態は料亭、居酒屋、飲食店が結構あります。

 

── どのような事業をしているのですか。

 

新田 当組合の三つの基本方針の一つに、「人とコミュニティの金融」を掲げています。融資には三つのやり方があります。一つ目は決算書から財務分析をして格付けをする。二つ目は、ノンバンクや質屋のように担保を取る。三つ目が人を見て貸す、です。私たちは信用供与の源泉が格付けでもなく、担保でもなく、フェイストゥフェイスの人間関係がベースになっています。

 

── 何で評価しますか。

 

新田 人と事業を徹底的に見ます。他の金融機関からは、「格付けもせず、担保も取らずによく融資をしますね」と言われますが、私からすると、「社長に会わず、工場も見ないでどうやってお金を貸すのですか」ということです。信用組合のお金は組合員のものですからリスクは取れません。ひたすら汗をかいて、社長や工場や製品・サービスを見るしかありません。

 

── 融資例を教えてください。

 

新田 コミュニティローンが280くらいあります。例えば東京23区内にある六つの花街向けの「芸者さんローン」があります。また、「亀有商店街ローン」や「巣鴨町内会ローン」などもあります。特徴はそれぞれのローンに必ず固有名詞が付くことです。それぞれの商店街や町内会の組合長や会長が、当組合の出資者の代表である総代をしています。ある意味、会員制のクラブです。会員の紹介が無いと当組合には入れません。

 

── 不良債権になる恐れはありませんか。

 

新田 格付けは過去の決算書に基づきます。しかし、私たちが知りたいのは未来の業績です。だから、当組合と他の金融機関では与信判断が変わります。私が就任時に67%だった預貸率が75%まで上昇しているのは、他の金融機関で否決された貸し出しを実行しているためです。しかし、人をよく見ていますから、この4年間、当組合では不良債権がほとんど発生していません。芸者さんローンであれば、6人の芸者組合のトップが全部自分の配下の芸者のことを知っているわけです。

 

 ◇創業加速で支援

 

── 創業向けの融資は。

 

新田 背景には、日本の資金循環が非常に悪いことに対する危機感があります。お金を持っているのはシニアですが、お金を使いたいのは若者です。創業者ローンではまだ決算書も担保もない創業者に融資します。昨年1年間で150件、残高で10億円を実行しました。この件数は日本の金融機関でトップです。当組合の融資に並行して日本政策金融公庫も同額の融資を実行します。また、創業期は赤字になりますから、創業ファンドで出資もします。

 

── 資金面以外の支援は。

 

新田 創業者はアイデアは良くても、法律家、税理士、販売先などの事業ツールは持っていません。そこで、当組合がメンターとなりスポーツジムの「ライザップ」のように短期間で立ち上げを指導します。そのために昨年「東京アクセレータープログラム」を開催し、113件の応募に対して、最終的に9件を支援しました。

 その中の一つにお祭りで日本を元気にするベンチャーの「オマツリジャパン」があります。代表の加藤優子さんには私のネットワークでお祭りをしている町内会長を紹介して、1カ月で全てを回るようにアドバイスしました。

 

── 地方連携の取り組みは。

 

新田 「量から質」の金融を目指します。質とは付加価値のことですが、これは未来志向の連携の中でしか生まれません。だから、志を同じくする人には連携を呼び掛けています。東京税理士会や東京行政書士会、東京理科大学などです。地方は、北海道から岡山まで18の信用組合と連携しており、まもなく19に増えます。一生懸命地域を良くしよう、中小企業を支え、若者や女性を応援しようという志です。秋田県信用組合はドジョウの養殖やニンニクの栽培をするベンチャーを支援しましたが、これを手掛けているのは地元の若い建設業者です。地方創生と創業支援は切っても切れない関係にあります。

 

── 人材育成は。

 

新田 若手職員向けに相談員制度を創設しました。六つの分野で専門性を磨きます。制度導入から3年で、融資の目利きができる事業金融相談員は40人ほどとなりました。

 

── 足元の業績は。

 

新田 私が理事長に就任する前は経常利益は1億円台でしたが、平成27年度は12億円を超えました。不良債権の比率もこの4年間で10%から5%まで低下しました。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1985年のプラザ合意後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)で海運業界を担当していたので、不良債権の処理で大変でした。

Q 「私を変えた本」は

A デール・カーネギーの『道は開ける』です。不良債権処理で追い込まれたときに読み、頑張ろうという気になりました。

Q 休日の過ごし方

A 仕事です。お祭りや花見で人に会い続けています。

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 ■人物略歴

 ◇にった・のぶゆき

 1956年生まれ。千葉県出身。千葉高校、一橋大学法学部卒業。1981年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2011年みずほ銀行常務執行役員、13年第一勧業信用組合理事長に就任。60歳。

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事業内容:金融業

本店所在地:東京都新宿区

設立:1965年5月

出資金:113億円

役職員数:364人(2015年度末)

業績(2015年度)

 経常収益:67億円

 純利益:15億円