特集:有機EL・半導体バブル 2017年6月13日号

◇スマホ画面の主役が交代

◇投資ブームに火がついた

 

「有機EL投資ブームに火がついた。工程上、有機ELは液晶よりパネル製造装置を数倍多く使う。装置メーカーは関連投資で恩恵を受け活況だ」。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、こう指摘する。

 

 ローツェ(証券番号6323)、アルバック(同6728)、ブイ・テクノロジー(同7717)──。ディスプレーパネル製造装置株が、今年に入って相次いで上場来高値を更新した(株式分割を考慮したベース)。株高を支えるのは、相次ぐ装置受注や好調な業績だ。各社は、受注案件の納入先や装置の種類など詳細を開示していないが、市場では「有機ELパネルメーカーからの旺盛な受注」というのが一致した見方だ。

 

 ◇新型アイフォーンが採用

 

 有機ELパネルメーカーは昨年来、巨額の設備投資に動いている。特に、量産体制を確立している韓国2強は驚異的な額をつぎ込む。サムスンディスプレイの今年の有機EL投資は、10兆ウォン(約1兆円)に上るとささやかれる。LGディスプレイも、坡州(パジュ)工場での有機ELライン増設に約2兆ウォン(約2000億円)を投じることを発表するなど、こちらも総額10兆ウォン(約1兆円)の設備投資がささやかれる。新産業育成を国策とする中国でもパネル工場新設が相次ぐ。

 

 有機ELの活況を演出しているのは、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」だ。今秋発売の新型アイフォーンのうち高級モデルへの採用が決まっている。今年4月、サムスンディスプレイに7000万枚を注文したというニュースが世界を駆け巡った。

 

 みずほ銀行産業調査部の調べでは、今年の有機ELディスプレー出荷見込み額は、前年比26%増の210億7500万ドル(約2兆3400億円)に達する。その87%を占めるのはスマートフォン向けだ。

 サムスン電子や中国オッポなど、有機ELを採用したスマホは既に存在する。しかし、アップルが採用すれば一気に他機種へ波及する。調査会社IHSグローバルの早瀬宏上席アナリストは「今年はスマホディスプレーの主役交代期。ハイエンド(高級品)機種で液晶から有機ELへの転換が加速する」と指摘する。

 

 現在、スマホ用有機ELパネルを量産できるのは、サムスンディスプレイとLGディスプレイのみだ。このうちサムスンディスプレイは世界でいち早く量産に成功した先駆者で、グループ内のサムスン電子のスマートフォンにもパネルを供給してきた。サムスンディスプレイが新型アイフォーンに独占供給できるのは、LGの量産技術が、発売時期である今秋までに間に合わなかったたためとみられる。

 

 ただし、アップルにすれば部品は複数社から調達するのが基本路線だ。さらにスマホ端末でライバル関係にあるサムスンディスプレイのみにパネル生産を委託したくないのが本音だろう。そこで来年以降は量産技術が確立しつつあるLGディスプレイにも発注するとみられる。両社は巨額投資によって、アップルと追随する他スマホメーカーの需要に応える。

 

 ◇パネルは韓国2強

 

 こうしたスマホ需要急増を見越して、日本のジャパンディスプレイ(JDI)や中国BOEや天馬微電子、台湾AUOなども研究・開発には着手しているが、量産にはいたっていない。みずほ銀行産業調査部の益子博行調査役は「有機ELは標準的な量産方法が確立していない。試行錯誤と努力で量産ラインを築いた韓国2強は、秘伝とも言える量産方法を門外不出としている。他社が巨額投資しても安易に追いつけるものではない」と指摘する。

 

 技術が汎用(はんよう)品化した液晶の場合、製造装置を設置すればラインである程度の品質の完成品ができる。装置のカギをひねればすぐに商用に量産できる「フルターンキー」状態だ。

 

 これに対して、有機ELは、材料同士の相性、材料と装置の相性があり、組み合わせや温湿度などをラインに乗せて調整しなければならない。新規参入組は、いわば手焼きせんべいを焼いている状態で、今後、いかにせんべいの品質をそろえて大量生産できるかがカギになる。この点が10年以上前からソニーやパナソニック、JDIが取り組んでも達成できなかったことだ。

 

 一方でサムスンディスプレイは、装置メーカーのキヤノントッキと組んで、コツコツと量産体制を築き、2007年から量産を開始した。JDI、中国勢、台湾勢は韓国の世界2強に追いつこうと猛烈に研究・開発を進めている。

 

 ◇装置・材料が強みの日本勢

 

 パネルでは「先行する韓国2強と、追う中国・台湾・日本勢」という構図だが、存在感を示すのは日本の装置・部材・材料メーカーだ。有機EL材料を吹き付ける蒸着装置(22ページ参照)は、信頼できる製品・サービスを提供できるのは世界でキヤノントッキ、アルバックの日本勢2社ぐらいと言われる。両社の製品は、引く手あまたで入手困難だ。特にキヤノントッキはサムスンディスプレイの量産体制を築いた功労者として人気が高い。

 

 部材・材料では、旺盛な需要を見込んで増産計画が相次ぐ。住友化学は18年1月から、タッチセンサーの需要増を見越して韓国の拠点を3倍強増強することを決めた。出光興産も、韓国の発光材料の製造拠点を増強して、生産能力を年間5トンから8トンに引き上げる。17年度上期の完工を目指す。

 

 この投資ブームは、いつまで続くのか。ディスプレイサプライチェーンコンサルタンツの田村喜男氏は「まだ技術開発の余地があり、25年まで投資ブームは続くのではないか」と予想する。有機ELは現在は低消費電力や薄さ、高画質を売り物にしているが、今後も「折りたたみ式スマホ」を見込んだ技術開発が進むというのが理由だ。技術開発の過程では材料・部材・装置・パネルメーカーなどあらゆるメーカーがかかわる。

 

 ディスプレー業界には、液晶で10年代前半、中国勢の相次ぐ参入で価格競争に陥った苦い経験がある。材料からパネルメーカーまでのサプライチェーン全体が利益の取れなくなった後遺症は、今も日本勢に残る。有機ELの投資ブームで「バブルの宴(うたげ)」を謳歌(おうか)し続けようとするならば、不断の技術革新とコスト管理が求められている。

(種市房子・編集部)

週刊エコノミスト 2017年6月5日号

定価:620円

発売日:2017年6月5日


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