第48回 福島後の未来:発電施設導入の総合評価で消費者の負担適正化を=荻本和彦 

1956年福岡県生まれ。東京大学工学部電気電子工学科卒業。79年に電源開発(Jパワー)に入社し、直流送電、電力系統解析、太陽光発電・風力発電などの技術研究開発、技術戦略などに従事。2008年から東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター特任教授。
1956年福岡県生まれ。東京大学工学部電気電子工学科卒業。79年に電源開発(Jパワー)に入社し、直流送電、電力系統解析、太陽光発電・風力発電などの技術研究開発、技術戦略などに従事。2008年から東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター特任教授。

荻本和彦・東京大学生産技術研究所特任教授

 

日本のエネルギー政策は残念ながら、消費者に恩恵をもたらす(1)安価なこと(2)安定的なこと(3)持続可能であること──という三つの原点がなおざりにされがちだ。というのも、政策を決定する場でエネルギー供給側の影響力が強すぎ、消費者の本当の利益を代表できる議論が少ないからだ。この三つの原点を踏まえないと結局、消費者は電気料金や賦課金などで過剰な負担を強いられる。

 

 消費者側が適切な負担でエネルギーを得るための方策はあるのか。

 

 

 インテグレーションスタディー(新たな発電施設と運用対策導入に関する総合評価)を用いれば、三つの原点から離れることなく、電源導入による社会全体のコスト負担や影響を解析できる。インテグレーションスタディーとは、発電した電気が消費者に届けられるまでに必要なあらゆるコストや安定供給の影響を導き出す考え方だ。ある電源を導入する場合、土地代などを含めた設置コストのほか、その地域の送電系統網への新たな投資額など、発電事業者の負担だけでなく社会全体での負担も試算する。

 

 

 例えば、ある地域に100万キロワットの風力発電所を設置するとしよう。発電所の建設・運用費用だけでなく、接続する送電系統網の増強が必要な場合は全体の増強費用を試算し、送電増強費を一部負担することになる。その地域の住民の電気料金への上乗せ額や、想定する投資回収期間などあらゆる試算を数値化する。また大都市の電力消費地と、設置する発電所との距離が遠くなるごとに、送電線の整備費用がどの程度増えていくかなどを明らかにする。個人の金融に例えると、マンションなどの住宅を購入するうえで、20~35年間の住宅ローンの返済計画をシミュレーションして、一番現実的な物件購入を選択するようなものだ。

 

インテグレーションスタディーで発電施設と運用対策の費用、安定供給、環境性の試算を定量化することで、電源を新たに導入する地域の送電系統網内の各種電源の供給・余剰能力や電力の需給調整能力、さらに地域ごとに特有の送電系統網の運用状況など、さまざまな条件を極力精緻に反映し、将来にわたる経済性や供給の安定性の分析と評価が可能となる。

 

 

 元々、総合評価は、欧州で再生可能エネルギーの導入を検討する試算から始まった。最近では需要を調整するデマンドレスポンスや電気自動車(EV)の蓄電池活用など、新たな技術を反映した場合の試算などを積極的に取り入れている。

 

 ただ現状をみると、政府、消費者、エネルギー企業などあらゆる関係者は発電施設と運用対策導入に伴う総合評価の重要性を理解していない。評価を実施できる人材も、エネルギー分野の研究者のごく一部に限られており、実行されていない。今後の政策決定は、どの部門の関係者も総合評価を活用して、安定供給、社会全体の負担、環境性など客観的な数値に基づいた提言を展開していくことが不可欠であり、ファイナンシャルプランナーのような人材を育成する必要がある。

 

 中でも、送電系統網の整備は総合評価をするうえで大きな要素となる。しかし、日本は10電力会社体制による地域独占の状態であったため、欧州と比べると電力会社間をまたいだ地域間連係が脆弱(ぜいじゃく)で、幅広い送電系統網の運用ができていないといわれている。いわば各電力会社を細い送電系統で結ぶ「串団子」のような形態だ。

 

 背景には、各地域の電力会社が管内での電力の安定供給を図って築き上げた歴史的な供給構造がある。日本の送電系統網は明治時代、山間の水力発電所で製造した電気を東京、大阪、名古屋などの大都市に供給することから始まった。当初の発電源は水力が主要で、火力発電が追随する水主火従だった。戦後、大消費地に近い港湾地域に火力発電所が次々と建設され、さらに原子力発電所の建設が進むにつれて、管内の送電線も整備されていった。その一方で各エリアが必要な電源を確保する原則を踏襲したため、地域間の送電系統の整備は一定水準となった。

 

 ◇脆弱な日本の送電系統網

 

 しかし送電容量が限られるからといって、東日本と西日本を一体とするには莫大(ばくだい)な費用がかかるばかりで現実的ではない。総合評価すると送電系統網の拙速な統合は経済性がよいとはいえない。例えば北海道では、地域全体の電力の需要と供給が一致しにくくなっていることから、風力発電の送電系統網への系統制約が生じている。ただ、系統制約を解消するために、北海道で発電した電力を大消費地の東京まで運ぶには、莫大な送電系統網の増強が必要となり、結局、税金か電気料金により負担は消費者に跳ね返ってしまう。

 

 また、長距離の送電網は、安定面からいえば、地域間をまたぐ大停電を引き起こす問題も考えられる。そもそも欧州は長い歴史の中で今の碁盤状の送電系統網になっていった。日本も長い歴史の中で串団子型になった。

 

 現実的な解決策を探るには、発電施設の配置を含めた総合評価が必要となる。大事なのは、できるだけ消費地の近くに電源をつくり、すでにある設備を有効活用することだ。そうすれば社会全体の負担を抑えることができる。

 

 ◇再生エネでも活用可能

 

 総合評価によって導き出される方策には、廃炉に伴って使われなくなる送電系統網の活用がある。東京電力福島第1原発の廃炉に伴い、福島県阿武隈地域に大型陸上風力発電所をつくって、既設の送電系統網を使えるので、系統制約の問題は起こりにくい。

 

 このほかに、原子力規制委員会は4月19日、4原発5基の廃炉を決定した。いずれも1970年代に運転を開始し、稼働してから40年たっている。また福島原発事故より前に廃炉が認められた中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県御前崎市)や日本原電東海原発(茨城県東海村)などでは廃炉作業が進んでいる。

 

 日本の廃炉時代が本格的に始まっている。廃炉となっても数百万キロワットの電気を大消費地に送るために整備した強靭(きょうじん)な送電線は健在だ。今後、このように原発の廃炉に伴って空きが生じる送電線を再生エネルギーなどの新たな電源に有効活用するのも選択肢の一つだ。

 

(荻本和彦・東京大学生産技術研究所特任教授)