「丸の内の大家」から世界へ 吉田淳一 三菱地所社長

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 オフィスビル、マンション開発大手。2017年3月期の連結営業利益は前年比15・8%増の1925億円で過去最高を更新した。米国、アジアを中心とした海外展開にも力を入れ始めている。

 

── 4月、社長に就任しました。

 

吉田 トップになるとは思っていなかったので、責任の重さをひしひしと感じています。先行き不透明な時代なので、単純な拡大よりも10年後、20年後に会社を支えていく人たちが、自分たちの問題として考えていくことができる環境をつくることが私の役目だと思っています。責任感を持って成し遂げる人に任せていきたいです。

 

── 三菱地所はどんな会社ですか。

 

吉田 明治期に三菱2代目社長の岩崎彌之助が丸の内にあった陸軍の練兵場を購入し、オフィス街をつくろうと開発を始めたのが当社のルーツです。1894(明治27)年に「三菱一号館」が竣工しました。

 現在は、丸の内を中心とした街づくりと、オフィスビルに限らず、アウトレットモールをはじめとした商業施設や物流施設、そしてマンションも手掛け、生活・暮らしに関するすべてのことを扱っています。売り上げ(営業収益)に占める比率は、ビルが全体の43%、住宅が36%です。

 

── 丸の内は東京駅と皇居をつなぐ日本の表玄関です。

 

吉田 丸の内の街づくりは、日本一、東洋一、世界一の街をつくっていくというやりがいや責任感、高い志を持って挑むのにふさわしいプロジェクトだと思っています。

 街づくりでは、長期的視点に立って地域全体で付加価値を高めることを大切にしています。もうかる収益構造を追求する企業もありますが、街を良くすることを大事にするのも重要。これは丸の内以外のプロジェクトでも同様です。

 

── 新しい中期経営計画を発表しました。

 

吉田 20年3月期に営業利益2200億円を目標に掲げました。どんなに社会が変化しても、営業利益で2000億円を安定して稼げる会社にしたいという思いを込めています。やみくもに規模の拡大を追うよりも、三菱地所がやることに価値があるという事業に集中して取り組んでいきたいと考えています。

 

── 中期経営計画では空港のコンセッション(運営の民営化)も今後の事業の一つに加えています。

 

吉田 ぜひやりたい事業の一つです。インバウンド需要を増やすために我々ができることはいろいろあります。単純にハードとして商業施設をつくるだけではなく、文化や伝統を含めた日本の魅力を知っていただく仕掛けを考えています。

 

 ◇ミャンマーで駅前開発

 

── 今後のプロジェクトは。

 

吉田 東京駅そばで進める「常盤橋街区再開発」が最大のプロジェクトです。丸ビルが三つ入る3・1ヘクタールの広大な敷地に、2棟の超高層ビルを建てます。そのうちの一つは、日本一高い約390メートルのビルで、東京を代表するシンボルになります。また再開発によって地上のスペースが広がります。東京駅前の開かれた空間を人の交流の場にして、国際金融拠点として、あるいは新しい企業が生まれていく場としてシンボリックな場所にしたいと考えています。

 

── ビル・マンションの業績は。

 

吉田 丸の内の空室は極めて少ない状況です。丸の内、八重洲、日本橋など再開発を通じて新陳代謝がはかられている地域は新しいテナント需要も伸びていくと考えられるので、新築ビルが開業して貸し付け面積が多少増えても大きな影響はありません。

 住宅は全体として新築マンションの供給戸数が減りつつある中、安心できる企業から買いたいという需要を取り込み、不動産大手のシェアが拡大すると見ています。

 

── 将来の金利上昇をどう見ていますか。

 

吉田 できる限り影響を受けない形で事業を進めていきたいです。期間の長い社債の発行などで借入金利を長期固定化するなど、現在の低金利環境を活用する取り組みを進めています。16年に発行した期間40年の普通社債は、表面利率が0・789%でした。また、新たに土地を取得して開発する事業だけでなく、長期的な視点で進める再開発事業にも取り組むなど、全体として資金運用のバランスに気を配っています。

 

── 海外事業は。

 

吉田 力を入れているのは米国とアジアです。米国は、現地子会社のロックフェラーグループ・インターナショナルがニューヨーク州マンハッタンに保有するビルの大規模リニューアル工事を実施中です。買収した投資マネジメント会社を通じて投資したり、既存のビルの収益性を高める投資をしていきます。

 

── アジアはどうでしょうか。

 

吉田 ミャンマーで三菱商事とともにヤンゴン中央駅周辺の開発に取り組んでいます。長期的には丸の内のような開発をしたいとの思いがあります。

 

── 本社を移転しますね。

 

吉田 下期に「大手町パークビル」に移転するのを機に、自由な発想で仕事に取り組めるオフィスにしたいと考えています。中心に階段を設けるなど部署を超えてコミュニケーションをとれるスペースをつくる一方で、各人が仕事に集中できるスペースもつくるなど、新しい働き方に適したオフィスを検討しています。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 東京・広尾などでマンションを担当した後、札幌郊外でニュータウン開発に携わりました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 米沢藩主・上杉鷹山に関する本です。制度の壁、心の壁に現場主義で立ち向かう鷹山の人物像に引かれます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ペットの犬と遊んだり、テレビでスポーツ観戦をしたりしています。

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 ■人物略歴

 ◇よしだ・じゅんいち

 1958年福岡県生まれ。愛知県立旭丘高校卒業。82年東京大学法学部卒業後、三菱地所入社。人事部長、ビルアセット業務部長を経て2014年に常務執行役員、16年に取締役を兼任。17年4月から現職。59歳。

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事業内容:オフィスビル・商業施設・住宅等の開発、賃貸、管理

本社所在地:千代田区大手町

設立:1937年5月

資本金:1418億円

従業員数:8642人(連結)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:1兆1254億円

 営業利益:1925億円