オリンパス粉飾事件「指南役」 逮捕起訴の証拠に疑義が浮上

真相解明にはほど遠い(巨額損失隠しの再発防止策を公表するオリンパス経営陣、2011年12月)
真相解明にはほど遠い(巨額損失隠しの再発防止策を公表するオリンパス経営陣、2011年12月)

 

オリンパス粉飾決算事件で新事実が判明した。LGT銀行との接点に疑問が出ている。

 簿外ファンドへの融資に使われたLGTリヒテンシュタイン銀行を最初にオリンパスに紹介したのは、粉飾決算の「指南役」として逮捕、有罪判決を受け、最高裁に上告中の元野村証券社員の横尾宣政氏(63)ではなかった――。本誌が独自に入手したオリンパスの内部資料から、従来の捜査結果を覆しかねない新事実が浮かび上がる。

 

 オリンパス事件は2011年10月、同社の巨額の使途不明金を追及していた英国人社長マイケル・ウッドフォード氏が解任されたことを発端とする。事態究明を求める株主などの声を受け、同年11月1日にオリンパス第三者委員会が発足、11月8日に同社が損失隠しを公表した。

 

 この事件では、横尾氏らの紹介によりオリンパスは損失隠しが可能になったとして、同氏らは有価証券報告書虚偽記載をほう助した罪に問われている。新事実の判明で、検察はオリンパスとLGT銀行の関係について、精査する必要に迫られそうだ。

 

将来の融資を念頭に

 

 内部資料は、「2011年11月11日森氏ヒアリング反訳」とタイトルが付けてあり、右肩には英語で「PRIVILEGED&CONFIDENTIAL(秘匿特権・厳秘)」と書かれている。

 

 ヒアリングの日付は、損失隠し公表の3日後(11月11日)で、オリンパスの顧問弁護士である森・濱田松本法律事務所とその後任となるビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士事務所が合同で、オリンパスの森久志・副社長(粉飾決算で逮捕、有罪判決)にインタビューする形式となっている。資料は50㌻弱にも及ぶ。

 

 内部資料によると、森氏はLGT銀行との関係について、「最初に会った時は、下山(敏郎・オリンパス会長)とリヒテンシュタインに行っている」と証言。その時期について、「1998年とか、恐らくオリンパスのデジカメが出てすぐの頃」と答えている。同社は96年10月に最初のデジタルカメラを発売している。

 

 リヒテンシュタインで面会した相手は、「最初に下山と行った時に(リヒテンシュタインの)プリンス(皇太子)と会って、ずっとそのプリンスとお付き合いがある」と話し、LGT銀行のオーナーであるフィリップ皇太子と面識があると説明。面会の目的については、「いきなりそんな話(簿外ファンドへの融資)をしたわけではなく、向こうが持っている美術品のデジタル映像化をやろうと」と提案したうえで、「リヒテンシュタイン(皇太子)と関係があったほうがいいとしていた前提は、将来的に必要になってくるだろう」と解説。つまり、将来的な簿外ファンドへの融資依頼が念頭にあったとの認識を示している。

 

「皇太子は簿外損失認識」

 

 LGT銀行が、オリンパスの簿外損失を11年11月8日の公表以前に知っていた可能性については、「プリンスが知っていた可能性がある」と語り、「リヒテンシュタインでは、これ(粉飾決算)が(オリンパスによって)オープンになり、LGT銀行という名前が出て、すごく問題になっている」と述べている。

 

 ヒアリング当時、オリンパスは上場を維持するために、決算を過年度にわたって修正する必要に迫られていた。だが、オリンパスは損失隠しに関する資料をすべて破棄しており、決算を修正するにはLGT銀行からの資料提供が不可欠だった。森氏の発言はリヒテンシュタイン王室を刺激した場合に、協力が得られないことへの懸念を示したと見られる。

 

 横尾氏を巡る刑事裁判では、検察は「97年末ないし98年初めごろ、東京・六本木の飲食店で、横尾氏がLGT銀行東京駐在所長をオリンパス幹部に紹介した」と主張し、これが1審、2審でも横尾氏が粉飾を手助けした有力な証拠として認定された。

 

 オリンパス広報部はこの内部資料の存在に関して、「コメントは控えたい」としている。

 

 横尾氏は本誌の取材に対し、「私が六本木の飲食店でLGT銀行東京駐在所長の臼井康広氏とオリンパス財務担当者の山田秀雄氏、森久志氏、中塚誠氏らと会ったのは98年3月7日だ。だが、入国記録によると、98年2月18日にLGT銀行の取締役が来日。3月7日以前に、オリンパス幹部とLGT銀行幹部は面会している」と説明。すなわち、「オリンパスとLGT銀行は私が紹介する前からビジネス上のパートナーであり、損失隠しを助けるために私が紹介したとする検察の主張は誤り」と強調している。

 

  横尾氏はLGT銀行幹部の入国記録などを元に、裁判所に事実関係の再調査を求めたが認められず、2審の東京高等裁判所では控訴を棄却されている。

 

 LGT銀行は06年、同行社員が顧客名簿をドイツの連邦情報局(BND)に売却したことで、ドイツの富裕層がLGT銀行に隠し持っていた秘密口座の存在が明るみとなった。口座の保有者の中には、ドイツポストのトップも含まれ、一大金融スキャンダルに発展した。(編集部)

【以下、内部資料から抜粋】

 

<内部資料P9~10>

 

MHM(森・濱田松本法律事務所) 99年当時だったら、その当時は何か違法なことをしているって認識があったことは?

 

森 ない。

 

MHM むしろ、御化粧の範囲内で

 

森 そうです。

 

MHM 本当は…だけれども開示はしていないなという…

 

森 そうです、そうです。それ以前はですね。だた、LGTは何とかっていうのは確実に御化粧をするためにやっているものですから、それはそういうことですね。

 

MHM 山田(秀雄氏。のちの副社長、常勤監査役)さんが部長ということで、その時の財務役員が

 

森 だから、その時は菊川だったんですね。

 

MHM ほう

 

森 岸本が社長で。

 

MHM 岸本(正寿・社長)さんは何か、岸本さんじゃないか。下山(敏郎・会長)さんがそんなことは俺はしらないという記事が日経に出ていたんですが、森さんからみてそれはどう思われますか。

森 山田も同様ですけれども、やるせない気持ちではありましたけれども。変なことを言うと、LGTバンクと一番最初付き合いをした時は、下山とリヒテンシュタインに行ってるんですよ。

 

MHM ああ、そうですか(笑)。

 

森 下山とリヒテンシュタインに行ってます。それは、下山が現役じゃない、会長くらいの時です。その頃は、だから、リヒテンシュタインっていう所とどんなふうに出来るのかっていうのが良く分かっていなかったんですけれでも、そうは言っても、知っていると得ですよ、みたいな紹介をしてもらった。それで偶然向こうに行ってお話をして、向こうのリヒテンシュタインのパドゥーツって所のお城に入れてもらって、いろんな美術品を見たりしました。それで、ちょっと何年頃なのか、ちょっと調べればいいと思うんですが、当時はリヒテンシュタインとは、そうは言ってもいきなりそんな話をしたわけではなくて、下山と行った頃は、向こうが持っている美術品のデジタル化、デジタル映像化っていうのをやろうという。だから、オリンパスは、まさにそうですね。98年とかですね、恐らく、オリンパスのデジカメが出てすぐの頃です。まだ画像はあまりその頃のデジカメは綺麗じゃなかったんですが、オリンパスのこの技術を使えばこんなに綺麗なんだっていうことを証明してやるために、プライベートなそういう秘蔵品という美術品をデジタル化画像で表に出しませんかという話を持っていったんです。だから、それをリヒテンシュタインと繋がったのがいいだろうなって言っていた前提としては、そこをそういう、要するに段々こうやって必要になってくるだろうって話をしていたんですね。ミツシマとも一緒に、リヒテンシュタインとその後行ったことがありますし、菊川とも一緒に行ったことがあります。

 

<内部資料P38~40>

 

MHM パリバ(証券)が指南したっていう報道になっている。

 

MHM 週刊朝日のアレがそういう記事になっていたんですね。

 

MHM 他の記事も読んだらそう書いてあった。

 

森 誰かが最初そういう話をし始めたんじゃないですかね。さっき横尾さんと電話をしました。「すごい久しぶりですね」って言いました。毎日新聞か何かに、全て横尾さんがやったとかって書いてあるんですか?「とんでもない」と。「俺が全部知っているわけじゃない」とかって大騒ぎされちゃいましたけど。

 

MHM 今、ジャルックス(JALUX)の横尾(昭信氏、兄)さんですか?

 

森 違います。横尾弟。だからLGTのほうは彼は知ってるわけですけども、ジャイラスのことなんか全然知らないと思います。全部やったかのように書かれたらとんでもない。

 

MHM 「全部」はひどい。

 

森 ええ。だから全部知ってる人はいない。どっちにしても話はそういうことで。でもどこかで出なくちゃいけない話になったわけなんですけど。個人的には、こうやっていろんな話が出来るようになってすごく気が楽になった。もう何でも知っていること、何でも話が出来ちゃうって、こんなに気持ちがいいことだとは思っていなかった。変な話ですけど。

 

MHM あとはお金の流れだよね。それは第三者委員会にもらうしかないのかね。

 

MHM 今お金の流れを究明されているのは、結局森さんご自身がそれをリヒテンシュタインなりに連絡しているということですか。

 

森 私がやるしかないですから、私またこれで戻って、リヒテンシュタインと電話をすることにしてるんですけど。

 

MHM 第三者委員会にも出していただくけど、会社として分かった時点で我々にも…

 

MHM 森さんが調べるという人が、財務の人と共同でやってるんじゃなくて、森さんお一人でやっているんですか? 財務の部長とかが…

 

森 リヒテンシュタインの担当者と面識があるのは私しかない。あとは菊川。今いるだけですね。山田もあったことないです。

 

MHM 現役の財務部の、現場の人たちはよく分からないという感じなんですか?

 

森 そうです。リヒテンシュタインについて言うと、すごく悩ましくて、リヒテンシュタインの中ではこれがオープンになったことによってLGTっていうのが出てきてということになって、すごく問題になっている。

 

MHM そうですか。

 

森 だからちょっと話をしてみて、どういう反応なのかというのをちょっとわからない。言っているのは、リヒテンシュタインのプリンスが知ってる可能性があるよね。一番最初に下山と行った時に向こうのプリンスと会っていて、ずっとそのプリンスとお付き合いがある。今年になってもそのプリンスが日本へ見えた時に、私は菊川と一緒に会っている。だからもしそういうところに何か影響が出るとしたら、彼らは何も対応してくれない可能性がある。そうすると困っちゃうんです。それですごく心配している。単に事務的に「昔のレポート出してよ」って言って、レポート出してきてくれれば、それは本当はいいんですけど、そこがよく分からない。

いわゆるリヒテンシュタインのプリンスファミリーですけど。王様じゃなくてプリンスです。だから彼らが臍を曲げていたら何も手配してくれないかもしれない。それが困っちゃいますけど。

(終わり)

*週刊エコノミスト2017年7月4日号掲載記事の詳報

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