第49回 福島後の未来:日本の電力を救うデジタルグリッド 再生可能エネの大量導入は可能だ=阿部力也

◇あべ・りきや  1953年福島県生まれ。東京大学工学部電子工学科卒、電源開発入社。九州大学博士(工学)。米国電力研究所客員研究員、J-POWER上席研究員を経て、2008年より現職。
◇あべ・りきや  1953年福島県生まれ。東京大学工学部電子工学科卒、電源開発入社。九州大学博士(工学)。米国電力研究所客員研究員、J-POWER上席研究員を経て、2008年より現職。

阿部力也(東京大学大学院技術経営戦略学専攻特任教授)

 

 2011年3月11日に東日本大震災が発生し、未曽有の規模の大停電が起こった。火力や原子力はじめ、水力や変電所の停止を含めると、およそ3000万キロワットの電源が関東、東北地方で失われたと見ている。その結果、東京電力と東北電力管内では合計約850万世帯の停電が発生。業務用、産業用の電力も失われた。その後も輪番停電などが行われ、長期にわたり大きな混乱をきたした。

 

 現代社会において電気は、エネルギーの供給源としてだけではなく、情報通信や交通、金融など、あらゆる分野の基盤を担っている。東日本大震災の経験により、そうした電力システムの重要性が強く示唆された。そのため、現在は電源の信頼性の強化、系統の増強といった電力システムを強化するさまざまな対策が検討され始めている。

 

 しかし一方で、電力システムは今までとはまるで違う局面を迎え始めた。設備価格の低下が引き金となり、再生可能エネルギーの導入量が大幅に増加しているのだ。世界では太陽光発電の累積導入量がここ6年間、年率50%弱で拡大している。再エネは増え続けると見るしかないであろう。

 

 日本でも、太陽光発電の導入容量が3100万キロワットに達し、震災時に喪失した3000万キロワットを超えた。すなわち、日本全体が曇天になると、震災時規模の電源喪失が起こることを意味する。これは大問題である。

 

 出力が変動する再エネの大量導入には、現在検討されている送電線の増強などの対策では対処しきれず、今までと「別次元」の電力システム改革が行われなければならない。筆者は「デジタルグリッド」という新しい電力システムがその答えになると考えている。

 

 デジタルグリッドとは、一言でいえば、既存の送配電網(系統)の末端に接続された中小の系統「セル」の集合体である。このセルは系統と電力のやり取りをしながら、周波数については系統と同期しない特徴を持っている。以下ではなぜ、このデジタルグリッドが再エネの大量導入につながるのかを、震災時の状況を再確認しながら説明していこう。

 

 ◇停電を防いだ電気のバルブ

 

 震災時、関東最南西の神奈川県においてすら、多くの需要家が停電した。しかし、静岡県や長野県を含め、西日本で関東の停電の影響を受けたところはない。なぜか。

 

 関東の停電の影響は、日本列島を東西に分断する周波数変換所でせき止められたからである。

 

 周波数変換所は50ヘルツの東日本と、60ヘルツの西日本をつなぐ「電気のバルブ」のようなものだ。異なる周波数間でも意図すれば電気が流せるが、勝手には流れない。震災時にはこのバルブが関所になって影響が伝播(でんぱ)しなかった。

 

 つまり、周波数が同期しない、いわば「非同期連系装置」を、もっと小型化したものを電力系統の随所に置けば、周波数などの影響を装置がある場所でストップさせ、連鎖的な停電を防ぐことができる。

 

 筆者が開発した「デジタルグリッドルーター(DGR)」は、この非同期連系装置を小型化したものだ。

 

 前述のセルの中には、このDGRや発電機、蓄電池などが設置される。既存の送配電網にトラブルなどがあり、電力系統が停電しても、セルは周波数の影響を受けないため停電せず、セル内の発電設備と蓄電池で電気を利用し続けられる。

 

 このセルは、再エネの導入にも貢献する。セル内では、電力の周波数を調整できる機能がある。例えば、セル内に設置された太陽光発電設備の発電量が増えた場合、既存の送電網に流したりして調整する。これにより火力発電所の燃料消費量を減らすことができる。一方、天候が不順になって電力不足となれば、既存の送配電網から電力を調達する。

 

 デジタルグリッドは既存の系統とも共存するシステムなのだ。

 

 今までの系統に、こうした自立性の高いセルがいくつも接続するようになれば、送電線増強もそれほど必要なく、再エネも大量に導入することができるようになる。

 

 なお、セルの大きさはさまざまで、電力需要が50キロワットのものから、数十万の人々が住む50万キロワットのものも考えられる。セルの中に、セルがある入れ子構造も可能だ。

 

 デジタルグリッドは市場取引を通じて同時同量を達成する。それが具体的にどう機能するのか、詳しく説明していこう。

 

◇暗号化アドレスで電気識別

 

 まずDGRに、ネットワークに接続されたコンピューターなどを識別する「暗号化アドレス」を付与する。それにより、その電気が何から生まれ、どこで作られ、どのようにして運ばれてきたといった情報を識別できるようになる。

 DGRが設置されたセルの間では、この識別機能を用いて毎時0・1キロワット単位の電力量を1単位として電力を売買することができる。たとえば、AというセルがBというセルから太陽光発電設備で発電した電気を買いたい場合、制御システムからDGRにそうした売買情報が伝えられ、実際に電力が送り込まれる。

 売買の結果はスマートメーターで確認され、決済については取引を行う当事者同士が取引を記録して改ざんを防止するブロックチェーン(分散台帳)技術を用いて仮想通貨で行う。

 デジタルグリッドが実現すれば、DGRを太陽光などの発電設備を持つ消費者の自宅などに設置して、売買を支援するサービスプロバイダーなどが多数生まれるだろう。

 また、電力の取引は近隣にあるセル同士の電力取引だけでなく、遠隔地同士の電力取引や、CO2排出権などの環境価値の取引なども、すべてコンピューター上で自動的に処理される。さらに電気の先渡しや、先物取引なども生まれるだろう。

 筆者らはこれまで、鹿児島県薩摩川内市の住宅や石川県和倉温泉の電力融通、福島県いわき市サンフレックス永谷園の電力融通などを通じ、DGRの実証試験を行ってきた。

 今年度は環境省の受託事業で、さいたま市浦和美園地区で、再エネ導入を加速するDGRおよび電力融通決済システムの開発・実証に取り組む。

 プロジェクトチームは立山科学工業と東京大学が共同実施者で、日立アイイーシステム、関西電力、東京電力ホールディングス、 NTTデータ、テセラ・テクノロジー、USD、日本総研がチームに参画している。NECやみずほ証券もアドバイザーとして参画している。

 デジタルグリッドは、インターネットの電力版として根本的な社会変革を生み出す可能性があると確信している。

 震災で甚大な被害を受けた福島県は2040年までに再エネ100%を達成すると宣言している。デジタルグリッドを利用すれば、再エネが大量に導入でき、目標は前倒しで達成されるだろう。

(阿部力也・東京大学大学院技術経営戦略学専攻特任教授)