特集:ここから買う株2万円 2017年7月18日号

◇金利上昇で見直される金融株

◇日米欧中の好況感そろい踏み

 

「日本のメガバンクの株を買いたい」。

 

 6月下旬、米国のヘッジファンド関係者から、日本にある外資系証券会社の担当者に1本の注文が入った。このヘッジファンドは日本のメガバンク3行の株式を数百億円分購入したという。ちょうど同じころ、日経平均株価は約1年10カ月ぶりの高値となる2万230円を付けた(6月20日)。

 

 ◇外国人投資家も注目

 

 日経平均は6月2日、2015年12月2日以来、1年半ぶりに2万円台を記録した。それ以降、一時2万円割れとなったが持ち直し、6月19日から7月5日まで終値では2万円台を維持している。今後、15年6月に記録した2万868円を上回るかに市場関係者の注目は集まっている。

 

 日本株市場において鍵を握るのは、売買シェアの6割を占める外国人投資家の動向だ。東京証券取引所の投資部門別売買動向によると、4月第1週(4月3~7日)から5月第5週(5月29日~6月2日)まで9週連続買い越しが続き、日本株の上昇を支えた。現在は売り越しに転じて株価の値動きに一服感はあるが、今後、更なる株価上昇には外国人投資家の存在は欠かせない。

 

 日本の証券会社には、金融株について外国人投資家からの問い合わせが以前よりも増えている。これまでは、ソフトバンクグループや任天堂などの成長株が買われる一方、日銀のマイナス金利政策などの影響で、金融株は避けられてきた。今になって外国人投資家が金融株に注目しているのは、日銀を除く世界の中央銀行が金融緩和の縮小に向かい、金利の先高感が高まっているからだ。

 

 金利上昇による利ざや改善の期待から、欧米に比べて割安な日本の銀行株価は6月28日に前日比で2~3%上昇。各行の上昇率はりそなホールディングス3・4%、みずほフィナンシャルグループ(FG)3%、三菱UFJFG2・6%、三井住友FG2・2%となった。その後も上昇基調となっている。欧米の金利上昇圧力が、さらに日本にも波及すれば、外国人投資家が割安な日本の金融株に飛びつく可能性は高い。

 

 楽天証券経済研究所の窪田真之所長は「メガバンクはグループ会社も含めて海外展開を拡大しており、欧米の金利が上昇するだけで収益は増える。日本の金利も上がれば、さらに利ざやが確保できる」と指摘する。

 

 実際、米連邦準備制度理事会(FRB)は6月14日に今年2回目の利上げを実施。イエレン議長は過去の量的緩和で膨らんだ米国債など保有資産の縮小に向けた計画も発表し、今秋にも資産縮小に着手する方針を示している。

 

 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も6月27日、「デフレの脅威は過ぎ去った」と述べ、市場は金融緩和の出口を意識した発言と受け止めた。

 

 ドラギ発言があった6月27日以降、欧米の長期金利(10年国債利回り)は上昇。米国では1カ月半ぶりに2・3%、ドイツでは約3カ月半ぶりの水準となる0・47%台となった。日本の長期金利も約3カ月半ぶりに0・08%まで上昇した。これを受けて日本の金融株も値上がりした。

 

 とはいえ、日銀は現在、長期金利を0%程度に誘導する「長短金利操作」を実施しており、日本で金利上昇がこのまま続くとは考えにくいとの指摘もある。しかし、その場合は日米金利差が広がることになるため、円安・ドル高が進行する。そうなれば、利益増が見込まれる自動車や機械などの製造業に買いが入ることになるだろう。

 

 シティグループ証券の松本圭太・市場営業本部長は「外国人投資家は、日銀が金融緩和を継続して円安が進むのか注目している」と話す。

 

 ◇欧州の回復

 

 金融政策以外に、実体経済の動きはどうか。現在、まれに見る世界的な製造業の好況感が広がっている。6月の各国の統計を見ると、日米欧中の製造業の好況感が「そろい踏み」していることが一目瞭然だ。

 

 日銀短観では大企業製造業の業況判断指数が14年3月以来の水準に改善。また、米国ではISM(米供給管理協会)の製造業景況指数が2年10カ月ぶりの値となり、欧州では英金融情報会社マークイットのユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)が最高値を更新している。さらに中国の製造業PMIも3カ月ぶりの水準に持ち直している。

 

 アベノミクス開始後、日本株が上り調子だった14年も、日米中の製造業の景況感が高水準だったが、欧州は債務危機の影響が残っていた。今回は日米中に欧州も加わっており、アベノミクス開始後の最高値更新への期待も高まる。マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは「日米欧中の景況感がそろい踏みしているのは、『グローバル景気敏感株』と言われる日本株にとって非常に強い材料だ」と指摘する。

 

 ◇来年末に3万円も

 

 18年に向けて好材料もある。トランプ政権が検討している減税だ。米国企業が国外にとどめている資金を米国に還流させれば、低位な税率を適用する制度(レパトリ減税)で、同様の政策は05年のブッシュ政権下でも行われた。当時は約20円の円安が進み、日経平均は約40%上昇した。大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは「レパトリ減税が来年実施されれば、1年間をかけて日経平均が2万4000円まで上昇する可能性がある」と見ている。

 

 米国景気の回復傾向が今後も続くと見る武者リサーチの武者陵司代表は「インフレが起きていないのに、米国の景気後退が始まるはずがない。日経平均は年内に2万5000円、来年末に3万円が視野に入る」と話す。また、日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストは「米国の景気回復で、モノの需要自体が増えれば、日本からの輸出数量も増えるため、仮に円高になったとしても影響は限定的だ」と指摘する。

 

 一方、海外投資家の関心は、人手不足や働き方改革などの問題にも及んでいるようだ。UBS証券の青木大樹・最高投資責任者は「人手不足や働き方改革によって内需が増えるかに注目が集まっている」と話す。ある米国の資産運用会社は日本の働き方改革について「生産性を上げずに単純に働く時間を減らせば、収益にマイナスになるのでは」と質問してきたという。これらの問題が、生産性の向上につながることが分かれば、外国人投資家による内需企業への投資も増えていくだろう。

(松本惇・編集部)

週刊エコノミスト 2017年7月18日号

特別定価:670円

発売日:2017年7月10日


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