第51回 福島後の未来:加速する若手の「原子力離れ」 安全の維持向上へ人材確保を=芦田高規

◇あしだ・たかき  1981年京都府生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。2007年に三菱総合研究所に入社し、科学技術や原子力に関する調査研究などに従事。
◇あしだ・たかき  1981年京都府生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。2007年に三菱総合研究所に入社し、科学技術や原子力に関する調査研究などに従事。

芦田高規(三菱総合研究所研究員)

 

 東京電力福島第1原発の事故以降、国民の「原子力離れ」が止まらない。中でも若者の原子力離れが福島原発事故を基点にいっそう加速していることに強い危機感を抱いている。

 

 原子力史上、類を見ない事故を起こした福島原発の廃炉作業では次々と難題が噴出し、周辺地域での除染作業は今も続く。また東電柏崎刈羽原発など各原発は早期再稼働を目指しているが、原子力規制委員会の審査が一進一退の状況となるケースもあり、再稼働の動きは鈍い。海外ではベトナムで原発新設計画が頓挫し、東芝子会社の米原子炉メーカー「ウェスチングハウス社」が経営破綻するなど、原子力事業に明るい話題が見えない。

 

  加えて、福島原発事故による原子力に対するネガティブなイメージが国民世論に定着しつつある。世間は廃炉や除染といった事業までも後ろ向きのものと捉え、廃棄物、廃炉の「廃」や「廃れる」という言葉の負のイメージが原子力全体を印象づけてしまっているかのようだ。

 

 しかし、廃炉や廃棄物処理など長期にわたる原子力関連の事業を安全かつ着実に進めていくには、人材が重要であるのは言うまでもない。それにもかかわらず、国内の大学では、原子力関係の学科を志望する学生は減少しており、影響は原子力関連産業への就職希望者の減少傾向に表れている。

 

 例えば、日本原子力産業協会と関西原子力懇談会が主催する合同企業説明会に参加した企業は、2010年度は65社、参加学生数は1903人だったのに対し、福島事故後の12年度には参加企業は34社、学生数は388人へと激減した。16年3月に開かれた説明会の参加企業数は55社と回復傾向にあるが、参加学生数は337人と減少が続く。

 

 理由として、国の原子力政策の曖昧さに加え、将来への見通しが不透明なため、若者が興味や関心を持てないのであろう。今や、原子力事業をけん引しているのは1980~90年代にプラント建設に携わった50代以上のシニア世代が中心だ。このまま若者が敬遠する状態が続けば、原子力を担う人材はいずれ払底する。

 

 原子力事業においては、原子力発電の利用や活用の賛否にかかわらず、安全こそが最優先であり、その思いは共有できるだろう。

 

 そのためには高度な専門知識を備え、現場の技術的問題を解決していくことができる人材が多く活躍していくことが求められる。国家的な難事業に対し、関係者すべてが持続的に取り組んでいくことが重要だ。そのためには、中長期的な視点で人材を確保し、育成しなければならない。

 

 特に、将来的に事業をけん引する若者の確保が急務だ。中国やインドなど近隣のアジア諸国では、原子力発電プラントの新設ラッシュが続いている。世界を見渡せば、福島の事故後も原子力発電の需要は大きく減退しているわけではなく、むしろ新設プラントは増加している。原子力の安全を確保し、万一事故が起きた際に実効性のある原子力防災体制を確立させるためにも、日本が技術先進国であり続けるためにも、原子力に携わる人材の確保と育成が必要だ。

 

 ◇原子力産業の領域は広い

 

 今後、原子力分野における人材の確保を進めるにあたってのカギは何か。

 

 その一つは原子力産業がカバーする領域の広さを周知することだろう。原子力は放射線という特有の専門性を持つ一方、機械や化学、金属など多岐にわたる分野の専門性が求められる「横断型」の産業だ。その意味で原子力は総合工学といえる。

 例えば、福島の廃炉作業において、除染や原子炉内の様子を把握するために遠隔操作のロボットが活用されているのはよく知られている。サソリ型やヘビ型などユニークな形状をもつロボットが、人に代わって現場をゆっくりと移動する様子はテレビなどでも紹介されている。

 

 ロボット開発には最先端の科学技術が結集される。今はまだ実証段階でも、技術の進展によって近いうちに実用化が期待できる。福島原発事故の廃炉作業では、炉心溶融(メルトダウン)に伴って溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しを担うロボットの開発構想も示されている。

東京電力福島第一原発の原子炉格納容器内の探索用「サソリ型」ロボット(東京電力ホールディングスホームページより)
東京電力福島第一原発の原子炉格納容器内の探索用「サソリ型」ロボット(東京電力ホールディングスホームページより)

 このように、原子力分野に最新技術が投入されている例は、枚挙にいとまがない。

 

 安全を向上させ続けなければならない原子力は、他分野に対して間口が広く、親和性も高い。この安全確保のための努力が、他分野の発展にも一役買っているとも言える。最新の科学知見を取り込み、分野横断的に新たな研究や技術開発のニーズが生じているという事実は、若者に「やりがい」を感じさせるはずだ。

 

 ◇不安を低減させる後押しを

 

 とはいえ、現実には原子力に携わることについて、若者の多くは判断に迷うだろう。原子力事業の将来は見通しにくく、不安を助長するからだ。人材は集まらないだろう。原子力に従事するかどうかという判断に迷う若者に対し、長期にわたって安心して従事するための動機付けを与える仕組みも必要だ。雇用の保証や明確なキャリアプランの提示など、従事する後押しとなる方策を用意しなければならない。そして何よりも原子力事業の意義が社会から認められるとともに、信頼と尊敬を集めるものとなる必要がある。

 

 そのためには、今後の原子力安全の再構築、廃炉や廃棄物処理をはじめとする原子力事業に不可欠な行程の意義について、原子力事業者の各社は事業戦略上の観点から分かりやすく提示し、改めて訴求する必要がある。

 

 一方で国はリーダーシップを発揮し、核燃料サイクルや原子力施設のリプレース(建て替え)を含めた原子力政策の方向性について、50年以上先を見据えた長期の国家戦略を示し、若者が抱く先行きの不透明感の払拭(ふっしょく)に努めるべきである。

 

 原子力事業を安全に進めるためには、熱意を持ち中心的役割を担う人材の確保が必要不可欠だ。コアとなる人材がいてこそ、廃炉や廃棄物処理などの長期にわたる事業を進展させることができる。これらの事業は、「やりがい」があり、未踏の領域の課題への挑戦という意義ある取り組みである。

 

 事業を着実に進めるためには、廃炉や廃棄物という言葉に付く「廃」のイメージだけに捉われてはいけない。この言葉とは逆で、事業とは切り開くものだ。それこそが未来のコア人材となる若者を引き付ける。

(芦田高規・三菱総合研究所研究員)

*週刊エコノミスト2017年8月1日号掲載