特集:世界経済総予測’17下期 2017年8月15・22日合併号

◇訪れた「スーパー適温」経済

◇米景気は戦後最長も視野

 

 過熱もせず失速もせず、ぬるま湯につかったような心地よさ──。世界経済は今、そんな状態にある。

 

 金融市場でのキーワードは「ゴルディロックス経済」。ゴルディロックスとは英童話「3びきのくま」に出てくる少女の名前で、少女が森の中で見つけたくまの家で、テーブルの上にあった「熱すぎる」「冷たすぎる」「ちょうどいい」三つのおかゆのうち、「ちょうどいい」のを食べたことが由来だ。

 

 失業率が下がって経済が拡大していても、インフレ率は上がらず金利上昇のペースが鈍い──。米国だけでなく現在の世界経済全体の共通する現象だ。長期金利の上昇ペースが速ければ景気を冷やすが、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げや資産規模縮小に向かう中でも、米長期金利(10年債利回り)は7月末、2・3%前後となかなか上がらない(図1)。インフレが加速しないため、FRBの金融引き締めのペースは過去と比べても緩やかで、金融市場や実体経済にショックが起きにくい。

 

 こうしたゴルディロックス経済は、実は05年前後にも現れていたが、今回はそれに輪をかけてインフレ率も金利も上昇しない。企業や個人のインフレ期待(将来のインフレ率の予想)や経済成長への期待が低く、賃金が上がりにくいことが主な理由とされるが、北米のシェールオイルの出現で原油価格が上がらないことも低インフレに拍車をかける。

 

 ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは「経済にとってより適温」という意味を込め「スーパー・ゴルディロックス経済」と表現する。

◇「100年債」に殺到

 

 世界経済の行方を大きく左右するのが、超大国である米国の金利の動向だ。米国経済は過去、短期の金利が長期の金利を上回った後、しばらくして景気後退に入るサイクルを繰り返している(図2)。

 

 現在はといえば、3年債など短めの金利はFRBの利上げに伴って上昇しているものの、長期金利との金利差はまだ1%以上の開きがある。FRBの利上げは1回当たり0・25%。長期金利が現在の水準で横ばいが続いたとして、あと4回利上げしてもまだ届かない計算だ。

 

 米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻に伴い、急激に世界経済が収縮した2008年9月のリーマン・ショックから9年。米国経済は09年6月を景気の谷として、現在まで97カ月を超える景気拡大が続いている。ゴルディロックス経済がこのまま続けば、18年いっぱいはおろか「19年も続く可能性がある」(菅野氏)。戦後最長の米国の景気拡大は1990年代~00年代初頭の120カ月で、今回の景気拡大が19年7月まで続けば戦後最長の更新となる。

 

 ゴルディロックス経済は、マネーを株式や格付けの低いハイイールド債券などリスクのある資産に向かわせる。その好例が今年6月、アルゼンチン政府が発行した償還までの期間100年の超長期国債だ。

 

 アルゼンチンは過去100年間で6回デフォルト(債務不履行)しているにもかかわらず、100年債では27億5000万ドル(約3000億円)の募集に対して、その3倍超の97億5000万ドルの応札があったという。

 

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「利回りが8%と悪くない条件が投資家に魅力に映ったのではないか。購入者の半分は年金などの機関投資家、半分はヘッジファンドといわれている」と語る。

◇VIX指数も過去最低

 

 米国の株式市場も、多少の調整はありながらも、ほぼ右肩上がりで上昇を続けている。米S&P500株価指数は7月26日、2477・83ポイントと史上最高値を更新した。

 

 今回の株価上昇の大きな特徴はボラティリティー(変動率)が極端に低いことだ。S&P500を対象とするオプション取引(売買権利の取引)のボラティリティーを基に算出されるVIX指数(恐怖指数、投資家の不安心理を示すとされる)は7月下旬、過去最低の10ポイントを下回る水準で推移した(図3)。

 

 投資家にとって投資対象に価格変動が大きければリスクがあまりに高いが、じわじわと少しずつ上がっていく現在の株価は格好の投資先。じわじわと上がる株価がさらに投資資金を呼び込む循環を起こしている。

 

 FPG証券の深谷幸司社長は「伝統的な尺度でみれば株価は割高だが、それでも株価は落ちない。米長期金利が上昇すれば株価の下落要因となるが、株式市場ではそれほど長期金利が上がらないと思われているのだろう」とみる。株高は、今後もたんたんと続きそうだ。

 

 EU統計局が8月1日に発表した、ユーロ圏の今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率も前期比年率2・3%(速報値)と成長を加速。いつの間にか欧州経済もドイツを中心に明るさを取り戻しつつある。7月25日には欧州債務危機の震源となったギリシャが約3年ぶりに国債市場に復帰した。

 

 SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「世界経済に今のところ、大きな死

角が見当たらない」と話す。

 

 低インフレ、低金利の環境の中で、株価など資産価格の上昇が同時に進行する世界経済。資産価格のバブル崩壊と共に景気循環が終わるとすれば、今はまだバブルの大波が到来する入り口にすぎないのかもしれない。

(桐山友一・編集部)

2017年8月15・22日合併号

特別定価:720円

発売日:2017年8月7日