スクープ! 伊藤忠丸紅鉄鋼が ベルギー鉄鋼商社株を取得

生き残りをかけて Bloomberg
生き残りをかけて Bloomberg

井戸 清一(ジャーナリスト)

 

 欧州を代表する港町、ベルギーのアントワープ。ルネサンス期から貿易が盛んなこの都市に本社を置く企業が、日本の鉄鋼業界で話題を呼んでいる。

 

 その企業名はスチールフォース。日本でも知る人ぞ知る欧州の鉄鋼商社である。その株を伊藤忠丸紅鉄鋼がひそかに取得した。日本の鉄鋼商社が欧州の商社へ出資し、手を組むという例は極めて珍しい。「一体、何が目的なのか」と憶測が飛び交う。

 

 近代鉄鋼業の発祥地である欧州には、スチールフォースに限らず鉄鋼専門の商社が数多く存在してきた。欧州の鉄鋼需要が成熟し域内の取引が先細りになると、こうした商社は貿易に軸足を移していく。今も生き残っているのは、欧州諸国が植民地としてきたアフリカや中南米といった海外の鉄鋼市場を開拓してきた商社ばかりだ。スチールフォースも、これら地域に営業拠点を持ち、独特の商売を行ってきたとされる。

 

 日本の鉄鋼商社で、このアフリカや中南米で圧倒的な存在感を持つのが伊藤忠丸紅鉄鋼である。三井物産や住友商事といった事業投資に傾注するライバル商社を尻目に、これら市場で鋼材のトレーディングをコツコツと開拓してきた。そこでスチールフォースの存在を知り、これを取り込むことで欧州流の取引手法を加えてアフリカや中南米でのビジネスを強化する――。それが衆目の見立てである。

 

近似する欧州と日本の再編

 

 この欧州の鉄鋼再編と商社の歩みを見ていくと、日本の鉄鋼業界の将来像が暗示されている。

 

 欧州では統合し巨大化した鉄鋼メーカーが力のある商社を自ら持つようになった。ルクセンブルクを本拠とする鉄鋼世界最大手のアルセロール・ミタルには、子会社にアルセロール・ミタル・インターナショナルという商社があり、アジアを含め世界各地でネットワークを形成している。ドイツの鉄鋼最大手、ティッセンクルップにも他社製の鋼材を含めて手広く取り扱う商社部門がある。

 

 このしわ寄せで、独立系の鉄鋼商社は徐々に活躍の場が狭まっている。それを象徴するようにスイスの大手鉄鋼商社、デュフェルコは海外部門を中国の鉄鋼大手へ手放した。

 

 一方、日本では、新日本製鉄と住友金属工業が統合し新日鉄住金が誕生。この新日鉄住金の系列商社である日鉄商事と住金物産も統合し、年商2兆円に迫る日鉄住金物産が発足した。以前は総合商社に比べ見劣りしたメーカー系商社だが、統合で陣容が厚くなった日鉄住金物産は大方のトレーディングを任せられるまでに力を付けた。日鉄住金物産は来年度に三井物産から鉄鋼事業の一部を譲り受ける予定で、さらに巨大化する方向にある。

 

 日本でもメーカー系でない独立系の商社には厳しい時代がやってきている。日本の国内はもちろん、近隣の海外市場でもリスクの低い取引ばかりをしていてはメーカー商社に商権を移されるかもしれない。伊藤忠丸紅鉄鋼が少し変わった海外商社へ手を出すのも、ライバルが手を伸ばしにくい市場を深掘りすることで生き残ろうという思惑がうかがえる。

 

 他の鉄鋼商社では、三菱商事系のメタルワンと住友商事が国内の鋼管事業を統合する方向で協議に入った。三菱と住友が鉄鋼関係で組むのは初めてで「もはや鉄鋼商社再編は何でもありの時代」と驚かれている。鉄鋼商社は洋の東西を問わず、なりふり構わぬ生き残り策を迫られている。

(『週刊エコノミスト』2017年8月15・22日号掲載)