食えない広告モデル 有料課金へのシフトが始まる=佐々木紀彦・ニューズピックス編集長

 今、ネットメディア業界が大きく揺れている。その火種となったのは、世界ではフェイクニュース問題であり、日本ではWELQ(ウェルク)(DeNAが運営する医療サイト)による虚偽報道や盗作の問題だ。

 

 こうした動きの背景には、国際政治などさまざまなファクターがあるが、いちばん大きな要因は「経済」にある。

 

 フェイクニュースを作る生産者の多くは(マケドニアなどが中心)、特に政治的な意図もなく、稼ぐためにニュースをせっせと作っている。同じく、WELQの編集者やライターたちも、安く記事を量産することに必死だった。

 

 ネット上では記事がデフレ化しているため、とにかく多くの記事を書かないと食えない。質の高い記事を書いても食えない。だから、質にお構いなく、安く作れる中毒性のあふれる記事ばかりが出てくる。

 

 では、なぜネットメディアでは食えないのか。

 

 それは、無料記事を流す広告モデルが主たる稼ぎ方になっているからだ。しかも、デジタル広告は伸びているとはいえ、米国の場合、その約7割のシェアはフェイスブックとグーグルが握っている。日本でも状況は似たようなものであり、無料ニュースプラットフォームとして圧倒的なシェアを誇るヤフージャパンが、大半の広告収入を懐に入れる。

 

 つまり、多くのメディアが、良質な記事を生産するだけの収入を得る方法を持っていないのだ。

 

 ◇作り手と読み手が作る場

 

 そんな中、世界中で注目が高まっているのが「有料課金」だ。

 

 課金のトップランナーである、米国の『ニューヨーク・タイムズ』は、過去1年に有料会員が急増。すでにデジタル有料購読者は220万人を突破している。

 

 さらにメディア業界からの憎悪の対象となりつつあるフェイスブックも重い腰を上げた。有料購読サービスの導入に向けたテストを今年10月から始めると明かしたのだ。

 

 フェイスブックが、有料課金で利益を独り占めしようとせずに、メディア側の取り分を多くする決断をすれば、世界のメディアは一気に有料課金へと傾くかもしれない。

 

 有料課金シフトの流れは日本でも生まれつつある。

 

 紹介が遅れたが、私が編集長を務める経済ニュースメディア『NewsPicks(ニューズピックス)』でも、3年半前のスタート以来、有料課金をサービスの主軸にしている。

 

 当初は「月額1500円なんて誰が払うのか」と懐疑的な声もあったが、現在の有料会員数は4万人を超えている。

 

 その起爆剤となっているのが、オリジナルコンテンツだ。NewsPicksでは、伝統的な経済メディアでキャリアを積んできたプロの編集者や記者やデザイナーを雇用し、毎日5~8本程度の有料のオリジナル記事を配信している。この記事を読むために、4万人以上の読者がお金を払ってくれているのだ。

 

 NewsPicksのもうひとつの特徴は、読者(実名登録者に限る)が自由にニュースにコメントができることだ。NewsPicksはプロピッカーという各界の専門家約150人とも契約しており、最新ニュースについてプロの見解が読める。こうした、作り手と読み手のコラボレーションによって場を作っているのがNewsPicksの新しさだ。

 

「有料課金」と「読者との共創」。この二つの強みによって、NewsPicksを世界を代表するメディアに育てる。それがわれわれの目標だ。

https://newspicks.com/

佐々木紀彦(ニューズピックス編集長)

ささき・のりひこ◇1979年生まれ。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。14年7月、ニューズピックスに編集長として移籍。株式会社ニューズピックス取締役。


週刊エコノミスト2017年8月29日号掲載