第53回 福島後の未来:原発輸出に欠けているプロマネ感覚と危機意識=宗敦司

◇そう・あつじ  1961年東京生まれ。83年和光大学人間関係学科卒業。90年エンジニアリング・ジャーナル社入社、2001年からエンジニアリングビジネス(EnB)編集長。
◇そう・あつじ  1961年東京生まれ。83年和光大学人間関係学科卒業。90年エンジニアリング・ジャーナル社入社、2001年からエンジニアリングビジネス(EnB)編集長。

宗敦司(エンジニアリングビジネス編集長)

 

 福島原発事故を招いた要因の一つに、非常用電源設備が全て地下に設置されていたということがある。浸水したら使えなくなってしまう非常用電源を、どうして地下にレイアウトしたのか? 

 

その問いに東京電力上層部は「ターンキー契約だから変更できなかった」と述べたことがある。ターンキーとは、重電プラントメーカーが一括請負で発電プラントを建設し、試運転までしてキーを回せば運転できる状態で発注先に引き渡す契約のことだ。

 

 だが「ターンキー契約だから仕様に問題があっても変更できない」などという話はこれまで聞いたことがない。プラントはオーナーの所有物であるので、仕様変更が可能なのは当然だ。ただ大きな仕様変更はコスト増加の要因でもあるので、むしろエンジニアリング会社は、ターンキー契約案件で、仕様変更に伴うコスト増加をいかにプラントオーナーに受け入れてもらうか、ということに常に苦労している。

 後に判明することだが、実は福島原発1号機を建設した米ゼネラル・エレクトリック(GE)側は、原子炉の高台への設置の提案や、非常用電源の場所についても、東京電力に確認していたが、コスト増加を嫌がった東電が変更を受け入れず、それを東電は「ターンキー契約」のせいにし、一般のプロジェクトへの無理解を利用したのだ。

 

 だがプロジェクトを理解していないのは米国の原発計画で巨額の債務を負ってしまった東芝経営陣もまた同様であったといえる。

 

 ◇モノづくりとは違う

 

 プラント建設プロジェクトは、通常のモノづくりとは大きく異なる。例えると、モノづくりは農耕・牧畜的だが、プロジェクトは大航海時代の貿易に似ている。

 

 モノづくりでは決められた材料や部品を調達し、それを決められたように加工、組み立てていけば、安定した品質の製品を作ることができる。いわば定常業務だ。

 

 これに対してプロジェクトは非定常業務だ。極端な話、全く同一設計のプラントであっても、建設される国が異なれば、資材や機器の調達先やルートも異なり、サブコン(下請け工事業者)も違うのでスケジュールも異なる。天候要因や商習慣、その国の法律もプロジェクト採算性を大きく変えてしまうといったように、確実なことは何一つない。

 

 大航海時代の貿易は成功すれば大きな利益を生み出すが、航海中には天候不順から海賊襲来に至るまで大きなリスクが潜んでいる。そうしたビジネスで利益を生み出していくには、プロジェクトマネジメントという知識体系と経験の積み重ねが必要となるが、日本のモノづくり企業で経営側がプロジェクトマネジメントを理解している会社は極めて少ないというのが実感だ。

 

 東芝の場合、発電プラントのEPC(設計・機器調達・建設)コントラクターとしての経験もあるので、現業部門ではプロジェクトへの理解があっても、経営側がプロジェクトを理解しているようには見えない。

 

 事実、同社の不適切会計問題の際の報告書では、発電プロジェクトで問題が報告されても、まともに経営側が対応していないという、経営側の認識不足が描かれている。

 

 さらに原子力発電となると、他の発電プラントに比べても規模が大きく、しかも複雑であり、モジュール化が難しいため、現場での施工が極めて重要となる。つまり工事のマネジメントが海外での原発プラントの成功のカギを握っている、といっても過言ではない。しかし東芝をはじめ、日立製作所や三菱重工業も、海外の原発プロジェクトで工事まで請け負った経験はない。

 

 特に米国はレーバーユニオン(労働組合)の力が強く、外国企業が工事現場を直接管理するのはリスクが高すぎて手が出せない。事実、最近の米国でのプロジェクトで工事を日本企業が直接担当している案件はないが、それでも米国で複数の案件が損失を発生させている。電力会社の指示通りにやっていればよい日本と違って、海外での巨大プロジェクト遂行は段違いに厳しい。東芝の問題は経営側の認識の甘さが生み出したものでもある。

 

 東芝だけでなく、日本は全体的にプロジェクトへの意識はあまり高くない。その中で原発プラントをインフラ輸出の一つとして推進していくのは疑問がある。事実、海外原発プラント市場も、日本が簡単に参入できるほど甘くはない。

 

 福島原発事故後、改めて動き出した海外市場で成功を収めているのがロシアだ。ロシアの原子炉は安く、安全性も高く評価されているうえ、プロジェクトの資金調達や運営まで一貫した対応ができるのがウリだ。

 

 原発計画を進めようとしている国の多くは、対外債務を増やさずに、原発を導入することを望んでいる。つまり外資が運営まで手がける原発事業を誘致したいというニーズに、ロシアはきちんと対応している。最近では中国も同様の対応で海外市場開拓を目指している。

 

 それに対して日本は、制度金融や人材育成支援を拡充して資金需要に対応しようとしている。だが、相手国にとって日本の制度金融は巨額の対外債務を生むことになる。つまり日本の原発輸出体制は、相手国のニーズとはズレている。日本企業が海外で原発事業そのものを引き受けることは可能なのだろうか。

◇意義の見えない輸出

 

 現在、英国で原発プロジェクトを進めている日立製作所は、事業会社である「ホライズン」のオフバランス化つまり巨額のプロジェクトの債務を事業会社が引き受けない形にするのが最終投資決定(FID)の要件である、としているが、その引き受け手はまだ見つかっていない。

 

 東芝は60%を出資する英原発事業会社「ニュージェン」の事業化に向けて株式売却を予定しているが、最近になって、仏総合エネルギー会社のENGIEが保有していたニュージェン社の40%の株式を買い取ることになり、売却どころか逆に100%子会社となり、事業の見通しが立たなくなっている。

 

 またトルコで三菱重工と仏アレバが進めているシノップ原発も採算性に課題がある。

 

 日本が事業運営する原発で過酷事故が発生した場合の問題も考えなければならない。インフラ輸出のために、過酷事故の負債を日本国政府が負う(=国民負担とする)など、到底認められる契約ではない。どういう形で保障するかの議論も避けられない。

 

 また、火力発電事業を統合した三菱重工と日立製作所は、南アフリカの石炭火力発電所で発生した工事損失について、三菱重工が総額7743億円を日立製作所に請求、日本商事仲裁協会に仲裁を申し立てる事態になっている。受注総額5700億円の火力発電プロジェクトでもこの状況である。1兆円を超え、より工事が複雑である原発プラントの輸出に不安を覚えるには十分だ。

 

 勝ち目の少ない海外市場で、十分な対応のできていない日本が、大きなリスクを冒してまで、海外の原発プラントを手がけていく意義が見えてこない。

(週刊エコノミスト2017年9月5日号掲載)