第54回 福島後の未来:蓄電池の価格が低下すれば再生エネルギーは安定電源=今西章

◇いまにし・あきら  1975年群馬県太田市生まれ。慶応大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社。日本環境ジャーナリストの会理事。
◇いまにし・あきら  1975年群馬県太田市生まれ。慶応大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社。日本環境ジャーナリストの会理事。

今西章(『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長)

 

世界中で太陽光発電の導入が急拡大している。2015年に世界全体で導入された発電設備の50%以上を再生可能エネルギーが占めている。導入された再生エネ発電設備のうち4割近くが太陽光発電だ。

 

近年の大量導入で住宅用や事業用などあらゆる用途を対象とした太陽光の世界平均発電コストは直近8年間で1キロワット時当たり35円から10円と、7割減まで進んだ。ただ注意しなければならないのは10円はメガソーラーなどの事業用を含めた数値であること。事業用に比べると住宅用発電コストは2倍近くするのが現状だ。

 

 世界では、住宅用太陽光発電1キロワット時当たりの発電コストが家庭用の電気料金の1キロワット時当たりの単価まで下がることが、政府や自治体の補助政策を必要としないで自立して導入拡大する目安といわれていた。国・地域によって家庭用の電気料金は異なるが、日本では1キロワット時当たり25円が目安となる。

 

 近年の大量導入によるコスト低減効果から、住宅用の発電コストは世界の各国で家庭用電気料金単価を下回ってきた。

 

 しかし、出力が変動する太陽光発電では発電コストが家庭用の電気料金単価まで下がっても、昼間は電気が余り、夜に発電しないため自立電源として普及するには不十分だ。

 

 補助制度に依存しないで真に自立化して普及するには蓄電池が必要だ。蓄電池システムを合わせた1キロワット時当たりの安定化発電コストを家庭用の電気料金より安くしなければならない。それが自立電源として普及する最初のハードルだ。

 

 とはいえ、アフリカや東南アジアなど送電線の整備が発達していない国・地域では、住宅に太陽光発電と蓄電池システムをセットで販売またはリースする事業が活発になっている。住宅用太陽光発電と蓄電池の組み合わせによる発電コストの方が、これから大規模火力発電所を建設し、送電線整備をして供給する電気のコストよりも安く、早いからだ。

 

 また調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの黒崎美穂氏は「住宅用太陽光発電の普及が進んでいて、かつ家庭用電気料金が世界水準でみて高い傾向にある豪州やドイツは今後、家庭用蓄電池市場が成長する」と語る。

 

 ◇ちゅうちょする日本企業

 

 日本エネルギー経済研究所新エネルギーグループマネジャーの柴田善朗研究主幹は今年5月末に日本の蓄電池システム付き住宅用太陽光発電の自立化への試算をした。家庭向けの蓄電池はリチウムイオン電池が主流であることから、蓄電池=リチウムイオン電池を指す。

 

 分析結果では、出力3~5キロワットの住宅用太陽光発電と容量5~14キロワット時の蓄電池を合わせた現状の安定化発電コストは60~80円/キロワット時となり、家庭用電気料金単価の目安である25円/キロワット時に遠く及ばない。しかも日本の現行の住宅用太陽光発電価格は、欧州の2倍近くする。

 

 しかし柴田研究主幹は「今後、太陽光の発電コストが国際価格水準並みに下がり、かつ長寿命化し、蓄電池システムも大量生産により価格が下がっていけば、日本でも自立化は達成できる」という。

 経済産業省もエネルギー経済研究所や三菱総合研究所などのシンクタンクと協力して、自立化への具体的な道筋を立てている。

 三菱総合研究所の調査によれば日本で発売されている家庭用蓄電池のシステム全体の1キロワット時当たりの容量能力における2015年度平均製造コストは22・1万円だ。

 

 容量10キロワット時の蓄電池システムならば221万円の価格になる。1キロワット時当たり蓄電池製造コストは、10年程度約6000回充放電する能力を指す。経産省は、22・1万円から20年度には6割減となる9万円まで下げることを目指している。

 

 22・1万円という値は蓄電池本体以外にも容器代などさまざまなコストを上乗せしていることもあるのだが、明らかに高コストだ。中国や韓国の蓄電池メーカーのコストと比べると3割程度高くなっているという。

 

 なぜ、日本の家庭用蓄電池システムは高いのか。

 

 三菱総合研究所環境・エネルギー事業本部の長谷川功・主任研究員は「日本のメーカーは工場への設備投資など先行投資した費用を数万台の販売で回収できるよう、固定費回収コストを高めにした価格にしている。一方中国や韓国などの海外メーカーは、日本メーカーとは桁違いの数百万台の販売により固定費を回収できればよい、という考えで低い価格設定にしている」と分析する。つまり日本のメーカーは、家庭用蓄電池市場がどの程度成長するのか、まだ判断できかねないために、極力設備投資を少ない台数で早期に回収できるようにしているから、高コスト構造なのだ。

 

 ◇EV大量導入は追い風

 

 海外メーカーは世界中で売り込んでいく戦略に基づいて設備投資している。例えば米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズの蓄電池工場。テスラは今年1月に世界最大のリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働した。テスラのギガファクトリー投資総額は6000億円規模。これくらいの大きさだからこそ、1キロワット時当たりの容量能力における製造コストを5万円以下と、大幅に下げることができるのだ。

 

 日本メーカーは世界戦略において後れをとっているのが現状だ。しかもリチウムイオン電池の主材料であるリチウムは近年の需要急拡大から投資の対象になりつつある。投機的な資金が流入することにより相場が高騰することもあることから、安定して確保していくための戦略も不可欠だ。

 

 ただ、注意しなければならないのは家庭用蓄電池の主役であるリチウムイオン電池は、太陽電池パネルのようなコモディティー(国際商品)にはならないだろうといわれていることだ。蓄電池ベンチャー企業エリーパワーの小田佳取締役は「太陽電池は設備投資により製造ラインさえ整えればどのような新規参入企業でも生産できる。しかし蓄電池は太陽電池と違い、製品の安全性の問題がつきまとう。メーカーの組み立て技術の結晶として、安全性能が左右されるため、コモディティーとは一線を画す」と指摘する。

 

 世界をみると、蓄電池コスト低減に追い風が吹いている。欧米で、環境対応車としてEVの本格普及の期待が高まっているからだ。英国とフランスは2040年にガソリン・ディーゼル車の販売を禁止にする。米国のカリフォルニア州を中心とする数州は、州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率について排出ガスを一切出さないEVか燃料電池自動車にしなければならないZEV規制を18年度から実施する。日本でも充電ステーションは2万8000カ所あり、充電インフラが普及しはじめたEVは環境対応車の本命だ。

 

 EVには16~30キロワット時の大型リチウムイオン電池が搭載されている。大量生産されればEV搭載のリチウムイオン電池のコストは下がる。電池セルは家庭用蓄電池に流用でき、相乗効果として家庭用蓄電池システムのコスト低減を期待できる。

 

 しかもEVに搭載された蓄電池そのものから住宅へ電気を供給するV2H(Vehicle to Home:自動車から家庭へ給電)として利用することで、住宅用太陽光発電と組み合わせることができる。

 

 日本でも住宅用太陽光発電と蓄電池を組み合わせた発電コストが家庭用の電気料金を下回る時代は着実に近づいている。

(*週刊エコノミスト2017年9月19日号掲載)