顧客とともに栄え、イノベーションを起こす 此本臣吾 野村総合研究所社長

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな会社ですか。

 

此本 名前の由来からシンクタンクのイメージが強いですが、実態としては連結売上高の9割をITサービスが占めています。2017年3月期の売上高営業利益率は14%で、同業他社に比べると非常に利益率が高いのが特徴です。コンサルタント業務を行っていた旧野村総合研究所とITシステム会社の野村コンピュータシステムが1988年に合併し誕生しました。ITサービスの上流に位置するコンサル業務に強みを持っているのが同業他社との大きな違いです。

 

── 強みは。

 

此本 かつて、ITは企業のバックオフィスを支える存在でした。当社でも、コンサル部門は経営層、ITサービス部門は情報システム部門とそれぞれ対象の顧客が違い、一緒に連携して仕事をすることはあまりありませんでした。しかし、今では、ITが企業のビジネスモデルそのものを変える時代になりました。CEO(最高経営責任者)自身がITに関心を持ち、事業部門でもITを使ってビジネスを変えたいという話が出ています。二つの機能を持ち、融合する当社の強みはこれから生きます。

 

── 直近の業績は。

 

此本 17年3月期の連結決算は売上高4245億円、営業利益585億円でした。従業員数は単体で約6000人、連結では約1万1000人です。規模やコストで競争せず、価値提供で当社にしかできないサービスを目指しています。仕事を通じて知的好奇心をかき立てる組織であり、人材が集まっている会社です。就活学生の人気が高いのは、当社のカルチャーに交われば、自分たちも成長できるという期待が学生の間であるからではと思います。

 

── 企業理念は。

 

此本 「未来創発」です。将来を俯瞰(ふかん)し、新しい社会のパラダイムを洞察し、実現を担う。顧客のためにイノベーションを起こし、顧客とともに栄える。この企業理念が当社の存在そのものを象徴しています。まず、「新しい社会のパラダイムを洞察」するのがコンサルの役割です。「その実現を担う」のがITサービスです。シェアリング・エコノミーやブロックチェーンも、それを実現するために、我々はITという武器を持っています。

 

 ◇「ストーリーを語る」

 

── 同業他社との違いは。

 

此本 イノベーションを強く意識する会社は、テクノロジーを中心に、顧客に「あれもできます、これも可能です」と提案しがちです。でも、顧客を分析する能力がなければ、顧客は「それによって我々の抱えている問題をどのように解決してくれるのか」と不満を持つことになります。我々はコンサル部門でそれを徹底的に分析することが可能です。その上で、顧客が解決したいことを実現するには何が必要か、そのためにはどんなサービスを提供しなければならないか、ストーリーを語ることができます。コンサル部門を持っていることがすごい力になります。

 

── サッポログループの働き方改革で、AI導入をサポートしました。

 

此本 同グループの社内業務の問い合わせに、当社のAIシステムを活用しました。その結果、問い合わせの45%がAIで回答できました。今は経済産業省とAIを使った国会答弁の作成業務の自動化で実証実験をしています。

 

── コンサルとIT部門の人事交流はあるのですか。

 

此本 最近、ビッグデータの「アナリティクス」という分野が注目を集めています。例えば、ある消費財メーカーで、これまで中心顧客だった高齢の富裕層の購買力が落ち始めたので、若い女性層のマーケティングをしたいとします。こういう層にどのように効率的にアプローチするかを、データを基に分析し、会社にマーケティングの提案までをするのが、アナリティクスです。

 

 このようにアナリティクスでは、データ分析だけでなく、ビジネスも理解している必要があります。当社はコンサルとITサービスの両方の部門を持っているので、コンサルで育った人がIT側に異動して、さまざまな分析ツールへの理解を深めたり、逆にIT側で採用された分析のプロが、コンサルに異動し、ビジネスの勉強をすることができます。

 

 アナリティクスは消費財だけでなく、金融などの他業界でもますます必要になります。そのため、両方の能力を持った人をどれだけ育てるかが、当社の競争力の鍵になります。

 

── 長期経営ビジョンで23年3月期に営業利益1000億円を目指しています。

 

此本 当社はコストや規模ではなく、提供する「価値」で競争します。利益は価値を定量化したものです。そこにこだわりを持ちながら経営していきたい。他社のように、海外の大きな会社を買収するようなやり方はしません。海外で買収をするにしても、その会社しか持っていない知的財産やノウハウが、我々の方向性に欠けているピースであれば、買っていきます。会社の大小は関係ありません。

 

 例えば、15年に米国のデジタルマーケティング会社「ブライリー・アンド・パートナーズ」を買収しました。小さな会社ですが、非常に強力な知的財産を保有しています。社会がどのように変わるのか俯瞰しながら、他社より一歩先に布石を打っていきたいと思います。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 台湾に駐在し、一から支店を開設して大きくしていきました。帰国するときには40人の会社になっていました。非常にやりがいがありました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 石川光男氏の『東洋的生命観と学問』(1983年)です。コンサルは社会科学であり、自然科学のように解析的に分析することの限界をこの本から学びました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 子供が大きくなったので、妻と二人で小旅行に出かけています。最近は秋田県男鹿半島のジオパ

ークに出かけ、1000万年前の貝の化石を拾いました。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇このもと・しんご

 1960年生まれ。東京都出身。都立西高校、東京大学工学部、同大学院工学研究科修了。85年野村総合研究所入社。94年台北事務所長、2004年執行役員、15年専務執行役員を経て、16年4月から現職。57歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:コンサルティング、ITサービス

本社所在地:東京都千代田区

設立:1965年4月

資本金:186億円

従業員数:6003人(2017年3月現在)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:4245億円

 営業利益:585億円