第55回 福島後の未来:電力の地産地消が地域を活性化 事業ノウハウのシェアがカギ=青山英明

あおやま・ひであき  1977年福島県郡山市生まれ。2002年北海道大学大学院農学研究科卒業。同年、荏原に入社。コンサルティング会社を経て2014年一般社団法人ローカルグッド創成支援機構を創設し、現在、事務局長。2016年からまち未来製作所代表。
あおやま・ひであき  1977年福島県郡山市生まれ。2002年北海道大学大学院農学研究科卒業。同年、荏原に入社。コンサルティング会社を経て2014年一般社団法人ローカルグッド創成支援機構を創設し、現在、事務局長。2016年からまち未来製作所代表。

青山英明(ローカルグッド創成支援機構事務局長、まち未来製作所代表)

 

 衰退する地域が特色を持って自活していくためには、地域の天然資源を活用する、地域に根差したローカルビジネスの創成が効果的だと考えている。現在、自治体や民間事業者がこれと同じような考えを持ち、地域資源を活用して電力小売り事業などを手掛ける「地域エネルギー会社」を立ち上げる動きが活発化している。

 

 

 このようなローカルビジネスを手掛ける事業者のことを、電気や公共交通などのサービスを提供するドイツの都市公社「シュタットベルケ」になぞらえ、「日本版シュタットベルケ」と呼ぶ向きもある。

 

 ローカルグッド創成支援機構は2014年9月3日に「ローカルのグッド=地域に魅力ある強いビジネス」を創成・支援するために立ち上げた一般社団法人である。ローカルビジネスの創成パッケージの一つとして、地域が主体となり、地域エネルギー会社を立ち上げるのを支援する「地域新電力インキュベーション(起業家や新事業の育成)プログラム」を開発し、正会員となった企業向けに提供している。

 

 現在の正会員企業は、鳥取県米子市や地元ケーブルテレビなどが出資するローカルエナジー、宮城県東松島市などで構成される東松島みらいとし機構、福島県でLPガス販売を手掛ける須賀川ガス、秋田県湯沢市で電力販売を行っているローカルでんき、横浜市水道局100%出資の横浜ウォーターなど7社。このほか、清水建設、国際航業、荏原環境プラントなどが賛助会員となっている。

 

 正会員企業は、小売電気事業者に登録し、各地で電力販売を手掛けている。各社の販売電力量を合計すると、小売電気事業者の中で50位以内に入る量となっている。

 

 各社は地域にある再生可能エネルギー電源などを活用し、地産地消型の電力販売を手掛けている。それにより、少なくとも年間約26億円の資金が地域で循環し、地域の活性化にもつながり始めている。

 

 ◇ノウハウを共有し統合へ

 

 地域密着型のローカルビジネスは、顧客と電源の調達先を「地域」に求めることが多いため、事業拡大には限界がある。また、一般的に大都市圏から物理的に遠い場所で事業を行うため、サービス品質などが大都市圏に拠点を持つ大手企業と比較して劣後しやすい。こうした課題を克服し、競争力の高いローカルビジネスを創出するため、当法人は、(1)シェア、(2)オープン、(3)DIT(Do It Together=みなで一緒に行う)という三つのポリシーを掲げながら、各種の支援に取り組んでいる。コストや専門技能を分かち合い、情報を共有し、一体となって行動するものだ。

 

 

 一つ目のポリシーがシェアだ。商いの量が大きい企業は長期にわたり、大ロットで調達を行い、原価率を下げることができる。コストに対する固定費率も小さくなるので、競争力を高められる。一方、ローカルビジネスは、事業エリアが限定されることから、個々の商いを大きくするのは容易ではない。そこで当法人はローカルビジネスに取り組む事業者が、事業に必要なシステムやサービスなどをシェアすることで、競争力を高める仕組みを取り入れた。

 

 具体的には、正会員企業が、電力小売事業を行うのに必要な需給管理システム、顧客管理システム、エネルギー専門の弁護士などをシェアできる体制を整えた。また、電力を共同で購入したり、会員同士が電力融通を行うプライベートマーケットの設置といった取り組みも実施している。

 

 二つ目がオープンだ。正会員となった事業者同士は、自らの地域で優先してビジネスを行うため、競合する可能性は低い。そのため、それぞれが持つ有用な事業ノウハウをオープンにしながら、共存共栄することが可能だ。地域エネルギー会社の立ち上げに大きな壁となるのは、電力の需給管理などといった日々のオペレーションに関する専門ノウハウである。これらは電力事業に関わる一部の人のみが知る「ブラックボックス」となっていることから、ノウハウがない場合、業務を委託することになる。しかし、それでは、多額の費用が域外に流出してしまう。

 

 そこで当法人は、各社が持つ専門ノウハウを、他の正会員に対してのみ無料で「トレーニング」という形でオープン化することにした。当法人の会員である地域エネルギー会社は、全社、このトレーニングを実施し、電力の需給調整などのノウハウを獲得している。

 

 トレーニングを受けるのは、なにも電気の専門家である必要はない。例えば、売り上げ規模が10億円程度の電力事業には、1日に数万キロワット程度の電力契約をオペレートする必要があるが、正会員の中には、こうした業務を、地域に住む主婦や若者などが担当しているケースがある。業務委託するのではなく、内製化することによって、雇用創出にもつなげることができる。

 

 三つ目のポリシーがDITである。電気事業を行っていくうえでは、制度の変更や、市場の変化に対応していく必要がある。これらに対し、各企業が相互に助け合う体制を構築している。地域新電力の規模は小さく、全社が連携しても大手新電力に及ばない。このような事実認識の下で、会員各社が日々、地域の特性を使って競争力を磨いている。

 

 事業の強さは事業規模だけではないが、ある程度の大きさは必要と考えている。今後は、会員である地域エネルギー会社の増加と各会員の事業規模拡大、そして共通ビジョンを有する外部団体とコラボレーションし、業界の10位以内を目指し、大手に負けないサービス力を整備していく予定だ。

 

 ◇福島県で事業検討

 

 当法人は、福島県で地域資源を活用した地域エネルギー会社の構築に向け、行政や地元企業、当法人の会員企業とともに取り組んでいる。

 

 福島県は東日本大震災で被災した多くの地域の中で、もっとも大きな葛藤にさいなまれている地域だ。甚大な被害を受けた多くの地域が、未来に向けて復興を進めている中、福島はいまだ帰還困難区域や居住制限区域を抱えている。たくさんの人々が職場である農地を失い、帰還を実現するための受け皿となる職場やインフラもない状況だ。

 

 一方、逆に新たにビジネスを立ち上げる想定をしても、風評や需要の問題、雇用の問題が立ちはだかる。事業立ち上げハードルは他の衰退地域よりも高いと言わざるを得ない。

 

 そうした中、乱立しているのが「再エネ発電事業」だ。人手が不要で、安定的な収益が見込め、さらに福島のビジョンにも適合していることが背景にある。しかし、その多くは、大手企業が中心となって土地を借り、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を活用して売電するものだ。これでは域内への恩恵は少ないと言えるだろう。

 

 福島で、地域がつくった電気を地域に届けるエネルギー会社を立ち上げることができれば、お金や人、二酸化炭素(CO2)削減も含めた「価値」が地域内で循環し、活性化に役立てることができる。再エネ発電所が活況な今こそ、売電するだけでなく、つくった電気を小売りする仕組みを構築していくことが重要だろう。

 

「ローカルのグッド」は、地域によって異なる。これは地域ごとの課題や歴史が千差万別であり、優先度が異なるためだ。また、行政や地域企業も地域色豊かであり、一言に言い表せない。これらの多様性を大事にし、個々の地域がのびのびと事業に注力できる環境づくりを支援していきたい。

*週刊エコノミスト2017年9月26日号掲載