特集:伸びる終活ビジネス 2017年10月3日号

◇異業種参入で拡大する市場

◇旧来業者も新サービス提供

 

 8月23~25日に東京ビッグサイトで開かれた「エンディング産業展2017」には過去最高の2万5867人が来場するほどの盛況ぶりだった。

 

 ◇読経するペッパー、宇宙葬

 

 プラスチック加工業のニッセイエコ(神奈川県藤沢市)は、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」が読経する「ペッパー導師」を展示し、テレビなど多くのメディアでも取り上げられた。さまざまな宗派の経典を読むことができ、人手不足の寺院や、葬儀を行わない「直葬」で利用したいという葬儀社から問い合わせが相次いでいるという。

 

 同社は比較的IT化が遅れている葬儀業界に着目。昨年から社員の物故者慰霊祭で「受付」を務めていたペッパーを事業に生かせないかとの発想から、経典のデータを事前に取り込み、読経できるようにした。

 

 菩提寺(ぼだいじ)のない人や檀家(だんか)制度にとらわれたくない人なども対象利用者に想定しているが、まずは「副住職」としての役割を担う寺院への貸し出しサービス(価格は1日5万円~)を年内に始める意向だ。

 

 同社はこのほか、インターネットを介して葬儀や法事をライブ配信する「ネット葬儀・法事サービス」や、IT化した「電子芳名帳」などのサービスも考案している。担当者は「スマートフォンやタブレット端末も普及しており、ペッパー導師やネット葬儀が認知されていく時代になるのではないか」と期待を寄せる。

 

 遺灰をロケットなどに載せて宇宙空間に運ぶ「宇宙葬」をPRしていたのは銀河ステージ(東京都港区)。「他ではやっていないサービスをやろう」と、同様のサービスを提供している米国の会社と提携し、14年から宇宙葬を始めた。専用のロケットで宇宙空間を数分間飛行した後、大気圏で燃え尽きる「宇宙飛行プラン」(45万円)、人工衛星に載せる「人工衛星プラン」(95万円)、NASA(米航空宇宙局)の探査機を使う「月旅行プラン」「宇宙探検プラン」(各250万円)を用意している。

 

 これまでに、日本人5人が宇宙飛行プランを利用した。現在も、宇宙飛行プランと人工衛星プランに計18人の予約が入っているという。

 担当者は「今後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)や、(元ライブドア社長の)堀江貴文さんが創業した宇宙ベンチャー企業などと提携し、国産ロケットで日本から旅立つ形も目指したい」と話す。

 会場にはこのほか、スペースを取らないコンパクトな納骨堂や、先祖代々の墓ではなく夫婦だけで入る「夫婦墓」、華道家の假屋崎省吾さんがデザインした棺(ひつぎ)や、野球ボールやゴルフボールといった故人の趣味に合った骨つぼなど華やかな関連品も並び、すぐに商談に入る業界関係者も見られた。

 

 ◇市場規模は1・4兆円

 

 経済産業省の「特定サービス産業実態調査」(15年)によると、葬儀業の売上高は1兆3739億円、葬儀取り扱いは120万1341件、同省の「商業統計」(14年)によると、仏壇・仏具が多くを占める宗教用具小売業の売上高は1639億円となっている。また、矢野経済研究所が15年に発表した「葬祭ビジネス」(祭壇や棺、供花など周辺産業も含む)市場規模の15年の予測値は1兆7800億円となっており、巨大市場と言えるだろう。

 

 この巨大市場は多死社会を迎える今後、更なる拡大が見込める。内閣府の「高齢社会白書」(17年版)によると、15年に129万人だった死亡者数は、ピーク時の40年には167万9000人となり、40万人近く増加すると推計されている。

 家族の形態が変わり、葬儀が簡素化して単価が下がっているとはいえ、葬儀の件数が増えるのは間違いない。葬儀をせずに火葬だけをする「直葬」が増えることも予想されるが、葬儀に代わるセレモニーとして死後、数カ月後に行う「お別れ会」が増える可能性もある。実際、故人にちなんだこだわりのお別れ会なども人気を集めている。また、周辺産業として、遺骨でつくったダイヤモンドのついた指輪やネックレスなどの手元供養品も増えている。

 

 新たなビジネスを狙って異業種も参入する中、遺言や相続関係の手続きなど終活関係業務を中心に扱う「終活弁護士」も登場した。

 

 法律事務所アルシエン(東京都千代田区)の武内優宏(ゆうこう)弁護士(37)は遺言に財産の処分方法を書いてもらい、執行者として希望通りの葬儀を開いたり、遺品整理を行ったりしている。時には家族のいない葬儀の「喪主代行」を務め、火葬場に行って契約者が火葬されているかを確認し、散骨希望であれば、現場に立ち会うという。着手金は30万円となっている。

 

 武内弁護士は関係のある葬儀社や遺品整理業者から紹介された高齢者の相談に乗っており、「死んだら誰が発見してくれるのか」「葬儀を出す人がいない」といった不安の声も多く聞いているという。「老後の不安を抱えている人が多い。法律的な知識がある弁護士が果たす役割は大きい」と指摘する。

 

 16年秋に「終活部会」を立ち上げた東京弁護士会は来年から、財産の承継や管理などの対処法をまとめた冊子をつくり、各地の高齢者施設などでセミナーを開く予定だ。部会長の伊藤敬史弁護士(45)は「今までは家族や地域で解決していたが、今はそれができない。専門家として、そういった悩みを抱える人の受け皿になりたい」と語る。

 

◇死後も石材店が墓を管理

 

 一方で、従来の「終活業者」は厳しい状況に置かれている。

 

 都市部の納骨堂や永代供養墓、樹木の周辺に遺骨を埋葬する「樹木葬」などが人気となって、墓を持たない人が増えたため、石材店は墓石の販売が減少。中国からの墓石の輸入量は「10年前に比べて半減している」(石材店関係者)という。最近では「子供に迷惑を掛けたくない」などの理由から、先祖代々の墓を移し、更地にして返還する「墓じまい」も増えており、墓の撤去などに活路を見いだす石材店も多い。

 

 そんな中、神奈川県横須賀市の大橋石材店は契約者の死亡後も一定期間、墓を管理する「お墓のみとり」サービスを始めた。このサービスでは、契約者が生前に行政書士らと死後事務委任契約を結び、契約者の死亡後に納骨。その後、石材店が13~73カ月間(一~七周忌に相当)は墓を管理し、行政書士らが預かっている資金から墓の管理費用の支払いなどを代行する。契約者の希望した管理期間の終了後、生前の希望に合わせ、永代供養墓への移動や、散骨などを実施し、墓石・墓地の解体工事も行う。

 

 一人暮らしや子供がいない夫婦の場合、死後の墓の管理を心配して墓をつくらないことが多いが、このサービスを使えば、先祖代々の墓に入ることもできるし、新たに墓を建てることも可能になる。大橋理宏社長(51)は「石材店としては、墓じまいに力を入れるより、墓を大事にしたい人にアプローチすべきだ。石材店にとっては墓石を買ってもらえ、寺院にとっては檀家を増やすことができる」とメリットを強調する。

 

 大橋社長は商標登録した「お墓のみとり」を全国的な取り組みに広げようとしており、現在は21都道府県の石材店など約60社が同様のサービスを始めた。来年までに200社の加盟を目指すという。

 新旧のプレーヤーが入れ乱れることで、終活ビジネスは更なる成長を遂げていくことになるだろう。

(松本惇・編集部)

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週刊エコノミスト 2017年10月3日号

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