広く薄くより、一人に愛される「中身」重視のニュース分類=竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長

 中高年の方のお見合いで、嫌われる男性にはある“タイプ”がある。すぐ名刺を渡す。「営業畑一筋だ」「部長を長年やっていた」などと切り出し、肩書の羅列に終始する。所属する組織をはじめとした「器」の説明だけで、人間としての「中身」が伝わらない。

 

 米国のニューヨークで生まれ、世界17カ国・地域に展開するインターネットメディア「ハフポスト」の日本版は今年8月23日、開設5年目で初めてのリニューアルをおこなった。私が意識したのは「さえない中年男性」にならないように、という点だ。

 

 これまでのハフポスト日本版のトップページには、「政治」「経済」「スポーツ」などの記事のジャンルを表す言葉が並んでいた。新聞やテレビでよく使われる政治ニュース、経済ニュース、スポーツニュースに沿った分類だが、こうした「分け方」で複雑化した世の中をとらえきれるのだろうか、という疑問があった。

 

 私は日本の財政に関心があるが、このテーマは、政治家や官僚への取材が不可欠な「政治ニュース」である一方、社会保障費がふくらむ高齢者のことも考える「医療ニュース」でもある。集めた税金をお年寄りにばかりに配れば、若者への行政サービスが滞る。「社会的な安心感」がそがれ、元気な若い人が減るかもしれない──。現代の若者を知るための「社会ニュース」や、若年層の雇用や起業、転職状況などの「経済ニュース」も知っておく必要がありそうだ。

 

 ダイナミックな現代社会をとらえるため、「政治」や「経済」などの「器」ではなく、「中身」にフォーカスした記事ジャンルを作った。新しいハフポスト日本版で目立たせたのは「これからの経済」「Ladies Be Open」「だからひとりが好き」という独自のニュース分類法だ。

 

 ◇明るい「これからの経済」欄

 

「これからの経済」欄では、株価の動きや大企業の人事を追うのではなく、明るい経済報道を心がける。テクノロジーを使って新しいビジネスに励む起業家、芸術家、若手社員。誰も気づいていない若者のトレンドや社会を生きる人の心の変化を「お金」という切り口で描く。記事のジャンル名に「これから」と付けただけで、器ではなく中身が大事になる。

 

「Ladies Be Open」では、生理と働きかたの関係などタブー視されていた女性の身体の話題を「オープンに話そう」と呼びかける。「だからひとりが好き」では、集団主義的な社会から脱皮しようとする日本社会を取材し、一人で学んだり仕事をしたりすることをポジティブに発信する。

 

 ハフポスト日本版は2013年5月の開設以降、ユーザー数がどんどん伸び、毎月1500万人の読者が来る大きなメディアになった。その一方、LGBTQなど性的少数者の話題などテーマを重んじてきた。テーマという中身が具体的だと、どのような読者が集まるのか、メディア側にとっても、広告を出すスポンサー側にとっても分かりやすい。消費者の嗜好(しこう)が細分化する中、「ハフポスト」「毎日新聞」「NHK」など大きな器だけを掲げていると、たくさんの人にコンテンツが届くように見えるが、単に広く薄く伝わるだけだ。お見合いと一緒で、プロフィールだけを読むと魅力的に見えるかもしれないが、一人の相手から愛されるほどの「中身」が伴っているかどうかは分からない。

 

 報道とは何か。ニュースの分類とは何か。ふだん手にしている「器」を根本的に問うことがメディアの今後の成長を左右するのだと思う。

http://www.huffingtonpost.jp/

竹下隆一郎(ハフポスト日本版編集長)

たけした・りゅういちろう◇1979年生まれ。朝日新聞経済部記者を経て、2014~15年米スタンフォード大学客員研究員。16年5月から現職。「会話が生まれる」メディアをめざす。「だからひとりが好き」などの企画が評判。


*週刊エコノミスト2017年10月3日号掲載