「社員の多様性が武器 果敢に事業変革」石黒成直 TDK社長

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社のルーツは。

 

石黒 当社は82年前、東京工業大学の2人の博士が開発した磁性材料「フェライト」を、創業者が「日本人の開発品。何とか製品化できないか」と取り組んだのが始まりです。いわば大学発ベンチャー企業です。フェライトは磁性を帯びた電子材料で、今なお進化を続ける古くて新しい材料です。研究を進める中、電磁気に応用できる材料として、戦前はラジオ・通信機器のアンテナ、戦後はコンピューターや家電に使われるようになりました。フェライトを作るには酸化鉄を焼いて形成する「焼成」技術が必要です。当社のビジネスは、フェライトを作る磁性材料技術と、それを使ったプロセス技術、生産技術を根に、さまざまな技術・製品が木の枝を伸ばした構図です。

 

── 1980年代の記憶がある世代には、TDKと言えばカセットテープというイメージがあります。

 

石黒 カセットテープも磁性技術の延長で、酸化鉄を粉にして、塗料に混ぜて、テープ上に塗布するものです。カセットテープやビデオテープなどのメディア事業はピーク時の80年代後半には全社の売り上げの約4割を占めました。しかし、この事業からは完全撤退しました。それ以来、消費者向けビジネスはほとんど手がけていません。むしろ当社は最初から法人向けビジネスが基本路線です。今は、スマートフォン、自動車、産業機械など、あらゆるメーカーに電子部品やセンサーを納入しています。最終製品の見えない部分に入る基板上の製品が大半ですが、身の回りの多くの製品で使われています。

 

── 具体的には。

 

石黒 スマートフォンのリチウムイオン電池や各種の電子部品・センサーのほか、パソコンやレコーダーに使われるハードディスクドライブ(HDD)の部品などです。自動車も電化が進むと、モーターが多く使われ、その分磁石も使われます。パワーステアリングも磁気センサーが角度を制御しています。

 

◇センサーは成長領域

 

── 製品別のポートフォリオは。

 

石黒 売り上げベースでは(1)電気を放出・蓄積するコンデンサーなど受動部品(電流制御などの能動操作をしない部品)が約40%(2)センサー応用製品が約6%(3)HDD用磁気ヘッドなど磁気応用製品が約25%(4)リチウムイオン電池などのフィルム応用製品が約25%です。センサーは今後の成長領域だと期待しています。

 

── そのセンサー事業をどう育ててきたのですか。

 

石黒 当社は、磁気信号を使って、HDDの記録を書き換える磁気ヘッドで世界屈指のシェアを持ちます。しかし、HDDの出荷数は00年代後半から減少傾向が続きます。磁気ヘッドの統括を務めていた当時「どうやって既存技術を生かして次の枝を作れるか」を模索し始めました。部署内での議論の結果出てきたのは、磁気ヘッドの材料である「TMR素子」を使った高精度センサーでした。微弱な磁気信号をキャッチする特性をセンサーに生かしたのです。技術者3人が細々と1~2年かけて試作品を完成させ、大手自動車関連メーカーに飛び込み営業をかけて「使い道はありませんか」と持ちかけました。その後、自動車関連メーカーとの共同開発も進み、今や40件以上の引き合いがあります。今後、大きく伸ばしていく製品と位置付けています。

 

── センサー事業では最近2年間で立て続けに他企業を買収しました。

 

石黒 理由は二つあります。一つ目はセンサー技術の引き出しをできるだけ確保したかったからです。センサーは単に製品を売るというビジネスではなく、製品とソリューション(課題解決策)をお客様に提供するビジネスになります。元々当社には、磁気センサーや温度、圧力センサーの技術はありましたが、それ以外の技術は不足していました。そこで、TDKが持たない別種類の磁気センサーを扱う独ミクロナスや、微細・集積化するためのMEMS(メムス)技術を使ったセンサーの知見を持つ米インベンセンスや仏トロニクスマイクロシステムズを買収しました。

 

── もう一つの狙いは。

 

石黒 技術をそろえて多様なデータを採取しても、処理する頭脳の役割がなければ無意味です。そこで今年3月、IC(集積回路)設計能力を持つベルギーのICセンスの買収を決めました。また、商品企画力も強化する必要があります。インベンセンスはこの能力にも優れているとみて、グループに入ってもらいました。

 

── カセットテープ、HDD事業、そして足元のセンサーへと、果敢に事業を変化させて成功してきた秘訣(ひけつ)は。

 

石黒 創業時にベンチャー企業だっただけに「おもしろいことには挑戦してみたら」という企業文化があったことです。また、人材の多様性も作用したと思います。まだ、転職が珍しかった80年代から、当社は中途採用が多く、新卒採用とは異なる発想で活躍しています。今でもかなり中途入社の社員を採用しています。また、86年に香港の磁気ヘッドメーカー「SAEマグネティックス」を買収して以降、M&A(企業の合併・買収)を重ねてきました。その結果、今や全従業員10万人のうち9万人が外国人です。執行役員18人のうち6人は外国人で、経営会議も英語です。日本内外の力を合わせていろんなことをやっていこうという社風が醸成されています。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 33歳でルクセンブルクのカセットテープ工場設立のために渡欧し、14年間駐在しました。30代前

半は工場操業、後半は欧州全体の供給体制構築で、苦労の連続でさまざまなことを体験しました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 吉村昭の『高熱隧道』。吉村作品の魅力は、事実を徹底的に調べ、根源にある人間の本質を探る筆致です。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 料理を作ってゆっくり過ごします。つまみを作って気の置けない仲間を家に呼ぶのも好きです。

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◇いしぐろ・しげなお

 1957年生まれ、東京都出身。都立府中高卒業、北海道大中退。82年東京電気化学工業(TDK)入社。カセットテープや磁気ヘッド部門などを担当し、2014年執行役員。16年から現職。欧州、香港の駐在経験が長く、海外駐在は通算36年に及ぶ。59歳。

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事業内容:電子部品・電子材料

本社所在地:東京都港区

創業:1935年

資本金:326億円

従業員数:9万9693人(2017年3月末現在)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:1兆1782億円

 営業利益:2086億円