特集:ビットコイン入門 2017年10月24日号

◇仮想通貨に集まる世界マネー

◇「分裂」「規制」ものともせず

 

田茂井治(金融ライター)

 

 ビットコインをはじめとした仮想通貨の存在感が急速に高まっている。

 

 仮想通貨の情報サイト「コインマーケットキャップ」によると、仮想通貨の時価総額の合計は1543億ドル(約17兆円)超(10月11日時点)。トヨタ自動車の時価総額(約22兆円)に及ばない規模だが、値上がりの勢いはすさまじく、市場規模は2015年年初から20倍超に拡大した。仮想通貨の時価総額の5割を占めるビットコインの価格は、年初の1BTC(ビットコインの単位)=1012ドル(約11万円)から10月10日の4801ドルまで4・7倍に急騰した。

 値上がり期待が値上がりを呼ぶ状態を「バブル」として警戒する金融関係者は多い。米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は9月、「ビットコインは詐欺」と痛烈に批判し、「チューリップの球根より悪い」と17世紀オランダのチューリップ・バブルよりもタチが悪いと切り捨てた。

 

 一方、現在の高値は「通過点」に過ぎないと見る投資家もいる。米大手ヘッジファンドでマネジャーを務めた著名投資家のマイケル・ノボグラッツ氏は「全資産の10%を仮想通貨で保有している」と明かしながら、今後5年で市場規模は5兆ドル(約560兆円)に達すると強気の見通しを示す。「インターネット以来の大発明とされるだけに、ビットコイン(時価総額約8・7兆円)だけで、将来的にアップルの時価総額(約80兆円)に達してもおかしくはない」(外資系投資銀行トレーダー)と予想する金融関係者もいる。

 

 08年に「サトシ・ナカモト」と名乗る人物が発表した論文から生まれたビットコインは、国や中央銀行のような管理者が不在で、信用の裏づけがなく、匿名性が高いという特徴を持つインターネット上の「通貨」だ。当初、その保有者はネットに詳しい一部の層に限られていた。だが、急速な拡大を受けて、もはや世界の金融関係者や政府関係者も無視できない存在になっている。

 

 ◇「コインからコインへ」で急騰

 

 仮想通貨はビットコインのほか、イーサリアム、リップルなど800~1000種類が存在する。

 

株式や為替は世界情勢や金融政策、資源価格などの影響を強く受けるが、仮想通貨は金融当局の規制や技術的な課題に価格が左右されやすい。7月には取引量拡大への技術対応をめぐり、ビットコインが「分裂」する事態に発展。騒動を受けた投げ売りにより、ビットコインの価格は7月半ばに高値から30%急落した。

 

 9月4日には、中国が仮想通貨を発行して資金調達を行うICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨の発行)の禁止を発表。中国国内の取引所を閉鎖する方針も明らかにして、冷や水を浴びせた。

 

 米国やシンガポール、韓国の金融当局もICOの規制に乗り出しており、規制の動きは広がると見られている。技術的な課題では、11月にビットコインが再分裂する可能性もささやかれている。

 

 しかし、仮想通貨の市場関係者は強気の姿勢を崩していない。「ビットコインが再分裂して価格が急落しても、目ざとい投資家の買い場になるだけ」と仮想通貨取引所関係者は意に介さない様子だ。

 

 度重なる暴落にもかかわらず、仮想通貨が値上がりを続けるのは、売られにくい理由があるからだ。

 

売られにくい理由・その1

コインからコインへ

 

 第一に、含み益を手にした投資家が、現金化せずにビットコイン以外の仮想通貨に資産を移す傾向がある。今年の上昇相場で5000万円を超す含み資産を手にした投資家の一人は、「現金化すると半分が税金にもっていかれるので換金できない」と嘆く。そのため、急騰したビットコインなどの主要仮想通貨売って別の仮想通貨を買い、分散化を図っているという。ビットコインが売られたとしても、それは他の仮想通貨への乗り換えに過ぎず、結果として仮想通貨市場の中でマネーが膨らむ構造ができている。

 

 ビットコインからより匿名性の高い仮想通貨に乗り換える動きもある。匿名性の高さで定評があるダッシュやモネロといった比較的新しい仮想通貨の人気が高まり、時価総額の上位に上がってきた。ビットコインは、コインを管理するための「ウォレット(財布)」のアドレスからコインのやり取りを追跡可能だが、ダッシュなど一部のコインは取引の際に送金元を匿名化できる。モネロ、ダッシュにジーキャッシュを加えた3通貨は「匿名三兄弟」と呼ぶ人もおり、「中国や韓国など自国通貨の信用力が高くない地域で人気」(取引所関係者)という。

 

売られにくい理由・その2

根強いファン

 

 第二には、熱心な仮想通貨ファンの存在がある。投資家やネット関係者が集うビットコイン関連の会合が毎週のように都内各所で開催されている。ネット上の掲示板「2ちゃんねる」発の仮想通貨であるモナコインもファンが多い。ファンの1人が15年に長野県の土地をモナコインで購入し、「モナコイン神社」を「建立」したことも話題になった。

 

 さらに仮想通貨による資金調達であるICOの市場が拡大したことで投資機会が拡大した。こうして、仮想通貨は現金化されないまま、規模が拡大し続けているのだ。

 

 ◇日本が取引シェア5割

 

 値上がりを続ける仮想通貨に、既存の金融機関が参入を始めている。

 

 スイスの資産運用会社として約50年の歴史を持つファルコン・プライベート・バンクは7月にビットコインの扱いを開始した。8月からはイーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインの取り扱いも始めている。また米ゴールドマン・サックスも仮想通貨関連業務への参入を検討している。

 

 ヘッジファンドはさらに早くから食指を動かしてきた。12年に南欧マルタ共和国のフィンテック企業Exante(エグザンティ)が世界初のビットコイン・ヘッジファンドを組成。1年で5000%近くのリターンを得て話題を集めた。その後も多数のヘッジファンドが登場している。

 

 日本でも、4月施行の改正資金決済法によって仮想通貨の法的位置づけが定まり、仮想通貨取引所が登録制になるなど環境整備が進んだことで、既存の金融機関が事業を検討しやすくなった。ネット系金融機関のマネーパートナーズやSBIグループが仮想通貨取引所の開設を計画している。さらに、関係者によれば、「DMMドットコム証券が12月にも仮想通貨の取引に参入予定」という。

 

 関連する金融商品も登場している。GMO、DMM、SBIとネット系企業大手が相次いで仮想通貨を「採掘」する資金を投資家から募る「マイニングファンド」の計画を公表している。

 

 

 実は、日本は知られざる仮想通貨大国だ。17年1月に中国が仮想通貨の規制を強化したことで、仮想通貨の取引量に占める日本のシェアは少なくとも4割まで上昇した。高い時は5割に達すると言われている。日本人投資家が含み益を生じた仮想通貨を手放せない状況にある影響は小さくない。新興の仮想通貨取引所がさらなる投資を喚起するのか。市場は過熱している。

週刊エコノミスト 2017年10月24日号

発売日:2017年10月16日号

特別定価:670円