第57回 福島後の未来:韓国・済州島をCO2ゼロの島に 電気自動車を蓄電設備に活用=ファン・ウヒョン

◇ファン・ウヒョン  1983年韓国の中央大学卒、専門は電気工学。2009年データマイニングの分野で博士号取得。86年韓国電力公社入社、09年より政府とのスマートグリッド実証事業のリーダー。12年蓄電池、太陽光発電、電気自動車、スマートメーターシステムを含むスマートグリッドの試行事業を担当。14年より蓄電池&スマートグリッド事業団長。16年12月より現職。
◇ファン・ウヒョン  1983年韓国の中央大学卒、専門は電気工学。2009年データマイニングの分野で博士号取得。86年韓国電力公社入社、09年より政府とのスマートグリッド実証事業のリーダー。12年蓄電池、太陽光発電、電気自動車、スマートメーターシステムを含むスマートグリッドの試行事業を担当。14年より蓄電池&スマートグリッド事業団長。16年12月より現職。

ファン・ウヒョン(韓国電力公社本部長済州道担当CEO)

 

 現在、韓国の済州島では、島を「カーボン・フリー・アイランド(CFI)」、つまり二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにする野心的なプロジェクトを進めている。

 

 再生可能エネルギーを大量導入し、2030年には島内を走る車を100%電気自動車(EV)にする目標だ。ほかにも、電気使用状況が分かるスマートメーターの導入や、蓄電池、エネルギーマネジメントシステムをはじめとするスマートグリッド(電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化する送電網)関連の技術も導入していく。

 

 済州島は韓国で有数の観光地だ。それゆえ朝鮮半島に先んじてクリーンな島にしたい狙いもある。

 

 済州島のプロジェクトの韓国電力公社の総責任者として、日本企業に期待するのは、済州島での技術の実証と投資、そして将来は韓国企業とともに世界に出ていくことである。

  済州島は韓国の南にある島で広さは約1800平方キロとソウル市の3倍だが、人口はわずか66万人。しかし、島を訪れる観光客は年間1580万人に達する。仕事などで短期滞在する人も含めると、実質80万人が島に滞在している。将来は高い経済成長と人口増も予測される。

 

 島内の電源構成は、出力59万キロワットの火力発電所、40万キロワットの海底送電線による半島からの供給、そして約40万キロワットの再生可能エネルギーの計約140万キロワット。再生可能エネルギーは主に太陽光発電と風力発電だ。島の今年のピーク需要は約92万キロワットで、現状は十分供給できている。

 

 カーボン・フリーに向けて、太陽光、風力のほか、バイオマスなど他の電源も含めた再生可能エネルギーだけで430万キロワットになる見込みだ。ここには約190万キロワットの洋上風力発電も含まれる。ただし再生可能エネルギーの発電量は天候に左右される。設備利用率を考えると、実質的には火力発電にして120万~140万キロワットの発電容量に相当する計算だ。

 

 当面、火力発電所はバックアップ電源として運転することになるが、それをどこまでゼロに近づけるかが、カーボン・フリーに向けたこれからのカギとなると考えている。

 

 そこで重要な役割を果たすのが、EVだ。今年中に島内に2万9000台のEVが導入される見込みだ(島内の自動車の約10%)。公共交通や自治体の車両が先行する。30年にEV普及率100%、43万台にする目標だが、これは経済成長も見込んだ数字である。こうして導入されたEVを蓄電池として活用することで、不安定な再生可能エネルギーの電気を取り込むことができる。

 

 急速充電器を含む公共の充電設備も7・5万台の設置を見込んでいるが、そこでは「V2G(ビークル・トゥ・グリッド)」、すなわちEVから送電網に電気を供給する技術の導入も見込んでいる。アイデアのひとつが、V2Gを前提とした駐車ビルだ。V2Gの設備を備えた駐車場はそれだけで大きな蓄電設備となる。

 

 このほか、定置型の蓄電池をはじめ、電力需給量の1秒単位の計測が可能なスマートメーターを18年中に島内38万軒すべてに導入することや、半島とつなぐ送電線の増強も見込んでいる。

 

 さらに、韓国企業のLS産電の前社長であるチェ・ジョンウン氏が米シリコンバレーで設立したエネルギーIoT(モノのインターネット化)企業のエンコアードとはMOU(事業に関する覚書)を結んでおり、主に住宅向けのエネルギーマネジメントやスマートホームのソリューションを含むサービスも展開していく予定だ。

◇加波島の成功を広げる

 

 韓国のエネルギー政策は、文在寅(ムンジェイン)大統領の就任による政権交代で大きく変化した。天然ガスの利用促進と再生可能エネルギーの拡大という方向に向かっている。特に、再生可能エネルギーの拡大は、パリ協定の目標達成という意味が大きい。福島第1原子力発電所事故以降、世界的には原子力の開発が停滞するなかで、再生可能エネルギーの役割はより重要なものとなっていくだろう。

 

 韓国のCO2削減目標は、30年までに、対策をしないケースと比較して37%削減することだ。私自身の認識としては、もう13年しか残っていないというのが率直なところだ。30年の再生可能エネルギーの導入目標は、新政府が昨年の11%から20%に引き上げた。現在はまだ6・6%以下だが、日本で固定価格買い取り制度によって太陽光発電を中心に普及が拡大したことに注目している。

 

 私たちがCO2削減に取り組み始めたのは08年。私自身は09年からスマートグリッドの実証に取り組んできた。済州島では168の企業や研究所が参加した多くの実証試験が行われている。特にカーボン・フリーに向けて私たちの自信の根拠となるのが、11年から行われている済州島の南にある加波島での実証試験だ。

 

 加波島は人口約280人の小さな島で、電力供給は主にディーゼル発電機を用いていた。ここに再生可能エネルギーと蓄電設備を導入し、先進的なマイクログリッドシステム(地域内で需給を安定させる送電網)を構築し、運用を自動化した。その結果、今年度は6日間にわたり再生可能エネルギーだけで電力供給を実現できた。済州島のプロジェクトは、この加波島の経験を拡大していくステップにほかならない。

 

 済州島のプロジェクトの投資額は、日本円にして1兆5000億円程度。EV関連の投資額が大きいが、民間企業からの投資を呼び込む考えだ。そして、その環境を整えるのが、韓国電力公社と済州特別自治道政府の役割である。韓国電力公社では、私が中心となって計画を立案してきた。大量の再生可能エネルギーを導入し、運用するためには、送配電網を高度化する必要がある。その準備も韓国電力公社の役割だ。今年は約90億円、来年は約100億円の投資になる見込みだ。

 

 一方、道政府はCFIを実現するための政策を立案し、民間からの資金を呼び込む枠組みをつくる。近く発表予定のこの具体策に、投資の実現性はかかっている。

 

 私は、1997年に採択された最初の温室効果ガス排出削減の枠組みである京都議定書採択以降、日本の政策や技術に関心を持ってきた。特にシステム面では日本の高い技術を評価している。そのため済州島のプロジェクトには、資本参加を含め、日本企業にも多様な形で参加してもらいたいと考えている。欧州ではなく東アジアでカーボン・フリーを実現するということは、お互いにとって大きな意味があるはずだ。

 

 今秋の訪日でも、日本の大手電力、都市ガス、通信会社と会合の機会を持つことができた。ベンチャーも含めた企業に広く門戸を開いている。日本で実績のある太陽光発電や風力発電の開発のポテンシャルも高い。日本ではなかなか実証試験が進まないと聞くV2Gにも積極的にトライできるフィールドだと考えている。

 

 済州島という離島でのプロジェクトが成功すれば、その経験は多くの途上国を含む世界各地に展開できる。何よりも気候変動問題を解決したいというのが私たちの考えである。特に日本企業には、済州島を使って技術の実証を行い、気候変動防止につながる新しいビジネスを共に展開していくことを期待する。

*週刊エコノミスト2017年10月31日号掲載