特集:減らさない投資 2017年10月31日号

人生100年時代に突入

将来の自分と家族を守る

 

「物価上昇で、お金の価値は目減りします」「退職後、ゆとりある生活を送るためには、公的年金だけでは足りません」──。

 

ATM(現金自動受払機)のついでに、ふと手に取ったパンフレットに、不安をあおるセリフが並ぶ。銀行や証券会社のセールストークだろうと高をくくり、メガバンクに勤める友人を笑い飛ばすと、真顔で返された。「人生100年時代の今、将来を見据えると、資産を増やすというより、守ることを真剣に考えなければいけない」。

◇年金だけでは足りない

 

 1990年代後半以降、日本は物価が継続的に下落するデフレ状態にある。デフレは物価下落であると同時に、貨幣価値の上昇を意味する。つまり、現金をそのまま保有しているだけで価値が上がる。それなら、リスクをとって運用する必要はない。運用について、深く考える必要がなかった理由はここにある。

 

 ところが、2012年末の安倍晋三政権発足後、物価はおおむねプラス圏で推移するようになった。日銀が目指す2%の物価目標には達していないものの、物価が上昇すると、現金と預金で持っている資産は実質的に目減りする。同じ値段で買えるモノの価値が下がるからだ。

 

 仮に年2%のインフレが続くと、1000万円の価値は5年後に約1割減の905万円に、20年後には672万円まで下がる計算になる。

 

 人口減少がすでに始まり、同時に急激な高齢化が進む日本では、社会保障は危機的な状況にある。将来の生活を年金だけに頼れない。人生100年時代を生きる日本人は、不安を拭い去るためにも、投資に目を向けなければならないのである。

 

 生命保険文化センターが全国18~69歳の男女約4000人を調査したところ、老後を夫婦2人でゆとりを持って暮らすために必要な生活費は月34万9000円(16年度)だった。

 

 一方、年金支給額をみると、17年度の厚生年金は夫婦2人のモデル世帯で月22万1277円だ。その差額の12万8000円を毎月、貯蓄から取り崩すとすると、20年後に3000万円、30年後に4600万円を超える。人生100年時代には、どれだけ貯蓄があっても十分とはいえない。

 

 ◇有利な制度を駆使

 

 政府は、税制メリットを設けて投資の普及を進めようとしている。証券業界が語呂合わせで「投(とう=10)資(し=4)の日」と定めた10月4日、証券会社は各地でセミナーを開いた。「貯蓄から投資へ」をかけ声に、官民挙げて個人投資家の育成に取り組んでいるが、道半ばだ。

 

 14年1月に始まった少額投資非課税制度の「NISA(ニーサ)」は、株式や投資信託の売却や配当金など、利益にかかる税率軽減が13年末で終わり、20%へと倍増することを機に導入した。対応策をとらないと株式投資が冷え込み、アベノミクスで堅調な動きを続ける株式相場が下落しかねないとの懸念からだ。子どもや孫の進学や就職に必要なお金を準備する「ジュニアNISA」(16年1月開始)は、金融資産の6割を持つ60歳以上の高齢者から、現役世代に資産を移す狙いがあった。

 

 また、17年1月スタートの個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」は、少子高齢化により、公的年金の支給水準低下が見込まれたことから、自助努力で補う必要性が高まったためだ。

 

 いずれも政府の都合による制度で、国民のことを真剣に考えた結果といえるだろうか。だからこそ、「今が投資のチャンス」と乗せられてはいけない。自分の身を守るためには、有利な制度を駆使しなければ生き残れないのだ。

 

 減らさない投資で、賢く将来の自分と家族を守ろう。

(酒井雅浩・編集部)

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 ◇NISA(ニーサ)

 英国の「個人貯蓄口座」(Individual Savings Account=ISA)を参考に作られた。日本(Nippon)のNを組み合わせた愛称。ジュニアNISAは未成年版。つみたてNISAはひらがな。

 

 ◇iDeCo(イデコ)

 

 確定拠出を意味する英語(Defined Contribution)の頭文字と、自分自身で運用する制度の特徴から「私」を意味する「i」を組み合わせた。17年1月から原則すべての現役世代が個人型に加入できるようになったことから、愛称ができた。

 

 

週刊エコノミスト 2017年10月31日号

発売日:2017年10月23日

特別定価:670円