次世代車市場の「台風の目」になる=小谷進・パイオニア社長

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── オーディオのイメージが強いパイオニアですが今の事業領域は。

 

小谷 1938年にホームオーディオ向けのスピーカー事業で創業してから、2018年1月で80周年を迎えますが、現在は車載機器事業に経営資源を集中しています。

 

 主力商品は「カーオーディオ」と「カーナビ」で、比率は金額ベースで6対4です。この二つで全事業の8割を占めます。それぞれアフターマーケット(市販)と自動車メーカーのブランドで生産するOEM(受託生産)があります。残りの2割はCDやDVDなど「光ディスクドライブ」や、クルマ部品の「ファクトリーオートメーション」(自動製造ライン)などを手がけています。

── 車載機器の市場シェアは。

 

小谷 アフターマーケットはオーディオが世界販売約720万台、ナビが約57万台で、ともに世界シェアは3割に上ります(16年度)。

 一方、OEMはトヨタ自動車をはじめ国内大手自動車メーカーと取引があります。欧米でも自動車大手が主要な顧客です。車載搭載機器は陳腐化が早いので、クルマの開発期間を考え、3~4年後に必要となる技術を提案できることが評価されています。市販とOEMを合わせた販売台数は年間約1000万台超です。

 

 ◇自動運転の中核技術を開発

 

── 自動運転化の流れの中、どんな手を打っていますか。

 

小谷 自動運転に必須の技術を持っている当社には、ビジネスチャンスが訪れています。

 例えば光ディスクの技術を生かし、光を使って障害物を検知する「LiDAR(ライダー)」と呼ばれるセンサーの実用化を目指しています。完全自動運転はライダーなしでは実現しないと言われています。

 ただ、自動運転の実験車両などで使われている既存品はサイズが大きく、1個数百万円と高価なため市販車への搭載には向きません。そこで、実用的なライダーを開発しました。

 

── その特長は。

 

小谷 カメラやレーダーと比べて悪天候や夜間に強いライダーは、クルマ向けに各社が開発を競っています。当社のライダーはクルマのヘッドランプの中などに組み込めるように小型・軽量化を目指しています。

 価格は1万円以下での提供が目標です。クルマ1台当たり4~5個ライダーが必要ですが、それでも4万~5万円で済みます。国内自動車メーカーなどにサンプル品を提供し、来年の改良版の評価を見て、19年後半に量産準備に入ります。

 ただ、ハードの販売だけでは価格競争に陥ります。そこでライダーを使った自動運転向けの高精度地図サービスも考えています。

 

── 高精度地図とは。

 

小谷 現在のカーナビの地図は道路が「行き」「帰り」の2車線しか表示されません。複数車線などさらに細かい情報が反映されたものを高精度地図といい、これも自動運転に不可欠な技術です。その基盤づくりを手がけるダイナミックマップ基盤(DMP)には当社の地図子会社インクリメントPも出資しています。DMPがつくる基盤の上に、地図各社は独自に多様な情報を付加して高精度地図を提供する形です。

 ナビの地図は道路の変化に合わせ定期的な更新が必要ですが、これは従来、人海戦術の作業でした。しかし、カメラやライダーを搭載したクルマであれば、走行するだけで自動的に道路のデータを収集できます。搭載車が増えれば膨大なデータを集めることができ、高精度地図に必要な情報を吸い上げます。「データエコシステム」という地図更新システムの構築が最終目標です。

 

── 9月に欧州の地図大手ヒアと業務・資本提携で合意した狙いは。

 

小谷 世界的な地図サービスの提供です。その一つが、インクリメントPとヒアが進める地図の仕様の共通化です。現在、ナビの地図は地域ごとに仕様が異なります。そこで、自動車メーカーがどの地域でも一貫性のある地図の供給を受けられるようなサービスを提供します。

 フォルクスワーゲン、ダイムラー、アウディの独3社を親会社とするヒアは、欧米のナビ市場で80%という圧倒的なシェアを持っています。ヒアのパートナーと国内シェア30%の当社が協力すれば全世界をカバーすることも可能です。

 収益は、自動車メーカーへの販売収入と地図更新時の使用料収入です。現在、定期的な更新サービスはナビ1台当たり数万円の売り上げなので、大きなビジネスです。世界で走っているクルマは約10億台。その更新需要の取り込みを狙います。

 

── 新規分野の開拓は。

 

小谷 一つは有機ELの照明(写真)です。フィルムタイプは曲げることができるので、クルマのデザインを重視する欧州自動車メーカーを中心に、テールランプや車内照明に使いたいというニーズがあります。今年6月にはフィルムタイプに強みを持つコニカミノルタと合弁会社を設立しました。

 もう一つは、これまで培った光や音の解析、画像処理の技術を駆使した医療・健康機器です。第1号製品として、光の技術を使った小型血流計を、透析機器大手JMSと共同開発しました。

 

── 今後の戦略は。

 

小谷 技術革新が早い車載機器業界で必要となる開発スピードと、ヒアのような強いパートナーを確保することで、自動運転の世界標準作りの一翼を担いたいです。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 通算20年の海外駐在の最初が33歳の時のロンドンです。6年半の間にオーディオの仕入れから、ビデオデッキなどの新商品の企画まで、さまざまな経験が大きな財産になりました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 息抜きでよく読むのが佐伯泰英さんの時代小説『居眠り磐音 江戸双紙』。人間としてこうありたい、と思わせる登場人物が魅力です。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 週末に仕事やプライベートでのゴルフをしたり、孫の面倒を見たりしています。

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 ◇こたに・すすむ

 1950年生まれ。独協高校、明治学院大学卒業後、75年パイオニア入社。2000年パイオニアエレクトロニクス(USA)社長、03年パイオニア執行役員、07年常務執行役員などを経て08年11月から現職。67歳。

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事業内容:車載機器などの製造・販売

本社所在地:東京都文京区

創業:1938年

資本金:928億8148万円(連結)

従業員数:1万6763人(連結)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:3866億8200万円

 営業利益:41億6700万円