第58回 福島後の未来:断層評価の基準改定 専門家不備の規制委改革を=立石雅昭

◇たていし・まさあき  1945年大阪府生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。専攻は地質学。79年新潟大学理学部助手を経て94年同大教授。一方で野外の地質調査に従事する。2008年より新潟県の「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」の委員も務める。
◇たていし・まさあき  1945年大阪府生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。専攻は地質学。79年新潟大学理学部助手を経て94年同大教授。一方で野外の地質調査に従事する。2008年より新潟県の「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」の委員も務める。

立石雅昭(新潟大学名誉教授)

 

 原子力規制委員会は10月4日、東京電力が再稼働を目指している新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機(各135・6万キロ ワット)について、規制委が定めた新規制基準の審査に「適合している」とする審査書案を了承し、同原発の再稼働を事実上容認した。

 

 

 同原発の敷地内には23本の断層があり、活断層かどうか判断する年代判定がカギとなってくる。活断層と判断されると規制基準を満たさないため、稼働できない。東電側は新規制基準の適合性審査申請で「調査の結果、敷地内の断層は全て20万~30万年前を最後に活動しておらず活断層ではない」としており、規制委も追認した。

 

 しかし筆者らの調査では、敷地周辺の「中位段丘」(12万~13万年前の地球温暖期に堆積した階段状の地形)の地層に挟まれる火山灰層と同じ火山灰層が、同原発敷地内の地層の最上部に含まれている。二つの火山灰層の位置関係から、12万~13万年前以降にずれが生じたとみられる。

 

 東電に筆者らの調査との矛盾を指摘したところ、東電側は「段丘を作る地層の表面のみ12万~13万年前に形成された」と主張した。この主張には疑問があり、筆者らは規制委に「厳正な科学的審査」を求めたが、規制委は東電側の主張を一方的に認めた。

 

 規制委の審査方法には疑問を持っているが、それ以上に筆者が問題視しているのは、審査の基準となっている新規制基準だ。地震を引き起こしうる活断層の認定基準が、地震を予測する際に用いられている基準と、原発設置の規制基準との間で乖離(かいり)が生じているのだ。

 

 ◇地震本部「40万年前以降」

 

 地震予測の際に用いられる活断層の基準は、国内の地震に関わる調査・研究機関をとりまとめ、地震活動の予測を行っている政府の「地震調査研究推進本部」(地震本部)が2010年11月、「活断層の長期評価手法」を公表している。その中で「最近数十万年間に繰り返し活動し、将来も活動することが推定される断層」と定義している。

 

 最近とはどのくらいの年代を指すのか。地震本部はさらに「最近の地質時代」に関する評価方法についても解説しており、「約40万年を目安とする」としている。これらの定義に照らし合わせると、地震本部の定義する活断層は「少なくとも40万年前以降」ということになると考えられる。

 

 一方、新規制基準では、活断層の明確な活動年代について「12万~13万年前以降」としている。その時期の地層がなかったり、確認できなかったりした場合に「40万年前以降」までにさかのぼっての調査を「要求」している。地震学における活断層の定義が40万年前以降となっているにもかかわらず、新規制基準で定めた活断層の認定基準が一律で「40万年前以降」となっていない点は、違和感を禁じ得ない。

 

 

 規制基準は、電力会社が原発を運転するに当たって必要な安全対策や設備などを国が定めたものだ。規制基準を満たさない限り、原発は運転できない。11年3月の東電福島第1原発事故で、それまでの規制基準が不十分だったことがあらわになり、見直して13年7月に施行されたのが新規制基準だ。

 

 新規制基準では、地震への備えや敷地への浸水対策を強化している。活断層上に原子炉建屋などの重要構造物の設置を認めていないほか、電力会社に対し、原発敷地内や周辺の活断層のチェックも厳格にするよう要求している。

 

 それにもかかわらず、活断層の定義自体は06年に改訂された耐震設計審査指針を踏襲したものであり、規制委自体の活断層の判定基準は、地震本部による地震活動の予測基準よりも「甘い」ものとなっている。

 

 新規制基準の策定に当たっては、規制委のメンバーだけでなく、外部の専門家も携わった。地質など地盤に関する専門家も含まれている。活断層の定義については、施行時に規制委の委員長代理を務めた島崎邦彦・東京大名誉教授をはじめ、地質や地震の専門家が学界の「常識」となっている「40万年前以降に活動した断層」とするよう求めた。

 

 

 しかし実際の新基準は、いわば「妥協の産物」となっている。これでは本当に福島第1原発事故の反省が生かされているのか、疑問でならない。

 

◇地震学者もメンバーに

 

 もう一つの問題点としてあげられるのが、規制委員会を構成するメンバー5人の中に、現在、地震の専門家が入っていないことだ。14年9月に島崎氏が退任し、地質学者の石渡明・元日本地質学会長が委員に就任したが、他の4人は全て原子力の専門家だ。原発の安全性を審査するには、地質学と地震学の両方の視点が不可欠だ。地震の専門家が欠けている現在、適正で厳格な審査が行われているのか、と懸念はぬぐえない。

 

 

 地震は原発の最大のリスクだ。地震は地下の断層が応力に耐えかねて破断して発生する。地震の発生や伝搬、増幅の過程を予測するには、地下の地質を知ることが求められ、それを知って初めて地表の構造物への地震動が推定されるのだ。審査に当たる規制委員会や原子力規制庁には、地質や地震の専門家を充実させることが求められる。

 柏崎刈羽原子力発電所
 柏崎刈羽原子力発電所

 

 

 適合性審査のあり方に対する疑問は、筆者らが指摘している柏崎刈羽原発だけではない。すでに再稼働している九州電力川内原発(鹿児島県)や四国電力伊方原発(愛媛県)、さらにはすでに規制委が再稼働を容認した福井県の複数の原発など、敷地やその周辺の断層の評価に対し、科学的な疑問が生じている。

 

 川内原発では九電による敷地周辺海域の活断層群の評価がずさんだと指摘されるなど、地質や地震の研究者から活断層の問題について今なお疑義が提起されている。これらの疑問点がありながら、規制委は電力事業者の調査資料に一方的に依存して審査をしているようにも見える。これでは科学的審査を行っているのかと疑いたくなるし、「適合性審査は再稼働ありきで進んでいる」とみる人たちの疑いもますます深まっていくことになるだろう。

 

 新規制基準は、案が示された段階から、審査する側と審査を受ける側の解釈によって、地震や津波対策を甘くできるとの指摘があった。福島の教訓と最新の科学的研究の成果を踏まえたものにするならば、活断層の認定基準を一律に「40万年前以降に活動した断層」と統一するなど、改めて規制基準を見直すことが必要だ。

 

 そしてその基準を生かすには、規制委のメンバーには原子力の専門家をはじめ、地質や地震の専門家、災害時の医師らも加え、審査をより科学的に進める体制作りも必要だろう。

(立石雅昭・新潟大学名誉教授)

 

*週刊エコノミスト2017年11月14日号掲載