特集:AIに負けない!凄い税理士・会計士 2017年11月28日号

クラウド会計ソフトが大旋風

AI取り込みが死命を制す

 

 企業の売り上げや原価などを管理する会計ソフトの業界で今、“人工知能(AI)旋風”が吹き荒れている。

 

 これまでの会計ソフトは、パソコンにインストールするタイプが主流だったが、インターネット上で処理できる「クラウド型会計ソフト」が登場し、急速に普及し始めている。特に、2012年に創業したfreee(フリー)(東京・品川区)とマネーフォワード(東京・港区)の両社は、クラウド型会計ソフトの専業で、従来型ソフトの強力な対抗製品となりつつある。

 

 クラウド型会計ソフトは、銀行口座の入出金やクレジットカードの明細、店頭レジなどに直接連結することができ、支払額や各取引の勘定科目を自動で入力できる。これによって、単純なデータ入力、銀行通帳の記帳、請求書の発行・郵送などがどんどん不要になっている。さらに、AIが過去の履歴から勘定科目を自動で提案したり、機能を随時追加・改善できるメリットもある。

 

 日本政府の政策も、会計ソフトのクラウド化を後押ししそうだ。

 

 まず、17年から「電子帳簿保存法」が規制緩和された。領収書や請求書などの書類の保存が、スマートフォンで撮影した画像データも認められることになった。各税務署での手続きやデータの7年間保存なども必要だが、領収書など紙の書類は原則「破棄OK」となったのである。

 

 税務当局も申告作業などの電子化に積極的だ。国税庁は17年6月、初めての長期目標として「スマート税務行政」を掲げた。10年後の2027年を目指し、「e-Tax(イータックス)」を含む申告・納付デジタル化のさらなる推進、税務相談の自動化などを目指していく。

 

◇経理マン190万人消滅も

 

 AIやデジタル化による会計業界の雇用への影響は大きい。

 

 有名な調査は、英オックスフォード大学のAI研究者であるマイケル・オズボーン准教授による14年の論文『雇用の未来──コンピューター化によって仕事は失われるのか』だ。90%の確率で10年後になくなる仕事(計37種類)に、「簿記、会計、監査の事務員」と「税務申告代行者」を選んだ。

 

 会計ソフト業界で旋風を巻き起こすfreeeやマネーフォワードも、大胆な見通しを示している。

 

 freeeは、300人規模の企業であれば、経理担当は0・8人で済むと試算している。現在、300人規模の企業は、経理担当を平均3・7人雇っているが、それが約3人減る計算である。freeeでは実際に、自社で1人の経理担当が約80%の時間を経理に充てる一方で、約20%を別の業務に充てているという。

 

 一方、マネーフォワードは、会計事務所や企業の経理部門が行っている記帳業務が100%自動化する世界を目指している。

 

 同社は11月2日、会計事務所向けの記帳サービスを手がけるクラビス(東京・新宿区)を8億円で買収すると発表。クラビスは、領収書や請求書などをスキャンすると、画像認識技術とベトナムでの手入力で、紙の書類を電子化するサービスを提供する。マネーフォワードはこの買収によって、自社のクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」の入力作業がほぼ100%自動になるメドをつけた。

クラビス買収を発表したマネーフォワードの辻庸介社長(右)
クラビス買収を発表したマネーフォワードの辻庸介社長(右)

 会計事務所向けのコンサルを手がけるアックスコンサルティングの五十里(いかり)学取締役は、「全国約380万社ある中小企業に経理担当者が1社1人いるとすると、クラウド会計ソフトの普及やAIで、将来的にはその半分、つまり190万人分の作業が自動化される可能性もある」と予測する。

 

 ◇AIを最大活用する士業

 

 

 日本の会計業界の雇用を概観すると、税理士が7万6000人、公認会計士は3万6000人いる。税理士や公認会計士らが運営する会計事務所には約17万人の職員がいる。AIを生かしたクラウド型会計ソフトは決して無視できない存在だ。

 雇用がなくなるという暗い話ばかりではない。AIによって単純作業が自動化されることで、新しい業務に時間を割く公認会計士や税理士が生まれている。

 

 有限責任監査法人トーマツから独立した藤田耕司氏(公認会計士・税理士)は、使う会計ソフトはマネーフォワードとfreeeに限定している。「これらのクラウド会計ソフトを使わない企業は、基本的にお断りしている」と言う。クラウド会計ソフトを使うことによって、「領収書の束を積み上げて、ひたすら打ち込んでいくようなことはしなくてよくなった上、より多くの顧客をほぼリアルタイムに、そしてスマートフォンでどこでも管理できるようになった」。

 

 藤田氏は会計事務所を運営する一方で、心理カウンセラーとしても活動し、日本経営心理士協会を立ち上げ、「経営心理士」の資格を主宰する。このため今は、経営コンサルとしての活動が多くなった。

 

「これまでの会計ソフトでは、経営数値を出すのが1カ月後とかになっていたが、それでは経営者が悩んでいる『今の数字はどうなんだ』に応えることができない。クラウド型会計ソフトでは今の状況が分かるため、コンサル業務にも活用できる。『未来が見えない』と嘆く士業従事者もいるが、発想を変えれば何でもできる」と強調する。

 

 大阪市に事務所を構えるナレッジラボの国見英嗣社長(公認会計士・税理士)は、社員15人でありながら、クラウド型会計ソフトを使って、北海道から九州まで顧客網を全国に展開する。会計事務所としての顧客は約100社、事業再生などのコンサル系の顧客数十社を抱える。

 

 国見氏は、「会計事務所の仕事はこれまで、8割が作業で2割がコンサルなどの付加価値だったが、今後は、作業を2割、付加価値を8割に逆転したい」と語る。さらに、「マネーフォワードのクラウド型会計ソフトと連携し、業績予測もできる自社開発のソフトを提供しながら、会計事務所の新たな価値を生みたい」と意気込む。

 

 仙台市と山形市に事務所を構えるあさひ会計は、社員74人、約750社の顧客を抱える東北で大規模の会計事務所だ。その代表社員である田牧大祐氏(公認会計士・税理士)は、「お客様である企業が会計ソフトを選ぶ時代になった」と言い切る。「かつての会計事務所は、『うちの事務所はこの会計ソフトを使っているから、御社でもこのソフトを使ってください』ということが多かった。だが、大事なのは、お客様が使いやすくて、業務効率化につながるソフトを選ぶということ。会計事務所がいろいろなソフトに対応できる体制を作らないといけない」と強調する。

 

 ◇最大集団TKCは対抗策

 

 こうしたクラウド会計ソフトの台頭に対して、既存の会計ソフト業界からは警戒感も現れている。

 会計ソフト大手のTKCは、その筆頭だ。同社は「TKC全国会」という関連団体を持つ。「血縁的集団」と自称するTKC全国会には、全国で7万6000人いる税理士のうち約1万人が会員になっている。

 

 業界最大の税理士集団とも言えるTKC全国会だが、16年7月に改定した会員規約が会計業界で波紋を広げている。主にfreeeやマネーフォワードの宣伝広告物に積極的に協力する税理士に対して、TKC全国会の会員から退会させる規約に変更したのである(24ページ写真)。

TKCが会員向けに昨年7月に配った規約改定の通知
TKCが会員向けに昨年7月に配った規約改定の通知

 TKCの飯塚真規専務は、その狙いをこう説明する。「クラウド会計ソフトでは、会計ルール上のミスが企業の意図しない形で起こる危険性がある。このため、(freeeやマネーフォワードなどが提供する会計ソフトの)看板となって販売促進を勧める先生方には、『TKCからはお引き取りください』『我々の目指すものは違います』とお伝えしている」と強硬姿勢だ。

 

 もちろん、TKCや弥生などの既存の会計ソフト大手も、自社製品のクラウド化を進めている。それでも、freeeやマネーフォワードという新興企業の登場が、国内の会計業界を真っ二つにしている構図だ。

 

 とはいえ、世界に目をやると、クラウド会計ソフトの導入は確実に進んでいる。豪州は69%、英国の65%、米国は40%となっている。一方の日本はまだ14%で、明らかに世界に後れを取っている。

 三菱東京UFJ銀行系のシンクタンク、国際通貨研究所の志波和幸主任研究員は、「税理士や公認会計士などの士業がAIの影響を受けることは間違いない」と語る。「今後は、経営コンサルや相続、事業継承、M&A(企業の合併・買収)などさまざまな新しい仕事を付加価値にする必要があり、そういう税理士や公認会計士が生き延びる」と予測する。

 

 今後も、クラウド会計ソフトやAIが会計業界にもたらす変革は、着実に進んでいきそうだ。

(谷口健・編集部)

週刊エコノミスト 2017年11月28日号

発売日:11月20日

特別定価:670円