特集:本当はすごい信金・信組 2017年12月05日号

金利ゼロでも融資する“濃密”支援の信金・信組

 

「明日、当金庫の理事とおじゃましたい」──。

 

 

 今年春のある日、東京都港区で部品製造業を営む社長のもとに、都内の大手信用金庫の担当者からの突然の電話が入った。翌日、社長が出迎えると、信金の理事が開口一番に切り出した。「御社の借り入れを当金庫に一本化してほしい」。要するに、他の金融機関からの借り入れを自分のところに移す、いわゆる「肩代わり」をしたいというお願いだ。そのために理事が提示した条件は「他の金融機関よりも0・3%の金利引き下げ」だった。

この会社のメインバンクは他の信金で、大手信金はそれに次ぐ準メインという立場。メインの信金からは約1億円を借り入れており、年間の利払いは約200万円。年0・3%の金利引き下げなら約30万円分の負担が軽くなる。しかし、思案した結果、社長が下した結論は「お断りします」だった。メインの信金はあれこれと相談に乗ってくれているが、この大手信金は最近、担当者がトンと姿を現さなかったからだ。結局、社長はこの大手信金との取引を解消してしまった。

 

 信金や信用組合の業界で今、金利競争が激化している。信金全体の貸出金利回りは2007年度、2・63%だったのが、16年度は1・70%と10年間で1ポイント近く下落した(図)。リーマン・ショック(08年)後の景気低迷を受け、日銀が13年4月、大量に国債を買い入れる異次元緩和を開始。16年2月には初めてマイナス金利政策も導入し、金利低下に拍車がかかる。金利は通常、景気の拡大とともに上昇していくはずが、営業現場の最前線では今なお低下が止まらない。

 

 ◇貸出先の奪い合い熾烈

 

 

 別の都内の信金は、墨田区の取引先である加工業者の経営者から「申し訳ないが、借入先を変える」と通告された。やはり、他の信金からの低利攻勢である。設備投資などの長期資金など借入金が1億円超まで膨らんでいただけに、借入金利引き下げの魅力に抗しきれなかった。貸出金利の低下に悩むのは、メガバンクなど都市銀行や地方銀行、第二地銀も同じだ。信金同士だけでなく、地銀や第二地銀も入り乱れて貸出先の奪い合いを繰り広げている。

 

銀行との競争も過熱している。

 

 不毛な戦いではありながらも「東京都内は恵まれている」という、うらやましげな声が地方の信金、信組からは漏れてくる。少子高齢化や人口減少、中小企業数(事業所数)が減少を続ける中、すでに実質的に白旗を掲げかけているところすらある。人材の新規採用を絶って久しく、ひたすら業務の縮小に経営を集中させている信金、信組である。地域経済の疲弊があまりに厳しく、「無駄なあがきはしない」という縮小均衡の結論である。悲しいが、一つの英断かもしれない。

 

 あるいは、生き残るために経営統合しようにも、「統合相手がみつからない」(地方の中堅信組)という事態もある。バブル崩壊後の不良債権処理の過程で、信金、信組は大規模な再編が進み、合併を望もうにも県内に合併相手が存在しないという地域すら生じている。営業地区が限られる信金、信組は県境をまたぐ合併もままならない。「最終的には自主廃業、解散」という苦い選択肢も排除できなくなっている。

 

 ◇第一勧業信組 コミュニティーローン

 

 ところが、である。そんな暗いムードを吹き飛ばすような粘り強い取り組みを続け、業績好調な信金、信組もある。

 

 その例が、東京都内を地盤とする第一勧業信用組合である。特徴的なのは、第一勧業信組が独自に編み出した「コミュニティーローン」である。地域にはさまざまな人的なつながり(コミュニティー)があり、つながりの中に信用が生まれていることに着目したローンだ。

 

 

 その第1号の「芸者さんローン」は16年春に誕生した。文字通り、都内に六つある花街の芸者さん向けの無担保・無保証の事業ローンで、自らの小料理店開業を計画する芸者さんなどが利用している。同信組の新田信行理事長は「信組、信金という協同組織の金融機関が、原点にきちんと立ち返れば、取り組むべきことはいくらでもある」と強調する。信金、信組は株式会社の銀行とは異なり、信金なら会員、信組なら組合員の相互扶助を目的とした非営利の協同組織だ。

 

 

 第一勧業信組はかつて、ある病に侵されていた。「銀行病」である。利益の最優先、貸し出しの規模の追求といった、銀行のような発想に基づいて事業展開し、顧客の信頼を失いかける事態に悩んでいた。新田氏は13年、みずほ銀行常務執行役員から第一勧業信組の理事長に就任すると、銀行的発想からの脱却を決断して矢継ぎ早に新機軸を打ち出した。たとえば「押し売りセールスの禁止」はその一つ。「金融機関本位の発想ではなく、顧客が何を望んでいるのかを把握し応えるため」である。

 

 そして、支店の営業現場には、地域の商店街、町内会が主催するお祭りなどのイベントへ参加するよう呼びかけた。「地域コミュニティーの皆さんに、コミュニティーバンクであることをきちんと認識してもらうため」である。原則無担保、無保証のコミュニティーローンは「芸者さんローン」を皮切りに、「皮革事業者ローン」「税理士ローン」などへと広がっている。「顧客の顔が見える付き合い」という、協同組織金融機関の原点に立ち返ったからこそ実現したサービスだ。

 

 ◇足立成和信金 “狭域濃密”で創業支援

 

 協同組織の原点に立脚して、地域の活性化に挑み続けている信金もある。例えば、足立区を基盤とする足立成和信用金庫がそうだ。典型的な下町である足立区は、中小零細規模の製造業がひしめき合う都内有数の産業集積地でもある。営業地区を都道府県一円や隣県にまで広げる信金が珍しくない中、足立成和信金の最大の特徴は営業地区を足立区内に限っていることだ。隣接する埼玉県八潮市、草加市にも店舗はあるが、区内の製造業が工場を新設・移設したりする動きに対応した結果にすぎない。

 

“狭域濃密”という協同組織金融のあり方を追求する足立成和信金が今、力を入れるのが、区役所と連携した創業支援融資だ。そもそも金利は低いうえに、信用保証料は足立区の補助金と合わせ同信金が負担することで、無担保、無保証の融資を実現。さらに、金利分は足立区の利子補給制度を活用するため、借り手の負担は実質ゼロである。借り手が負担するのは契約書の印紙代だけと言っても過言ではない。

 

 同信金営業推進部の松場孝一参与は「足立区は産業地域とはいえ、最近は廃業する製造業などが相次いでいる。積極的に創業を支援し、新たな企業がどんどん誕生してもらわなければ、地域が衰退してしまう」と狙いを語る。今年6月にはJR北千住駅近くに、地上6階建ての創業支援施設「あかつき」を完成。創業間もない人や創業を控える人が1室を格安で借りられ、定期的に創業支援員と面談することなどが条件。東京都から創業支援施設としての認定も受け、活動を本格化させる。

 

 ◇塩沢信組 金利ゼロの融資開始

 

 例をみない金利ゼロの融資を始めるところもある。新潟県南魚沼市の塩沢信用組合は12月1日から、「雪国・地方創生・特別対策資金」の名称の融資の一環として、融資期間3カ月で金利ゼロの融資を取り扱う。融資の上限は500万円で、取り扱いは来年4月27日まで。米どころで有名な魚沼地方は、冬は深い雪に閉ざされる。地域を活性化する取り組みであれば融資の資金使途は問わず、地元の消費増につながる地場企業のボーナスや小売店の販促キャンペーンなどを想定する。

 

 同信組の須藤昇二常務理事は「我々が金利をもらうには、地域がまず活性化しなければいけない。人もお金も動かなくなる冬の魚沼で、地域が元気になる取り組みをしてくれる人には金利ゼロ%でも貸したい」と話す。塩沢信組はこの他にも、20代限定で最長51年という超長期の固定金利型住宅ローンや、寄付を原資として一人親家庭の高校生は最長3年間、返済不要となる奨学金「魚沼の未来基金」を始めるなど、ユニークな取り組みを展開。超長期の住宅ローンは、地元の建築業者の施行を条件とし、若者の定住を促す一石二鳥のアイデアだ。

 

 ◇いわき信組 「社会関係資本」を実践

 

 2011年3月の東日本大震災後、福島第1原発事故も追い打ちをかける中、震災からわずか2日目で店舗の営業を再開したのは、いわき信用組合(福島県いわき市)だ。震災直後でも着の身着のままで避難した被災者向けに無担保、無保証の低利ローンを提供。「お客さまはすべて顔を知っているので、本人確認は身分証明書がなくても融資ができる」と当時、いわき信組の職員は話していた。震災直後に実行した無担保・無保証のローンは、2年後には全額回収された。

 

 

 強調したいのは、これらの信金、信組がともに、地域コミュニティーにしっかりと根付いた取り組みを重ねているという点である。いわき信組の江尻次郎理事長はそれを「社会関係資本」という概念で説く。1900年代に米国の経済学者、社会学者などによって提唱された「ソーシャル・キャピタル」論であり、信用力を担保となる資産などで評価するのではなく、信頼、互酬性などコミュニティーから得られる価値に重きを置く考え方と言える。

 

 

 これらは、株式会社による資本の論理と一線を画する発想であり、株式会社形態の銀行、ノンバンクなどと、協同組織形態の信組、信金が大きく異なるという意味合いが込められている。同じ金融であっても、株式会社の銀行は「顧客を信用できるかどうか」に傾注しているのに対して、本来の協同組織金融機関は「顧客から信頼されるかどうか」に奮闘しているという本質的な相違点がある。江尻理事長は「地域があってこそのいわき信組。我々は地域に恩返しする」と力を込める。

 

 金融庁は1110日に公表した新年度の金融行政方針で、地域金融機関ついて「地域の企業・経済に貢献していない金融機関の退出は市場メカニズムの発揮と考えられる」と指摘した。地域金融機関は自己増殖のために存在しているわけではないと警告した形だ。地銀と肩を並べて貸し出し競争に明け暮れる信金、信組には、協同組織としての存在意義を見いだせない。地域のために何ができるかを、それぞれが真摯(しんし)に自問する必要がある。

(浪川攻・金融ジャーナリスト)

 

(編集部)

週刊エコノミスト 2017年12月05日号

定価:620円 発売日:11月27日