150億PVの波及力で社会を動かす 「スロー&ストック」の独自記事=岡田聡・Yahoo! JAPANメディアチーフエディター

岡田聡(Yahoo! JAPANメディアチーフエディター)

おかだ・さとし◇1977年生まれ。雑誌編集者を経て、2008年ヤフー入社。09年に「Yahoo!映像トピックス」を立ち上げる。「Yahoo!ニュース 個人」サービスマネジャーなどを経て現職。17年4月からコンテンツ制作ユニットマネジャーを兼務。


 全国の運動会で行われている「組み体操」の危険性が近年、問題になっている。保護者や教育現場の認識が少しずつ変わり、国や自治体の動きも出てきた。契機になったのは、名古屋大学大学院の内田良准教授が、「Yahoo!ニュース 個人」などで懸命に発信を続けてきたことだ。

 

 内田准教授は、自身の問題意識をどう世の中に広げていくかを考えながら、記事を繰り返し書き続けた。ヤフー以外のメディアにも取り上げられ、最終的には社会が動いた。従前なら、専門家の知見が社会に還元されるには、もっと時間がかかっていたかもしれない。社会と専門家の距離を縮めるサポートをしたいという思いで立ち上げたのが、「Yahoo!ニュース 個人」だ。専門家がヤフーという「ジャンプ台」を使って、問題意識を届けられる。

 

「Yahoo!ニュース」は1996年にサービスを開始。それから21年、現在は月間150億PVまでに成長した。その要因は、ヤフーが検索エンジンなど多様な機能をワンストップで届けてきたことと、なによりコンテンツの力にある。さまざまな媒体から提供される1日4000本の記事を厳選して届ける「Yahoo!ニュース トピックス」など、世の中のいまを伝える取り組みを続けてきた。

 

 2010年代、スマートフォンとソーシャルメディアの普及でユーザーの関心が多様化し、ニュースに対するニーズが広がってきた。多様なニーズに応えるために始めたサービスのひとつが「Yahoo!ニュース 個人」だ。専門的な知見を持った個人を、内容面と経済面でヤフーがサポートし、発信を促進する。その発信がきっかけとなって、メディアや社会が課題意識のバトンを受け取り、課題解決につながっていく。ひとつのモデルを作ることができたと思っている。

 

 ◇ニュースを公共財に

 

 スマホ化・ソーシャル化はネットの情報流通を大きく変えた。情報の消費サイクルは加速度的にはやくなり、消費財としてのコンテンツの需要が高まっている。ファストでライトなものの流通が多くなっていく──現代のメディア環境はそういう作用がある。

 

 だが、ニュースは本来、国民の知る権利に応える公共財だ。「急いでたくさん作る」ではなく、「スローでストック」な価値が今こそ重要なのではないかと考えている。その時々で消費されてしまうものではなく、社会に長期的に残り続ける課題=ロングタームイシューを中心に扱うことを目的に、ヤフーが独自に記事を制作する「Yahoo!ニュース 特集」を15年に始めた。貧困や人口減などの社会問題や著名人のロングインタビューなど月20本程度の記事を掲出している。

 

『週刊エコノミスト』や時事通信、NHKなどとの共同企画もある。コンテンツパートナーとタッグを組みながら「ファストよりスロー、フローよりストック」の記事を届けていきたい。

 

 ヤフーには、新聞やテレビの出身者が多くいるが、組織としてコンテンツ制作をしてきた経験は乏しい。17年4月に「個人」や「特集」などの部隊をまとめた新部門「コンテンツ制作ユニット」が発足した。若年層の取り込みや映像分野の強化など課題も多いが、焦らずにじっくり取り組むつもりだ。

 

 ヤフーは「課題解決エンジン」を掲げている。コンテンツ消費だけに終わらずに、検索をする、シェアをするなどの行動につなげられるのがネットメディアの強みだ。100年以上の歴史を持つ新聞社や出版社などの諸先輩方に学びながら、信頼されるメディアとしての知見をためていきたい。

 

*週刊エコノミスト2017年12月19日号