誰もが発信するネットでプロの仕事を 寄付モデルで広告主の影響を避ける=渡辺周・ワセダクロニクル編集長

渡辺周(ワセダクロニクル編集長)

 

わたなべ・まこと◇1974年生まれ。日本テレビを経て、2000年から朝日新聞。特別報道部などで調査報道を担当する。退社後、2017年2月にワセダクロニクルを創刊。9月に日本外国特派員協会の「報道の自由推進賞」受賞。


 

 16年間勤めた朝日新聞を辞めて、調査報道に特化したメディア「ワセダクロニクル」を始めた。IT音痴と言われてきたが、媒体はウェブを選んだ。

 

 創刊特集は「買われた記事」。報酬を伴う医療記事を20年以上前から読者に届けていた事実を明らかにした。登場するのは製薬会社、電通、共同通信、地方紙。ネットメディアでの「ステマ」(宣伝だと明かさない記事)が問題になるよりずっと前に、伝統あるメディアが似たようなことをしていた。

 

 複数テーマを並行して取材している中で、「買われた記事」を創刊特集にしたのは、広告収入を左右する電通と製薬会社を既存メディアは追及できないと考えたからだ。実際、新聞やテレビは「買われた記事」問題を追わない。ワセダクロニクルの報道を受け、電通の役員が株主総会で業務の見直しを明言するという絶好のタイミングがあったにもかかわらずだ。医療記事の読者には、持病について必死で情報を探す患者が多い。見て見ぬふりをするのは背信行為ではないか。

 

 ワセダクロニクルはなぜ調査報道に特化したメディアなのか。それは誰もがネット上で自分のメディアを持てる今こそ、プロのジャーナリストとしての仕事が求められると思ったからだ。

 

 調査報道の「調査」は単に調べものをするという意味ではなく、隠された事実を掘り起こす「探査」だ。膨大な時間がかかる。しかも訴訟リスクまで抱える。経営を考えれば割に合わないが、手間をかけリスクを取らないと、ジャーナリストという職業は成り立たないのではないか。

 

 寄付モデルを選んだのは、広告主の影響を受けたくないからだ。

 

 朝日新聞で、製薬会社から医師への資金提供を分析した記事を書いたことがあった。記事を受けて社説が予定されたが中止になった。朝日新聞も医師を招いてイベントを開いており、中には朝日新聞が主催者でありながら医師への謝礼は製薬会社が払っているケースがあったことが影響したようだ。社内で検証するということだったが、結果が公表されることはなかった。

 

 ◇ジャーナリストの世界連携

 

 もちろん、寄付文化がないと言われる日本でやっていくのは大変だ。だが「買われた記事」の発信に伴いクラウドファンディングをしたところ、350万円の目標に対し、552万円超が集まった。手応えは感じている。

 

 ワセダクロニクルは非営利の調査報道組織がつくる世界のネットワーク「GIJN」(Global Investigative Journalism Network」に日本から初めて加盟した。2017年11月に南アフリカで開かれたGIJNの世界大会には、127カ国から1200人のジャーナリストが集まり、取材スキルなどのセッションが開かれ刺激になった。

 

 だが一番の収穫は、具体的なテーマで連携取材をすることを他団体と合意できたことだ。企業や政府が世界展開している時代に、取材する側だけが国内に閉じこもっていては太刀打ちできない。連携取材の成果は、英語にすれば世界に広めることができる。これまで日本のメディアは国内の需要で完結していたが、ネットメディアであれば読者対象を簡単に世界に広げられる。

 

 南アフリカの大会では、資金をどうやって調達するかというセッションも盛んだった。万国共通、経営は悩みの種なのだ。だがしかめっ面をしたジャーナリストはいなかった。自分が追いかけているテーマを成就させようとする熱気であふれていた。メディア企業ではなくジャーナリズム組織を目指すという初心を改めて確認した。

 

*週刊エコノミスト2018年1月16日号掲載