第63回 福島後の未来:交付金の構造を変えない限り原発の事故は避けられない=伴英幸

◇ばん・ひでゆき

 

 1951年三重県四日市市生まれ。早稲田大学卒業。生活協同組合専従を経て、89年脱原発法制定運動の事務局スタッフ。90年原子力資料情報室スタッフとなる。95年同事務局長。98年より現職。

国策への協力とその見返りとしての交付金という構造にメスを入れよ。

 

 原子力発電の許認可権が2012年9月、経済産業相から原子力規制委員長に移り、規制の独立が実現した。つまり、原子力規制委員会から合格証をもらった事業者は、自らの判断で原発の稼働ができる。だが、実際には立地自治体との安全協定によって、増設や機器類の大きな変更などについて稼働前に了解を得ることになっている。

 

 


 ◇自治体は消滅する

 

 個々の原発の稼働に対する経産相の判断がなくなり、紳士協定である安全協定に基づいて立地自治体が運転の諾否を判断しなければならない。しかも、事故のリスクがあると告げられている原発に対する稼働諾否の判断である。地元自治体としては重い判断を迫られることになったわけだ。

 

 判断の重さの実感は、いっそう重くなったのではないだろうか。これを意識してか、玄海原発の再稼働判断に際して、佐賀県知事は県内5カ所で住民向け説明会を主催し、政府から再稼働を進める原子力政策を説明させた。

 

 また、知事が「広く意見を聴く委員会」と専門家委員会を設置して意見聴取や安全性の検討を進めたことは、従来にない取り組みではあった。これらは県民の理解促進のための取り組みという。さらに、経産相から政府として責任を持って原子力政策を進めるという確認も得て、再稼働に合意した。国の責任で再稼働を進めるという構図を作ったのだった。

 

 実際に事故が起きたらどうなるのかは、福島の現実を見れば明瞭だ。放出された放射能による影響は広範囲であり、時間的にも長期に及ぶ。事実上の自治体消滅である。

 

 国は責任を取らないし、取れない。事故を起こした東京電力への政府の対応を見れば、こちらも一目瞭然だ。政府は東電を破産処理させ、経営者の責任を問うた上で、事故の後始末を政府の責任で行うべきだったが、これを回避した。再稼働の判断を国に求める責任回避が許されるのだろうか。県民の財産と命を守るのが、自治体の責務だ。

 

 

福井県知事の再稼働同意に反対する市民(2017年11月27日)

 

 ◇地域振興は“まぼろし”

 

 経産省は再稼働を進めるために、「見なし発電」を改めることにした。事故以降に原発の停止が続いているが、交付金のうち発電電力量をベースに支給する部分は発電していると見なして交付を続けていたが、再稼働が進まないことから、原子力規制委員会が合格証を出したにもかかわらず、知事が同意しないことによって再稼働に入れない原発に対しては見なし部分を従来より13%も低く見積もることに運用変更した。

 

 他方、補助金の交付対象自治体を30キロ圏内に拡大した。補助金の名称は「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業費補助金」である。目的は経産省によれば「原発依存度低減という方針の下で、廃炉が行われる市町村をはじめとする原発立地自治体等において、エネルギー構造の高度化などに向けた取組を進め、地域の理解を図っていく」ための補助金で、2年ほど前から導入された。

 

 この補助金を17年度から原発立地30キロ圏内の自治体に拡大して支給することに変更したのだ。本来なら廃炉への対応として導入した補助金だが、長期停止の場合にも適用するという。経産省はこれを再稼働容認へのインセンティブとして活用したのだ。

 

 これが奏功して、玄海原発の30キロ圏を市域にもつ佐賀県の糸島市は拡大決定の3日後に再稼働を容認した。防災対策は30キロ圏内に拡大されたが、交付金は立地とその周辺自治体のみでは不公平といった声があったのだろう。

 

 また、再稼働同意のためではないと否定するが、どう考えても再稼働を進める意図が見えてくる。さらに、名目を違えた支給対象拡大は論理的にも破綻している。

 

 他方、補助金行政をあてにした地方自治体の原発依存が、むしろ原子力行政を硬直化させている側面があり、原発への補助金を増やす政策は重大事故の再発の温床となりかねない。

 

 また「もんじゅ」の廃炉が1612月に決定したが、これに続く廃炉措置申請が提出されない状態が続き、廃炉の審査にも作業にも入れない状態が続いている。原子力規制委員会は昨年7月ごろから再三、申請を出すように原子力研究開発機構に求めているが、機構側は福井県の合意が得られないことから申請できない旨を返答している。

 

 福井県側は機構の廃炉組織体制に不安があり、これが確かなものにならないので合意できないでいるとしていた。申請後の審査と並行して具体的な組織体制を検討していけば、より具体的になると考えるので、正当な理由とは考えにくい。

 

 昨年8月に福井県は「もんじゅ」の所管の文部科学相に対して「『もんじゅ』の廃止措置に関する要請書」を手渡した。「もんじゅ」の安全・着実な廃炉措置の推進は当然の要望であるが、加えて福井県をエネルギーの総合研究開発拠点地域とすること、交付金を増額すること、北陸新幹線の早期整備、舞鶴若狭自動車道の4車線化など「もんじゅ」とはおよそ関係のない項目が並んでいる。この要望に対する政府の支援が回答された1122日に福井県は廃炉措置申請に合意した。

 

 こうした事態を見ていると、交付金による地域振興を期待して原発を誘致しても、結局のところ、地域振興にはつながらなかったことがわかる。しかし、国への依存体質は全く改まっていないし、国もこの状況を利用して政策手段としている。国策への協力とその見返りとしての交付金という構造を変えない限り、事故の再発は避けられないだろう。

 

(伴英幸・原子力資料情報室共同代表)

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 ◇原子力規制行政の独立

 

 福島原発事故が日本の原子力行政にもたらした大きな変化の一つが、原子力規制行政の独立である。国際原子力機関などから指摘され続けてきた規制の独立が、皮肉なことに未曽有の原発事故の後にようやく実現した。このことにより原発の許認可権者が、従来の経済産業相から原子力規制委員長に移った。

 

 更田(ふけた)豊志(とよし)原子力規制委員長は、規制委員会が安倍政権の意向に沿って運営されているのではないか、との記者の質問に答えて以下のように回答している。

「政府や産業界の意向にとらわれずに純粋に規制に徹することが規制機関の本質であり、原発を動かすとすれば、これくらいの設計や対策が満たされることを求めるのが規制機関の役割で、実際に原発を動かすか動かさないかは規制機関が判断しているのではない」

 

 これは昨年1113日、日本記者クラブでの記者会見の席上のことである。

 

 ここで語られている要点は以下の二つ。

 

 一つは、現行の規制基準が絶対の安全を保証するものではないことである。原発を運転するのに最低限必要な基準で合否を判断しているのであって、重大事故の可能性を認めている点である。それゆえ、重大事故が起きた時の対処設備が要求されている。

 

 もう一つは、原発稼働の可否を規制委員会が判断しないとしていることだ。規制基準に合格した原発の稼働の判断は事業者にあるわけだ。

 

 これら2点は目新しいことではなく、福島原発事故以前からその状態だったのだ。国務大臣が原発の運転を許可したからと言って、絶対の安全が保証されるわけではないし、事業者が運転を義務づけられたわけでもない。だが、作られた安全神話と国策への依存によってこうした本質が見えなくされていたと言える。

 

(伴英幸)