日本一暮らしやすい路線に 星野晃司 小田急電鉄社長

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 小田急電鉄の特色は。

 

 

星野 120・5キロの路線距離に、東には世界最大のターミナルである新宿、西には日本有数の観光地である箱根、江ノ島を抱え、ビジネスと観光のターミナルを持っています。平日は新宿へ向かうビジネス客、休日は箱根や江ノ島に向かう観光のお客様がいます。そこをブランドでもある特急専用のロマンスカーでつないでいるのが一つの特徴です。

 

── 強みは。

 

星野 乗降客10万人超の駅が11駅あります。起点の新宿や代々木上原、30キロ地点には町田、40キロ地点には本厚木があり、この規模の駅が点在している私鉄は珍しいです。小田急は新宿と箱根のターミナルだけでなく、他の駅間を行き交う人にも支えられています。背景には大学や企業といった集客施設が沿線に点在している強みがあります。

 

 通勤・通学と観光路線の顔を持つ小田急。ラッシュ時の混雑は首都圏屈指で、代々木上原駅(東京都渋谷区)─登戸駅(川崎市多摩区)11・7キロの複々線化を進めてきた。残っていた代々木上原駅─梅ケ丘駅(東京都世田谷区)2・2キロの工事が終わり、3月17日にフル活用するダイヤが始まる。

 

── 複々線完成に要した年数は。

 

星野 構想から半世紀、着工から30年かかりました。工事区間は路線全体の1割にも満たないですが、住宅が密集している地域で、高架化や地下化により踏切廃止の工事も進みました。踏切廃止など立体交差は東京都の事業で、線路を2本から4本にした小田急の工費は約3200億円です。50年先を見据え、輸送を改善して質を高めるという思いを持って大工事を決めた先輩たちは、大きな決断をしたと思います。

 

── 複々線完成の効果は。

 

星野 朝ラッシュのピーク1時間(下北沢着午前7時半~8時半)の運行本数は27本が限界でしたが、線路が倍になることで36本に増やせ、輸送力は約4割増強できます。列車がスムーズに走れるようになり、町田から新宿の所要時間は12分短縮して37分になります。また混雑率は192%で首都圏ワースト3でしたが、平均150%程度に緩和します。混雑緩和で乗降時間の短縮も期待でき、定時性の確保も期待できます。

 

── 代々木上原から先の対策は。

 

星野 乗り入れている東京メトロ千代田線への直通電車を増やし、流れを新宿方面と分散します。千代田線はビジネス拠点が多く、代々木上原からの千代田線利用者は増えており、朝の新宿方面との比率は約5545です。

 

「小田急は混んでいて遅い」と敬遠されていましたが、東急線やJR南武線などから切り替える利用客が、年間3~4%、約3000万人増えると期待しています。

 

── 他に期待できるメリットは。

 

星野 複々線の完成で便利になることにより、沿線の魅力を抜本的に高められます。併せて主要駅の自治体や大学、企業と連携して使いやすい駅や周辺開発を進めています。小田急が「日本一暮らしやすい沿線になる」アプローチです。

 

 ◇インバウンドも大きな柱

 

── インバウンド(訪日外国人)数は伸びていますか。

 

星野 箱根や江ノ島などの観光地だけでなく、新宿も人気があります。1999年に鉄道で初めて、新宿に外国人利用客の案内所を作りました。新宿と小田原の2カ所の利用者は2012年度が9万人でしたが、16年度は28万人でした。17年度は三十数万人と見込んでいます。東南アジア中心に、中国や韓国に加え、最近は欧米が増えています。

 両拠点を持つ我々にとってインバウンドは大きな柱として育てたいですね。20年度までの関連収益230億円を目標としています。

 

── まだ伸びそうですね。

 

星野 昨年12月にはインバウンド専用周遊券「箱根鎌倉パス」の発売を始めました。3日間有効でグループ各社の交通機関が使える箱根や鎌倉の周遊券サービスに加え、小田急線内も自由に乗り降りできます。

 

 一方、インバウンド関連ベンチャーを支援する事業も始めています。取得したビルに貸しオフィスやイベントスペースなどがあります。イベントの提供や商品の企画に向けて、アイデアを出してもらう狙いです。

 

 16年9月にはPRを図り、バンコクに駐在員を配置しました。現地での発信力は高まり、新宿・小田原の旅行案内所の利用者は17年度上期は前年度同期比で27%増加しました。国は20年東京五輪を控え、欧米などからの長期滞在型観光客を見据えています。当社は今年2月にパリにも駐在員を置きます。現地に駐在員がいると、情報量は収集も発信も格段に違います。

 

── 今後の方針は。

 

星野 20年を見据えた長期ビジョンでは、複々線の効果最大化、沿線外のホテル進出などを盛り込んでいます。百貨店をはじめ流通は苦戦しています。4月からの3カ年計画では、百貨店とショッピングセンターの融合を図ります。藤沢で始めており、内装の変更などを進めています。町田や新宿でも展開する方針です。

 

 駅の機能は変わっていくでしょう。これまでは主に「住む」「買い物する」という機能でしたが、サテライトオフィスや、子どもの学びや遊びのスペースといった多様な機能を持つ拠点に作り替えていきたいと思っています。

(構成=米江貴史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ほとんどをグループ事業部で過ごしました。20代で関わった人事から、商売中心になりました。不動産や建設を担当し、人間関係や事業の視野が広がり、グループ全体あっての小田急だという考え方になりました。

 

Q 「私の好きな本」は

 

A 時代小説をよく読みます。佐伯泰英、上田秀人、辻堂魁が好きです。勧善懲悪な話はスッキリします。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 趣味はゴルフですが、それ以外は家族と過ごしています。妻や子どもと一緒に買い物や食事、映画に出かけたりします。家では天ぷらなどの料理もします。

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 ■人物略歴

 ◇ほしの・こうじ

 1955年生まれ。神奈川県出身。県立厚木高校、早稲田大学政治経済学部卒業後、78年4月小田急電鉄入社。専務取締役交通サービス事業本部長などを経て2017年4月から現職。62歳。

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事業内容:鉄道、百貨店などの流通、不動産など各事業の運営

本社所在地:東京都新宿区

設立:1923年5月(前身の小田原急行鉄道)

資本金:6035900万円

従業員数:単体3637人(20178月)

業績(173月期、連結)

 売上高:52303100万円

 

 営業利益:4994600万円