木の恵みを人の暮らしのそばへ 市川晃 住友林業社長

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 住友林業の特徴は。

 

市川 1691年、別子銅山(愛媛県)の採掘に必要な備林を整備したことから歴史が始まりました。明治に入り、銅の精錬による煙や伐採により、山が荒廃してしまった。見かねた別子鉱業所支配人の伊庭貞剛が1894年に大造林計画を立て、多い時には年間200万本以上を植えました。当時では世界でも例のない大規模な造林事業です。

 

 それ以来、サステナビリティー(持続可能性)を強く意識してきました。「保続林業」という考え方です。CSR(企業の社会的責任)や「環境」なんて、言葉すらなかった時代から、社会貢献として植林を続けてきました。「国土報恩」の精神です。

 

 

── 持続可能性のある林業とは。

 

市川 木を資源として見直し、供給側の構図を変えていきたい。1975年に参入した住宅事業は、売り上げの4割以上を占める大きな柱です。「安心して暮らすため、木造住宅を近代化することが林業に携わる企業の使命」との信念です。

 

── 地震の多い日本で、木造は不安です。

 

市川 戦後の住宅不足を受け、木造住宅が粗製乱造されました。当然、質の差は激しく「木造は弱い」というステレオタイプを日本に植え付けてしまいました。

 

 しかし、世界最古の木造建築である法隆寺を例に挙げるまでもなく、建築物の強さを決めるのは素材ではなく建て方です。当社は高層ビルに用いられる柱と梁(はり)で強固に枠をつくる「ラーメン構造」を、木造住宅で初めて実現しました。耐震性に優れており、東日本大震災、熊本地震で、住宅の倒壊は一棟もありません。

 

── 住友林業の住宅のよさは。

 

市川 伝統的な住宅でみられる「通し柱」は、土地の制限や生活様式の変化とともに、日本の住宅に合わなくなっています。梁で支えるラーメン構造の「ビッグフレーム構法」は、柱や壁の制約を受けにくく、空間と敷地を有効活用できます。

 

 林業に携わる若者の比率は増えている。国勢調査によると、90年に6・3%だった35歳未満の割合は2015年には171%だ。

 

── 日本の林業は若年層比率が高まり、成長産業と呼べる状況です。

 

市川 都道府県が設ける林業の職業知識を教える学校が、ここ数年で11校新設され、全国に17校あります。林業系学部や森林を持つ大学も27校あり、若者が増えているのは確かです。しかし産業としては課題が多い。「3K」と言われた環境は改善されてきているものの、裾野を広げるには、さらに近代化を進める必要があります。加工技術の向上、ロボットによる作業の効率化です。

 

── 林業をさらに育てるために、必要なことは。

 

市川 木の用途を広げることが欠かせません。住宅以外の中・大規模建築物での木造や、木の質感を生かした建物を普及させるため、11年から担当部署を設けて「木化事業」を強化しています。17年には東京都国分寺市で、上部が木造、下部が鉄筋コンクリートの「ハイブリッド」で7階建てのオフィスビル、大阪府箕面市で木造の大規模リハビリテーション施設を竣工しました。

 

── 1711月にゼネコンの熊谷組と業務・資本提携を結んだ狙いは。

 

市川 大規模な木造建築事業に向けて、施工能力強化のためです。熊谷組も間もなく創業120年と、歴史を持つ企業同士のシナジー(相乗)効果もある。お互いの事業領域を広げることができ、売上高で1500億円程度の効果を見込んでいます。

 

── 足元の業績は。

 

市川 1618年度の中期経営計画で、19年3月期に連結で、売上高1兆1700億円、経常利益550億円、ROE(株主資本利益率)10%を掲げました。18年3月期は売上高1兆2200億円、経常利益535億円の見込みで、目標を1年前倒しでほぼ達成します。来期は目標を上回ることが至上命令です。

 

 ◇木を「時間財」に

 

 主力事業のうち、国内の住宅事業は厳しい環境です。14年4月の消費税率8%への引き上げによる反動減以降、低調な状況が続いています。受注件数ベースでは、17年度上期は前年同期比03%増となり、ようやく回復傾向がみられますが、1910月に10%への増税もあり、楽観はできません。

 

── 海外事業は好調です。

 

市川 17年3月期の実績で、経常利益の3割を海外事業で上げました。海外で住宅事業に参入するため、00年代から積極的にM&A(合併・買収)に取り組んできました。年間受注件数は、国内8000棟に対し、米国6000棟、豪州3000棟です。

 

── 林業の将来は。

 

市川 日本では古くから、暮らしと木が密接に結びついていました。神の宿る山を保護し、里山で実を拾い、植林で育てた木で家を建て、文化を育んできたのです。木の家は、人にやすらぎを与えてくれます。無垢(む く)材を使った床では、子どもは自然に寝そべり、足をどんどんとさせて木の感触を味わおうとします。

 

 木は人が植え、しっかり管理することで永遠に持続できる唯一の資源。木を切ることを「自然破壊」と批判するのは、守るべき森林と管理する森林を区別できていない議論です。木はサステナビリティーのある社会に欠かせませんが、育つのに時間がかかります。300年以上、木を軸にした事業を続けてきた当社は、木を「時間財」にする使命を果たしていきます。

 

(構成=酒井雅浩・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 32歳で大阪からシアトルに転勤し、木材の買い付けを担当しました。アラスカ州、オレゴン州、ワシントン州の森林を走り回っていました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 物の見方を変えてくれる本です。司馬遼太郎の歴史小説や、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』には考えさせられました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 妻と街歩きをして、最近のトレンドを見て回ります。

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 ■人物略歴

 ◇いちかわ・あきら

 1954年生まれ。兵庫県出身。兵庫県立尼崎北高校、関西学院大学経済学部卒業。78年住友林業入社。2002年営業本部国際事業部長、05年住宅本部住宅管理部長、08年取締役常務執行役員などを経て、10年から現職。63歳。

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事業内容:木材建材事業、住宅事業など

本社所在地:東京都千代田区

設立:19482

資本金:326億円

従業員数:18379人(2017930日現在・連結)

業績(173月期・連結)

 売上高:11133億円

 

 営業利益:539億円