特集:さらば!現金 2018年3月6日号

 財布もレジもいらない

 米アマゾン・ゴーで買い物 

 

鈴木淳也(ITジャーナリスト)

 

 ネット通販世界大手の米アマゾンが1月にオープンしたレジなしコンビニ「アマゾンGO(ゴー)」。人工知能(AI)など最新技術の粋を集めた話題の店舗を体験してきた。

 

 ワシントン州シアトルのオフィス街のど真ん中、アマゾン本社ビルの近くにアマゾン・ゴーはある。店の広さは約50・6坪(約167平方メートル)で、日本の標準的なコンビニと同じくらいだ。筆者が訪問したのは2月初旬、平日の正午過ぎで客の多い時間だったが、皆、商品をぱっと手にとってすぐに店を出て行くので、客の回転率が異常に高い。

入店するには、スマホでアマゾン・ゴーのアプリを起動し、QRコードの画面を表示する必要がある。店舗入り口に設置された自動改札機に似た読み取り機にスマホをかざすと、ゲートが開いた。

 

 

 

店内は米国の一般的なコンビニとほぼ同じつくりだ。オフィス街にある店舗だからだろうか、すぐに食べられる総菜類が充実していた。アマゾンが昨年買収した米高級スーパーマーケット、ホールフーズ・マーケットの商品を置くおしゃれなコーナーもある。

 

◇天井埋め尽くすセンサー

 

 この店で何よりも目を引くのは、天井を埋め尽くす大量のカメラやセンサーだ。監視カメラや、さまざまな種類のセンサーが所狭しと並び、来店者の挙動をすべて監視している。

 

 アマゾンは技術の詳細を明かしていないが、画像認識技術など最新の技術を複数組み合わせて客を追跡し、決済のための情報を得ていると見られる。客の腕や手の動きからどの商品を手に取ったのか、AIによる機械学習などを使って解析しているようだ。店内での来店者の一挙手一投足はすべて追跡されていると考えていい。

 

 この店には買い物カゴやカートはない。棚から取り出した商品は、自分のバッグにそのまま入れる。飲み物コーナーでルートビア(ノンアルコール炭酸飲料)を1缶、総菜コーナーで豆腐とサラダを選んだが、買い物カゴがないと、何を選んだのか自分でもわからなくなってくる。

 

 棚に並んでいる商品を手に取ると、システム上では「バーチャルカート」と呼ばれる仮想の買い物カゴに商品を入れた扱いになる。客が商品を棚に戻すと、バーチャルカートから当該の商品が消える。最終的に、店を出た時点でバーチャルカートに入っていた商品が決済の対象になる。

 

◇手にとった商品を棚に戻しても大丈夫?

 

 店舗スタッフによると、最大70人の客が同時に入店可能だそうだ。大勢の客がどの商品をいくつ手にしたのか、本当にちゃんと画像解析で認識できるのだろうか。ルートビアとコカコーラを間違えることはないのか。そこで筆者は、「すばやく何度も商品を取り出したり戻したりする」「しばらく店内を徘徊(はいかい)してから商品を戻す」さらに、「商品をバッグから取り出す際に、布で商品を隠す」行為をやってみた。結果は後ほど紹介しよう。

 

 店を出る時は、レジはもちろん、入店時のようにスマホをかざすゲートもない。本当に何の手続きもなく、スッと外に出られた。

 

 客がバーチャルカートの中身を確認できるのは、店を出てから10分後以降だ。スマホのアプリで確認できる。さて、商品は正しいだろうか。

 

 

「バーチャルカート」の画面
「バーチャルカート」の画面

 結論から言うと、買い物内容は正しく表示されていた。バーチャルカートに入れた商品は、店を出た1時間後、あらかじめ登録していたクレジットカードで自動的に決済処理が行われた。

 

◇動き回るスタッフ

 

 アマゾンは2016年末にアマゾン・ゴーの社内限定テストを開始している。その段階では、同時に数人程度を追跡するのが精いっぱいだったという。それが今では、割と混雑している状態でも、客を正確に追跡、決済できる。この1年近くでAIの画像認識技術が大きく進化したということだ。

 

 ちなみに、アマゾン・ゴーは無人店舗ではない。商品を補充するスタッフ3~4人が店内せわしなく行きかい、酒類販売コーナーの前には年齢を確認する専任スタッフがいる。総菜類を調理するスタッフもいた。店舗の内外で常時20人前後の人員が働いている。少なくとも現時点では「AIがレジ係の仕事を奪う」ことはない。それどころか、むしろ店舗の運営コストは日本のコンビニよりもはるかに高くついていそうだ。

 

◇レジ待ちの行列でイライラ…はナシ

 

 

 アマゾン・ゴーの重要な点は、コスト削減よりも、新しい買い物体験にある。レジでの決済がない買い物というのは、実に快適だ。筆者が訪問したような昼時の、人が多い時間帯でも、レジ待ちの大行列に並んでイライラしたりすることはない。アマゾンの「快適な買い物」というコンセプトを広く世に知らしめる効果は絶大だろう。 

週刊エコノミスト2018年3月6日号

定価:620円

発売日:2月26日


関連する記事

現金が消える日

先進国で高まる現金廃止論

櫨浩一(ニッセイ基礎研究所専務理事)

関連するebooks

週刊エコノミストebooks

増える現金 減る現金

配信日:2017年8月30日

スウェーデンなどキャッシュレス化が進み現金が社会から消えつつある国がある一方で、日本は現金が増え続けている。