第66回福島後の未来:作る人と使う人をつなげる仕組み 「顔の見える電気」を目指す

電力運用システムも電気そのものも、これからはどんどん「見える化」する必要がある。

大石英司(みんなの電力社長)

 アフリカ東部ケニアのマサイ族が作った電気を日本企業が買い入れる──。荒唐無稽(むけい)な話だろうか。


 消費者が自ら発電し、二酸化炭素(CO2)を排出しない電気には、さまざまな価値がある。例えば、電力会社が大規模な発電所を使って発電し、遠方から送電線を通して運んでくる電気を節約できる価値。石炭火力発電など、化石燃料を燃やして作る電気に比べて地球温暖化対策に貢献できる価値などだ。


 電力量を示す「キロワット時」は、世界共通の単位だ。しかし、1キロワット時当たりの電気料金は、それぞれの国や地域によって異なる。

 

 地球全体で見た場合、誰かがどこかで節電したり、二酸化炭素を排出しない電気を使ったりすれば、そのぶん価値が生まれているということになる。日本企業は、事業活動で生じる二酸化炭素の排出量を今後ますます減らさなければならない。そのため、日本企業はこうした価値を手に入れたくて仕方がない。
 このため今後、ケニアのマサイ族が太陽電池で作った電気を日本の大手メーカーが購入する状況もあり得る。この場合、マサイ族には大きな収入がもたらされるだろう。


 みんな電力(東京都世田谷区)は、情報通信技術やセンサー技術を使って、こうした電気の価値を世界規模でつなぐ仕組みを作りたい。

 業務システムをクラウド化

 当社の携帯型太陽光発電器「ソラマキ」は、その一例だ。ソラマキは丸めて持ち運べる太陽電池パネルで、装置につなげた小型のバッテリーにためた電気で携帯電話を充電したりできる。


 加えて、おサイフケータイに搭載されているような近距離無線通信機能を持たせることで、発電器(ソラマキ)で発電した電気の量をスマホで読み取ることができる仕組みを開発中だ。利用者は、ソラマキを使って発電した電力量をリアルタイムで把握できる。


 併せて、みんな電力が利用者に対してソラマキで発電したぶんのポイントを付与するサービスを検討している。利用者がポイントを使って省エネ商品の購入や電気代に充てることができるようになれば、ソラマキを使うインセンティブにもなる。


 この仕組みを世界規模に広げれば、マサイ族の人が発電したクリーンな電気の価値の部分だけでも日本企業に売ることができるようになるはずだ。電気を直接やり取りできなくても、「太陽光発電で作った」という価値をポイントやクレジットなどの形で取引することは可能だ。


 電気は、電力会社が整備した送電線につながっているほうが流通しやすい。しかし、節電によって生じた価値や環境価値は送電線につながっていなくても、交換する仕組みがあれば、やり取りできる。


 筆者が目指すのは、電気を通じて人と人をつなげることだ。


 今までは、顔も知らないどこかの誰かが作った電気を、やはり知らない誰かが「毎日流れてくるもの」として使うのが当たり前だった。当社はこうした状況に風穴を開けたい。クリーンな方法を使って発電した電気の付加価値を、それが欲しいと考える消費者に届ける。当社が進める「顔の見える電力」には、そういう意味を込めている。


 当社は、消費者や店舗向けの電力小売り事業も展開している。やはり「顔が見える」がキーワード。当社の電力購入サイト「エネクト」では、牧場の牛舎の屋根に設置した太陽光発電設備や農業と発電事業を同時に手がける営農太陽光発電所など、みんな電力の調達先である太陽光発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギー発電所を写真やプロフィール付きで紹介している。


 消費者は、サイトでお気に入りの発電所を見つけたら、応援することができる。お気に入りの発電所に対しては、みんな電力を通じて電気料金の一部を支払う仕組みだ。


 食品スーパーでは、生産者の顔写真付きで売られる野菜が浸透している。そんな取り組みを電気でやってもよいはずだ。


 当社の扱う電気の6割超は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の対象となる電気だ。FITは17年4月に改正され、FITの対象となる電気はすべて電力会社の送配電部門が買い取る取り決めになった。ただし、特例措置として、発電事業者が小売り事業者と個別に契約を結べば、特定の発電所から電気を買うことができる。「特定卸供給契約」と呼ぶもので、発電会社が売りたいと考える顧客に売ることができる。当社はこの特定卸供給契約を使ってFITの再生エネ電気を買い取り、消費者に販売している。


 16年4月に始まった電力小売りの全面自由化によって、消費者は電力会社を選ぶことができるようになった。みんな電力のホームページに必要事項を入力していけば、電気の調達先を従来使っていた大手電力会社から、みんな電力に自動的に切り替えることができる。


 実際には、利用者の入力情報を基に当社が国に申請し、国の許可を得て契約を切り替えている。当社はこうした契約の切り替えや電力の需給調整といった一連の業務を、米セールスフォース・ドットコムのクラウドサービスを使って自動化した。その結果、システムの開発費用や運営費、事務コストを大幅に削減できた。コストを減らせたぶんだけ、利用者の電気料金を下げることができる。


 多くの競合他社は、大手IT企業に高いお金を払って専用の基幹システムを構築してもらっているようだ。クラウドサービスを使った当社のシステムに比べ十数倍に上る莫大(ばくだい)なコスト負担を伴う。負担の重さから、電力小売り事業から撤退する企業もあると聞く。


 大手電力会社は、電力の需給調整業務や契約の切り替え業務などのあらゆるシステムをブラックボックス化してきた。もともと自由化以前の電力事業は、設備やシステムにかかった費用を電気料金にすべて上乗せできる「総括原価方式」と呼ばれる仕組みだった。そのためコストを引き下げるための技術革新も起きない。外部からは、ブラックボックスになっていていくらかかっているのかも分からない。


「クラウド化すれば、低コスト化できるのに」と疑問に思っていたら、電力業界にも同じ考えの人がいた。当社のシステムは、そういった電力業界の一部の方々も協力してくれた。



 コンセントの向こう側

 大手電力会社は、運用システム一つを取り上げても分かるように、電力事業をできるだけ外部の目に触れないようにしてきた。送電線から住宅に届けられる電気も、石炭火力発電によって作られたものなのか、原子力発電によって作られたものなのか、消費者には分からない。

 当社が掲げる「顔の見える電力」は、こういった大手電力会社による既存の電力供給体制のアンチテーゼ(対立命題)である。電気そのものも、電力システムも、これからはどんどん「見える化」していく必要がある。コンセントの向こう側は、どうなっているのか。どんな人が関わっているのか。発電する人と電気を使う人をつなぐ無駄のない仕組みを作りたい。

おおいし・えいじ

 1969年大阪府生まれ。明治学院大学経済学部卒業。ソフトウエア開発会社などを経て98年凸版印刷に入社。インターネット事業に従事。2011年みんな電力を設立。