特集:AIと銀行 2018年4月3日号

AI時代の銀行は二極化 

 

一般客はスマホで完結 

富裕層は「最高級店」

 

高橋克英(マリブジャパン代表取締役)


 普段はスマートフォンで送金し、コンビニATM(現金自動受払機)で引き出すが、通帳の記帳も兼ねて、近所のメガバンク支店を訪ねた。月末でも金曜でもないのに、7台あるATMは長蛇の列。ポールで仕切られた狭いスペースを折り重なるようグルグルと整列させられ、スペースが少しでも空くと詰めるように係員にせかされる。列に並ぶ人の顔は一様に暗く、みな無言だ。

 

 一方、奥に広がる支店スペースの待合ソファは、閑散としており、コンサルティングブースは空席。カウンター奥に大勢いる銀行員とのコントラストは、まさにシュールな情景だった。


 ここは、過疎地でも地方都市でもなく、東京の名の知れた都心店舗だ。本稿を執筆するにあたり、メガバンクの都内店舗をいくつかのぞいてみたが、ATMの行列に閑散とした待合やブースは3メガバンクとも共通のようである。


 メガバンク、地方銀行とも、店舗機能の見直しや店舗削減を急いでいる。従来型のフルバンキング店舗を基本としながら、サービスの種類を個人向けなどに限定した「軽量店舗」、1階ではなくビルの2階以上に構える「空中店舗」、複数の支店を一つの店舗内に併設する「ブランチ・イン・ブランチ」、商業施設内に相談窓口を設ける「インストア・ブランチ」の導入を進める。


 富裕層など個人の資産運用ニーズに対応するために、相談ブースを設ける動きもある。さらにペーパーレス化、事務集中化による生産性向上と顧客利便性確保を両立する「次世代型店舗」も増えている。


 ところが、店舗に対する銀行側の思惑と顧客のニーズには大きなズレが生じている。

 ◇訪問型営業へ転換を

 顧客にとって、そもそも店舗は、「できるだけ行きたくない」場所である。次世代型店舗で印鑑レス、ペーパーレスが進もうと、軽量店舗が駅前にあっても、土日に営業しようが、行きたくないのだ。
 ましてや、今やスマホやネットがある。時間もストレスもフリーで、送金など多くの銀行業務がすでに可能。コンビニATMもあるなかで、なぜわざわざ銀行の店舗まで行く必要があるのだろうか。
 過去のトラウマもある。せっかく窓口を訪れてもATMに誘導され、ネットバンキングを勧められてきた。今さら、「店舗にいらしてください」「相談してください」と言われても、疑心暗鬼になる。
 三井住友銀行は2017年4月に開業した東京・銀座の複合型商業施設「GINZA SIX」の銀座支店を「次世代型店舗第1号」と位置づける。白を基調にした近未来的空間、書類ではなく専用端末へ署名するデジタル化など、工夫はうかがえるものの、顧客がくつろげる場所かといえば、そうではない。銀行の「悩みの象徴」のようだ。

 現在の店舗網からの延長線上で、次世代型店舗や軽量店舗を作っても、顧客ニーズとの乖離(かいり)と中途半端さから全滅する可能性すらある。


 そもそも、対面のサービスは銀行員が自ら顧客の元へ足を運ぶべきではないだろうか。コンサルティング営業や相談を前面に打ち出しているならなおさらだ。同じ金融業の保険会社はずいぶん以前から、営業所と保険外交員を基本とした営業スタイルだ。


 顧客訪問が基本の営業スタイルになれば、銀行店舗は不要となる。店舗は、ファイナンシャルアドバイザーや営業担当者の訪問活動・事務処理拠点で十分だ。現金取り扱いの必要もなく、他業種の一般的な事務所と同じ規模となる。必ずしも都心の一等地や路面店といった好立地である必要もなく、AI(人工知能)を活用したデジタル化とあわせ、営業担当者の直行直帰という柔軟な働き方改革も可能となるはずだ。


 銀行店舗におけるAI導入の効果は大きく二つに分けられる。(1)銀行員の業務削減、(2)顧客の利便性向上─だ。具体的には、次世代店舗におけるペーパーレス化、タブレットによるローンや金融商品契約、テレビ電話による専門知識を持つ銀行員との面談などが挙げられる。


 しかし、これらは銀行員の業務削減にはなっても、顧客の利便性向上には役立っていない。顧客にとって最大の利便性は、「できれば行きたくない」店舗へ行かなくてもよくなることなのだ。


 銀行の中核業務である融資も、AI化によって大きく変わろうとしている。みずほ銀行とソフトバンクが出資する「Jスコア」が、2017年9月にAIを使った個人向け融資サービス「スコア・レンディング(融資)」を始めた。顧客はスマホで年収や預金額といった質問に回答すると、AIが個人情報に基づいて信用力を点数化し、融資可能額や金利など貸し出し条件を決める。

 Jスコアは、今後10年で融資額5000億円超を目指す。このサービスが目指すのは「将来性のある意識の高い若者が融資を受けやすくなること」だが、個人事業者や中小企業にも対象を拡大していくだろう。


 また本来、ディスクロージャー(情報開示)が充実している大企業向け融資こそ、スコア・レンディングとの相性がいいはずだ。不振企業に対しても、長年の関係性を口実に、ただ期日にロールオーバー(借り換え)するだけの大企業向け融資こそ、「情」を挟まないAIの審査がふさわしい。

◇顧客向けは全国10店舗

 大多数の個人・法人顧客は、AI化によりスマホで送金、預金、融資など全ての業務を完結する──。銀行店舗の究極の将来像はこれだ。現金の取り扱いに関しても、キャッシュレス化の進展によりコンビニATMを含め、役割は縮小していくだろう。


 店舗と人材の規模縮小は急速に進めざるをえないものの、対面でのサービスがなくなるわけではない。過渡期には、既存の店舗を保険会社を模した営業員用の事務所として活用できる。ただし、その数はメガバンクでも最大で全国50カ所。三菱UFJ信託銀行の「国内本支店55」は、一つの目安となる数だ。地方銀行なら5カ所もあれば十分。過疎地では移動店舗車の活用や郵便局を代理店とすることも考えられよう。


 その一方で、フルラインの機能を持つ「メガ店舗」を構築すべきだ。ショールーム、また対面でのサービスを求める顧客向けのフラッグシップ店舗として、富裕層向けの最高級「ラグジュアリーラウンジ」を設ける。使用できるのは、高額の預金や取引で相応の「手数料」を負担している顧客だけで、差別化を図る。


 メガバンクは国内主要拠点に10店舗、地銀では本店のみで十分だ。例えば、アップルストアは、東京、大阪、名古屋、福岡、仙台にしかない。どの店も、常に多くの客であふれている。銀行が目指すのはこのように、遠くから電車を乗り継いででも行きたい店舗だ。


 銀行の店舗削減は、「300店舗から200店舗に」「3割削減」という中途半端なレベルではすまない。しがらみなく、ゼロベースで考えた場合、スマホとメガ店舗に行き着くはずだ。


 スマホ完結、顧客への訪問営業への業態変更を見据え、AIやITを活用した金融サービス「フィンテック」に人材や資金を投入し、新たなビジネスを切り開くことに力を入れるべきである。技術的にはすでに、ほぼ全ての銀行サービスはスマホで完結できるはずである。


 AIやフィンテックの進展で、顧客にとっていまや、銀行機能の代替先は数多く存在している。「できるだけ行きたくない」という顧客のニーズに耳を傾けることなく、現在の延長線上でしか店舗政策を考えられない銀行は、AI化による恩恵からも、顧客からも見放されることになる。

週刊エコノミスト 2018年4月3日号

定価:620円

発売日:3月26日