第68回福島後の未来:福島の風評払拭で期待される男性とシニア世代の働きかけ=義澤宣明

福島への関心が薄れるとともに、福島の真の姿が伝わりにくくなっている。風評払拭に向けた課題だ。

 

義澤宣明(三菱総合研究所 原子力安全事業本部主席研究員)

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づいている。20年は震災から10年の節目で、東日本大震災からの復興を世界にアピールする絶好の機会だ。その一方で福島県産の食品や旅行について風評が根強く残っている。


 昨年12月に政府が発表した「風評払拭(ふっしょく)・リスクコミュニケーション強化戦略」では、国が関連府省庁を挙げて風評払拭に全力を尽くすとしている。


 三菱総合研究所では五輪開催都市である東京都民を対象とした福島復興について、17年8月に意識調査を行った。東京都の1000人を対象とした調査で、この調査では、復興への理解、震災についての記憶の風化、福島県産の食品や旅行に対する意識などについて質問した。


 調査の結果からわかったことは以下の三つだ。


 (1)福島への関心の薄れとともに、復興に向けて変化している福島の姿が都民に伝わりにくくなっている。


 (2)福島県産の食品を「自分で食べる」だけでなく「家族や友人などにも勧める」にまで注目する必要がある。


 (3)放射線の健康への影響を誤解している回答も多いことから、最新の科学的知見の理解を進めることも大切である。


 調査結果の詳細は、「東京五輪を迎えるにあたり、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する認識をあらためて確かにすることが必要」として昨年11月に発表した。


 とくに注目して分析を進めたのは、福島県産の食品と旅行についてである。その結果、風評払拭に向けては男性やシニア世代の行動や働きかけが一つのきっかけになる、という可能性が浮かび上がってきた。

 

 ◇ためらわない60代

 

 福島県産の食品については男性よりも女性の方が「放射線が気になるのでためらう」という回答が多かった。「家族、子どもが食べる場合」では約4割の女性が「放射線が気になるのでためらう」と回答した。「外国人観光客に勧める場合」についても同様の結果となった。家庭で使う食材を決める場面では女性の考えが重要になるだろう。風評の払拭に向けては女性の理解が大切だ。


 福島県への旅行に対する結果を年代別に見ると、若い世代ほど旅行をためらう傾向が強い。「家族、子どもが訪問する場合」にはその傾向がより強くなっている。「外国人観光客に訪問を勧める場合」もこの傾向は同じであった。


「自分が訪問する場合」に「放射線が気になるのでためらう」という回答は60代が17%で他の年代と比べて最も低かった。


 ところが、「家族、子どもが訪問する場合」ではこの割合が29%と大きく増加している。「自分はよいけれど若い世代が福島に旅行して大丈夫なのだろうか?」と懸念するシニア世代が10%ほどはいる模様だ。


 福島県産の食品や旅行については、性別や年代で回答に違いがあり、風評払拭を進めるにあたっても性別や年齢を考慮することが重要だ。特に、女性や若い世代の福島への理解が進むことが強く望まれる。


 食に関する風評の問題では、子どもや家族が福島県産の食品を食べることへの女性の懸念を解消していくことが大切だ。


 その具体的な方法として、男性の調査結果に注目したい。男性は女性に比べて懸念する傾向が低い。そこで、家族や友人との食事に福島県産の食材を導入するきっかけ作りを特に男性に期待したい。


 例えば、自宅での食事の場面で、福島県の食材を話題にしてみてはどうだろうか。「福島の桃はおいしいと言う話を聞いた、今度皆で食べてみようよ」という会話は、風評払拭に役立つに違いない。筆者も先日、「福島県産のお米を家で食べたいけれどもよいか?」と家族に問うてみた。家族は賛成してくれた。福島の話題が食卓にのぼることで風化の問題にも歯止めがかかるだろう。

 

◇郷土料理を「食べて」

 

 福島の郷土料理が食べられるお店に家族や友人を誘ってみるのもよい。福島県が発行している、パンフレット「食べて」(まじうまふくしま!東京の店) には東京23区内で福島の食や酒が味わえるお店が50店舗ほど紹介されている。


 東京にこんなに福島の料理を食べられるお店があったのかと筆者も驚いた。もちろん他の地域でも、ウェブサイトなどで福島の料理を楽しめるお店を見つけることができるだろう。福島の食、酒、観光地のことなど話題にしてみてほしい。そして、家族や友人との楽しい食事で福島を応援してほしい。


 福島県への旅行については、60代以上のシニア世代の活躍が期待される。実際に福島を訪れ、そこに住む人たちとふれあい、元気よく遊んでいる福島の子どもたちの姿を目にすれば、若い世代が福島に旅行することへの懸念も弱まるだろう。楽しかった福島旅行の話を家族や友人にすることも、風評払拭に役立つに違いない。20年には多くの外国人観光客がオリンピックやパラリンピックの競技を観戦するために日本を訪れる。彼らが福島に旅行することも大いに期待される。


 食の安心の問題などでは、女性や若い世代に注目が集まることが多いが、今回の調査からは、男性やシニア世代が風評払拭に重要な役割を果たせることが示唆された。福島の風評払拭に向けて男性とシニア世代に期待される役割は大きい。

◇よしざわ・のぶあき


 1964年東京都生まれ、90年九州大学大学院工学研究科修士課程修了、三菱総合研究所入社。放射線による被ばく線量評価および食品安全、自然災害などのリスクに関する安全や安心を手がける。