特集:データ×技術 気象、金融、人材活用… 日本初のサービスが続々2018年4月17日号

ビックデータを集める時代から、データを有効

に使い価値を生み出す時代に入った。

 

 インターネット、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)を駆使し、デジタルデータから新しい価値を生む段階へと入った。データを活用した日本初のビジネスが続々登場している今、最前線を取材した。

 

 ◇日本気象協会 気象データで販売ロス削減

 

 日本気象協会は、気象庁が集める気象データを活用し、天候に左右されやすい商品の需要を予測し、商品の売れ残りを減らすプロジェクトを進めている。その予測技術を活用する企業の一つが子供服・ベビー服大手、西松屋チェーン。同社の柴田拓二・営業企画室長は「ある冬服の利益が、前年に比べ90%も増えた」と喜ぶ。


 アパレル商品は、需要が気温や湿度など気候の変化に大きく左右される。同社の、ある冬服の場合、販売数は11月にピークに達しその後、気温の上昇とともに減る。気候の変化に応じて値下げをするなど価格調整を行わなければ、多くの在庫品を抱えることになる。


 従来、値下げ幅をどのくらいに設定するかはベテラン販売員などの経験に頼っていた。だが、実際は値下げ幅を大きくしても売れ残ったり、逆に価格を据え置いても売り上げが伸びたりと不安定だった。経験と勘による価格設定に限界を感じ、定量的な予測の必要性を感じていた同社が出会ったのが、日本気象協会の需要予測技術だ。


 同協会でプロジェクトの立ち上げにかかわった中野俊夫・先進事業グループ技師は「気象データの特徴は客観的に将来を予測できること。それを経済に生かしたかった」と狙いを語る。


 予測の仕組みは、企業からPOS(販売時点情報管理)データとして過去の販売データを提供してもらい、それを同期間の気象データと照合し、どんな気象の時にどのくらい売れるかといった「需要予測式」を作る。予測式とこの先の天気予報を基に実際の需要を試算して企業に提供する。


 すでに食品製造業界では、豆腐や麺つゆ・鍋つゆなど季節性のある商品の需要予測実験で効果を確認している。プロジェクトに参加する豆腐メーカーの相模屋食料(前橋市)は、豆腐の小売り業者などと連携し、見込み生産で出ていた豆腐の廃棄ロスを生産量全体の8%から0・4%に減らすことができたという。


 中野氏は「全産業のおよそ3分の1には、気象リスク(天候による業績への影響)がある」という。気象予測技術はこの15年で誤差の精度が30%向上しており、「経済に利用できるしっかりとした素地がある」(中野氏)。

◇ジェイスコア 質問に答えAIが与信

 

 AIを活用し融資限度額や金利を算出する「AIレンディング(貸し付け)」市場規模が拡大している。


 みずほ銀行とソフトバンクが50%ずつ出資するジェイスコア(東京都港区)は昨年9月、個人向けに「AIスコア・レンディング」を国内で初めて開始した。


 融資を受けるにはスマホなどからサイトにアクセスし、18項目の簡単な質問に答えることから始まる。性別、職業、ローンの有無など個人属性について答えると、1000点満点で、「スコア725点、貸付利率年9・4%、上限160万円」などと融資条件が提示される。600点以上であれば同社のサービスが受けられ、上限額と金利はスコアによって変わる。「自分のスコアを確認した上で借り入れ計画が組めるサービスは従来なかった」(大森隆一郎ジェイスコア社長)。


 実際に融資を受けるには、さらに150項目の質問に答える。その質問は例えば「洋服は何を基準に選びますか」といったユーザーの嗜好(しこう)を問うものもある。質問が多いほど明確に借り手がどんな人物かが分かるため精緻な与信審査が可能になる。


 学生や給与水準が低い人でも高スコアになる場合があり、従来の画一的な与信審査で融資を断られていた人たちが、融資を受けられる可能性が出てくる。大森氏は「将来のある若者の方が高スコアになる可能性が高い」と強調する。


 回答にうそが混じっていれば与信の精度は落ちるが、ジェイスコアは、みずほ銀行の口座やソフトバンクの携帯電話料金の支払い記録などとひも付けできるようにした。例えば光熱費が毎月きちんと引き落とされていれば、信頼に足る情報が加わりさらに高スコアになる。「ビッグデータ時代に重要になるのはデータの“量”ではなく“質”だ」(大森氏)。

◇ネットプロテクションズ 後払い決済のリスク低減

 

 商品を入手した後に代金を払う「後払い決済」もデータの活用が急拡大している分野の一つだ。利用者の過去のショッピングの取引記録などのデータを活用することで、より精緻な審査が可能になった。


 国内最大手のネットプロテクションズ(東京都中央区)が提供するサービスの決済件数は、リアル店舗とネット通販などECを合わせ年間3600万件に上る。その7~8割がリピーターという。


 ファーストリテイリングが「ユニクロ」「GU」ブランドの通販サイトに導入するなど、国内1万7000社以上がネットプロテクションズのサービスを使っている。


 同社の取り組みで新しいのは、異業種と連携し、そのデータを活用して与信審査の精度を高めていることだ。不動産情報サイトを運営するLIFULL(ライフル)と提携し、全国の空き家やマンションの空室の情報を、自社が持つユーザーの取引データと突き合わせる。


 後払い決済でのリスクは、利用者が請求先住所などを偽って未払いが発生することだ。多いのは、利用者が以前住んでいた住所を登録するケースである。ネットプロテクションズは、同社の後払い決済の利用者が登録した住所に現在、居住中かどうかをライフルのデータベースで確認する。こうした、異業種横断でデータを融通し合うビジネスモデルは従来見られなかった取り組みだ。


 ネットプロテクションズの柴田紳社長は「さまざまな業界間でデータの“オープン化”が進まなければ、本当に価値のあるサービスの提供は難しい」と話す。個人の信用データはシェアリングサービスなどで利用可能であり、中国では個人の信用をスコア化し、カーシェアで使っている。「来るべきシェアリング社会にこそ、データを活用した信用の“見える化”が必要だ」(柴田氏)。

 ◇grooves(グルーヴス) 人材会社つなぎ地方活性

 

 日本では働き方改革への機運も相まって、「HR(ヒューマン・リソース=人材活用)テック」への期待が高まっている。欧米ではすでに、人材マッチングの分野で、応募者の適性判断にAIを活用する「タレント(才能)マネジメント」サービスが多数出ている。ただ、現時点では多数の応募者に対応しきれない人事部の負担を減らすようなサービスが主流で、そもそも応募者が少ない地方企業が最適な人材を探すためのサービスはほどんど出ていない。


 地方企業の人材確保を支援する数少ないHRテックとして注目されているのがgrooves(グルーヴス)だ。同社は国内の人材紹介会社から横断的に人材情報を吸い上げる「クラウドエージェント」と呼ばれる新しい仕組みを構築した。企業が人材を探す場合、その企業が取引する紹介会社が最適な人材を知っているとは限らない。一方、人材紹介会社も転職者が希望するポジションに空きがある企業を探すのは難しい。グルーヴスの仕組みはこれを解消する。


 佐賀県吉野ケ里町に本社を置く物流企業トワードは昨年、グルーヴス経由で欲しかった人材を補強できたという。食品の配送がメインの同社では、食品メーカーを新規開拓するため営業できる人材を探していた。ただ、同社で人材採用を担当する経営管理本部の太田洋之氏は「食材の特性を理解した物流設計ができる人物は、地元には少ない」と話す。首都圏の中堅以上の食品メーカーで営業をしていた人であれば、求めるスキルを持つ可能性が高いが、Uターン人材にめぐり合うのは難しいと考えていた。


 そんな時、クラウドエージェントを使ってみたところ、早いタイミングで、人材紹介会社から、営業経験が豊富かつ九州にUターンを希望しているという40代男性を紹介された。面接すると適性は理想的で、採用した。
「地方企業にこそ使ってほしいサービス」という池見幸浩グルーヴス社長は「先進的なAIやIoTの活用も重要だが、もっと大事なのは、どこに、どんな使えるデータがあるかを知ることだ」と強調する。それを有効に活用できれば「地方創生」で効果を発揮しそうだ。
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 日本政府が任命する「オープンデータ伝道師」としてデータ政策の立案に関わる庄司昌彦・国際大学GLOCOM主任研究員は「いろいろな分野でデジタル化が進んだ今は、いろいろなサービスを介してデータを組み合わせられる。しかも、その組み合わせは無限大だ。データテクノロジーに合わせて、社会を再設計する時代に入ったことを認識すべきだ」と指摘する。日本は、政府も企業も個人も、世界で起きている“データ活用革命”に乗り遅れないことが必要だ。

(大堀達也・編集部)
 

週刊エコノミスト 2018年4月17日号

定価:670円

発売日:4月9日