世界トップシェアになった黒鉛電極 森川宏平 昭和電工社長

Interviewer 金山隆一(本誌前編集長)

 

── 社長就任から1年あまりが過ぎた。環境の変化は。


森川 社長は、やりたいことができる究極のストレス・フリーな立場だ。就任して、何かが変わったという違和感を感じたことはない。もちろん、工場や事業所に行くと、「これだけ多くの社員が働く組織のトップだ」とプレッシャーに思うことはある。ただ、ストレスではない。


── 森川社長にとってストレスとは


森川 自分のやりたいことが何だか分からない、あるいは、自分がやりたいことがあるのにできない、という状態だ。私は30代前半がそうだった。


── その立場で1年目の業績を振り返ると?


森川 2017年12月期の連結営業利益は778億1800万円(前期比85%増)で過去最高を更新した。18年12月期業績予想は、これを更新する1100億円だ。


── 業績が伸びた理由は。


森川 一つは、全ての事業で稼げるようになったことだ。当社には、石油化学、化学品、アルミニウム、無機、エレクトロニクスの五つのセグメントがある。過去は、ハードディスク事業が属するエレクトロニクスに偏っていた。しかし、今は他の事業の収益基盤も分厚くなってきた。その結果、化学業界に追い風が吹いた時に、会社全体に好影響が及ぶようになった。


── 主な増益要因は。


森川 無機セグメントの黒鉛電極事業だ。黒鉛電極は、電炉でのスクラップ鉄の溶解に不可欠な素材だ。黒鉛電極の市況が好転したことや、中国の環境規制で電炉の稼働が進んでいることが増収要因となった。当社は長野県大町市などに製造拠点があるのに加え、同業の独SGL GE社を17年10月に約193億円で買収したことが貢献した。買収によって世界トップシェア(約3割)となった。


── なぜ、買収したのか。


森川 米国の製鋼業では既に6割が電炉を使っており、今後、日本でも中国でも増える。ただ、最大の問題は、一定期間で価格変動があることだ。価格変動の波を緩和するにはどうすればいいかを考えたら、世界トップメーカーになるのが一番効果的だという結論になった。黒鉛電極は、現在、当社の「個性派事業」のうちの一つだ。

 

 ◇「個性派事業」の3要素

 

── 個性派事業とは何か。


森川 成長の源となる事業のことだ。年間利益数十億円、利益率10%以上、市場変動が少ない、の3要素が必要だ。


── なぜその3要素なのか。


森川 化学品業界では、当社も他社も「高付加価値製品」「機能性化学品」など、いろいろな言い方をして、新たな収益源を探してきた。しかし、なかなか成功しない。自分たちの戦う領域をどんどん小さくしたからだ。領域を小さくしきったところで、その範囲ではトップだと言い張れる。居心地はいいだろうが、結果的にほんの少ししか利益が出ていなかった。全社の収益に貢献するには、ある程度の市場規模の中でシェアがあって(年間利益数十億円)、当社に見合った利益率で(利益率10%以上)、有望な市場であること(変動が少ないこと)、が必要だ。これを昭和電工なりに表したのが、3要素だ。


── 現在の個性派事業は。


森川 13の事業のうち3要素を満たすのは、黒鉛電極、電子材料用高純度ガス、ハードディスクの三つだ。ただ2025年には、全事業数の半数以上にすることを目指す。個性派事業候補には、アルミ缶やリチウムイオン電池材料などが含まれる。現場には「3要素全てを満たそうとせず、まずは一つの要素をクリアすることから始めればいい」と言っている。


── 人工知能(AI)やIoT(モノのネット化)の変革にはどう向き合うか。


森川 まず影響を受けるのは、サービス業、次にBtoC(消費者向けビジネス)で、我々のBtoB(法人向けビジネス)はしぶとく生き残る。データセンターの建設加速や電気自動車(EV)の普及によって、使われる半導体も増える。当社は半導体製造時の回路形成やクリーニングで使う(臭化水素などの)高純度ガスを製造している。半導体は微細化が進み、線を彫る距離が長くなっている。また、メモリー半導体では積層化(記憶容量を増やすために基板を重ねること)が進み、工程も増えている。すると、製造時に使われるガスも増える。当社の高純度ガスの売上高はここ数年、年15%成長を続けている。


── 他の事業で成長領域は。


森川 飲料用アルミ缶は14年から海外に出ており、海外事業だけ見ると年9%成長だ。アルミ缶はかさばり輸送費がかかるので、地産地消がいい。では、どこに生産拠点を置くかがポイントになる。当社は14年にベトナム北部の地元アルミメーカー「ハナキャン」社を買収して進出、さらに17年には中部に新工場の建設を決定した。ベトナム北部・中部はアルミ缶の文化が始まったばかりだった。そのさなか、当社のアルミ缶は、印刷が鮮明、プルトップが安易には取れないといった品質が、地元の飲料メーカーに評価された。ベトナムでの実績を見たタイの飲料メーカーからアルミ缶製造販売の合弁事業を持ちかけられ、バンコク近郊で今年10月に新工場が稼働予定だ。
(構成=種市房子/編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか


A 研究ばかりやっていた。やりたいことがあるのに、権限がなく何もできない。そんなことを繰り返してもんもんとしていた。


Q 「私を変えた本」は


A 『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド)。


Q 休日の過ごし方


A 頭の中の知識の整理。「なぜ外国企業は利益率20%が必要だと言うのか」という経営のことから、趣味の野球で「巨人はどうすれば強くなるのか」ということまで、疑問に思ったことを、その週に聞いた名言やニュースと関連づけてぼーっと考えている。すると、突然アイデアが降りてくることがある。
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 ■人物略歴
 ◇もりかわ・こうへい
 1957年、東京都生まれ。麻布高校、東京大学工学部卒。82年昭和電工入社。主に研究開発畑を歩み、2013年執行役員。16年常務執行役員、最高技術責任者(CTO)、17年1月から現職。同社では20年ぶりの技術系、研究開発畑としては初の社長。60歳。
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事業内容:総合化学
本社所在地:東京都港区
設立:1939年6月
資本金:1405億円
従業員数:1万864人(2017年12月現在、連結)
業績(17年12月期連結)
 売上高:7803億円
 営業利益:778億円