製造小売業から情報製造小売業へ 柳井正 ファーストリテイリング会長兼社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

─ 現在の競合相手はどこか。


柳井 製造小売業(SPA)大手のZARA(ザラ)、H&M、ギャップに加えて、スポーツメーカーのナイキ、アディダス、それからネット通販のアマゾン、ゾゾタウンなどだ。業界の垣根がないシームレスな競争になっている。そもそも消費者がお金を出す財布は一緒だ。スマートフォンを買うか、服を買うか、または他の物を買うかという状況で、魅力ある商品を作ることが一番大事なことではないか。

 

── ユニクロならではの商品とは。


柳井 クラシック、ベーシックな服を、何年も着てほしいという思いで、お客様の期待を超える完成品を作っていきたい。


── ベーシックな服での競合はあるのか。


柳井 いや、ないですね。他社はもうかるという動機付けだろう。しかし、僕らは専門家としてベーシックな服を売っている。本当にいい商品を作ろうと思ったら、素材、縫製、企画、パターン、着心地、他の服とのコーディネート、これらの問題を全部解決しなければならない。そう簡単にできるわけではない。


── ユニクロ愛好者には「キャラクターものが増えており、ベーシックなものが減っている」という意見もある


柳井 僕もさっき社内で文句を言ったばかりだ。大きなキャラクターが入っている商品があったので「お客様の考えとは違う。こんなことに迎合して物を作るのはやめてほしい」と。世界中には、有名キャラクターが入った服があふれている。そんなのはうちで作る物ではない。

 

 ◇服はAIでなく人が選ぶ

 

── 昨年、東京・江東区に有明本部をオープンした。


柳井 従来は、企画と物流のオフィスは離れていた。昨年、物流倉庫も有する有明本部に、港区六本木からユニクロ事業部を1000人規模で移し、企画から物流、販売までの各部署の垣根を無くして意思疎通、情報のやりとりが円滑にいくようにした。物流面も、実店舗とネット販売の区別を無くしてシームレスに管理するようにした。


── ネット通販が増えれば実店舗販売に影響するのでは。


柳井 ネット通販と実店舗は共存しうる。米国でモールが衰退したのは、床面積の異常増加と店の同質化が大きな要因だ。ネット通販のせいにするのは経営者の言い訳だ。


── 有明本部の物流管理では発足当初混乱があったと聞く。


柳井 最初はうまくいかないのは当たり前だ。それは僕がいつも言っていることだ。全てすんなりいったらおもしろくない。原因は、自分たちでやるべきことを外部に全て丸投げしたことだ。だから問題が起きても、どこに問題があるのか分からなかった。今はだいぶ改善している。


── なぜそこまでして移転を。


柳井 製造小売業から「情報製造小売業」へ転換するためだ。今や消費者は、スマホで調べて得た情報を頼りにして自分の行動を決める。商品だけではなく、情報も同時に提供していかなければならない。製造販売に費やす労力よりも、情報発信・取得に費やす労力が重要になってくる。そういう状況に対応できる組織を作っていきたい。


── 発信する情報とは。


柳井 この服のこの着方ならばこういうふうにあなたの生活にプラスになります、ということだ。
── 人工知能(AI)が着こなしを提案するサービスも出現した。


柳井 それは僭越(せんえつ)だと僕は思う。やはり服はお客様に選んでもらうもので、僕らはその判断材料を情報として提供していく。


── 情報という点では、全身の寸法を細かく計測できるボディースーツも出現し、顧客の購買履歴と体形に合わせて、ファッションをオーダーメード方式で提案するサービスも登場した。


柳井 サイズを精密に測るのは重要だとは思う。しかし、消費者の好みがそれだけで分かるのか。やはり、僕らでいろいろな情報を集めて、編集して、ファッションについてこういうふうに考えていますと、判断材料を提供するのが大切だ。雑誌や映画を作るようなものだろう。


── 情報発信に対して、ビッグデータなど情報収集は。


柳井 購買履歴や買った人の性別や年齢も重要だが、当社の商品を買った方がどのように感じているのかが一番大事な情報だ。さらに言えば、当社の商品を買わない人の意見も重視している。


── ネット小売り大手のアマゾンや中国のアリババとの連携は。


柳井 アリババとは中国で提携しているが、他国ではその予定はない。アマゾンは、あらゆるものを独占しようとしている。利用されるだけの会社とは付き合えない。自分たちだけではなく、取引先や下請けなど全員が繁栄するビジネスモデルでないと永続的に成長できないのでは。


── かつて、店舗でのサービス残業が批判された。


柳井 批判は受け止める。批判されたようなことがあれば、ゼロにするような努力をしていかなければならない。無理をして仕事をしても続かない。社内では、サービス残業をしたら会社を潰す、と常々言っている。


── ただ、柳井社長にまで批判が届かないのでは。


柳井 おかしなことがあれば、直接抗議してほしい。僕はいい経営者でありたいし、いい従業員と仕事をしたい。批判的な意見を言う人も、良いコンサルタントだととらえたい。
(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか


A ビジネスマンというよりは、地方の零細自営業者として生き残ることに精いっぱいでした。


Q 「私を変えた本」は


A 松下幸之助さんと本田宗一郎さんの本はほとんど読みました。日本の真の意味でのアントレプレナー(起業家)である彼らに影響を受けました。


Q 休日の過ごし方


A ゴルフです。
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 ■人物略歴
 ◇やない・ただし
 1949年生まれ。県立宇部高校、早稲田大学政治経済学部卒業。71年、ジャスコ(現イオン)に就職。72年、父親が設立した小郡商事に就職。84年に「ユニクロ」ブランドを設立して社長に就任、91年、現社名に変更。2002年に会長に退いたが、05年に社長に復帰した。69歳。
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事業内容:服飾を中心とした製造小売業
本社所在地:山口県山口市
設立:1963年5月
資本金:102億円
社員数:4万4424人(2017年8月現在、連結)
業績(17年8月期、連結)
 売上高:1兆8619億円
 営業利益:1764億円