業界トップの規模はお客さまの信頼の証し 清水博 日本生命社長   

── 今年4月から保険料率を改定し、多くの商品で保険料を値下げしましたね。


清水 今回、11年ぶりに保険料算定の基準となる予定死亡率を引き下げました。この11年間の傾向とデータをしっかり分析し、確信を持って死亡率を引き下げたので、定期保険や終身保険など保障性商品の保険料を値下げしようと考えました。定期保険では最大20%程度、保険料を引き下げており、平均の値下げ幅は12%程度です。

── 年金保険など貯蓄性の商品や医療保険の保険料は?


清水 貯蓄性の商品に対しては、低金利の中で根強い貯蓄・資産形成ニーズがあります。昨年度に値上げしたこともあり、今回は料率改定の対象外とし、保険料を据え置きました。また、医療保険では治療費が増えがちなため、本来は保険料は値上げ傾向のところを、ほぼ横ばいとしました。配当の形でも死亡率が改善した効果を実感してほしいと考えており、加入した保険の種類や時期によって異なりますが、現在配当をお支払いしている人の約7割が増配となります。増配の規模としては約700万件、金額は約300億円となる予定です。

 

── 今年3月に発表したマスミューチュアル生命買収の狙いは?


清水 生命保険の販売は、営業職員の対面販売のほか代理店や銀行での窓販などへと広がっています。銀行窓販では日本生命と(2015年12月に子会社化した)三井生命で商品をそろえていますが、富裕層向けの、それも銀行窓販に強みを持つマスミューチュアル生命を加えることで、3社体制として銀行窓販市場をより強くすることができます。


── 資産運用会社のM&A(合併・買収)にも積極的ですね。


清水 昨年12月には米運用会社TCWグループへの出資を発表し、今年3月にはドイツの資産運用会社ドイチェ・アセット・マネジメント(DWS)の株式5%を取得しました。TCWは米国の債券運用に強く、DWSは幅広い運用手法を持っています。日本のお客さまには国内の低金利もあり、グローバルな運用によって運用利回りを向上させたい期待があります。TCW、DWSを活用して、お客さまに提供する商品のバリエーションを増やしたいですね。

 

 ◇営業職員をより強く

 

── ネットや保険ショップなどが広がる中でも、約5万人の営業職員はやはり営業の主軸ですか。


清水 ネットでの保険販売は今のところ頭打ちで、成長している保険ショップは対面営業なんです。やはり、営業職員による対面営業をより強くすることが最重要ですね。ネットや保険ショップに行くお客さまは、身近に(保険のことを)相談できる人がいません。昔は職場に出向いた営業職員が相談相手になっていました。最近はセキュリティーの関係で難しくなっていますが、法人営業のつながりを生かしてお昼休みに場所を借りるなどし、相談の機会を増やしています。


── 「インシュアテック」と呼ばれるように、保険分野でもAI(人工知能)などIT活用が進んでいます。


清水 そこは積極的に導入したいですね。すでに、営業職員が持つ情報携帯端末を一新し、基本的に申し込みをペーパーレスにしました。また、情報携帯端末の支援ソフトでは、年齢や家族構成などの情報を入力すると、それに合った商品を提案する簡単なAIを入れています。


── 商品開発への応用は?


清水 今年4月から生活習慣病になるリスクを重点的に保障する商品を発売しました。これに合わせて、糖尿病予備群の人向けに重症化を予防するプログラムの実証実験を、ヘルスケア関連の企業と組んで始めます。腕にパッチのようなものを付けて24時間、血糖値や血圧などの数値をモニタリングし、専門家からのアドバイスを受けられる仕組みです。この実証実験でどこまで数値が改善するのかを確かめ、実験の範囲を広げたうえで、いずれは本格的なサービスとして展開したいと思っています。


── 日本株を保有する機関投資家として生保各社が昨年、株主総会での議決権行使結果を個別開示しましたが、日本生命は開示しませんでした。


清水 我々は株式投資の際、投資先企業との対話を重視しており、議決権行使は対話の末の行動の一つにすぎません。長期にわたって投資する機関投資家として、議決権の行使結果を個別に開示することが、企業との対話を阻害する要因にならないかどうか。また、中長期的な企業価値の向上につながるのか、今後も状況を見ながら(開示を)判断していきます。


── 業界トップであることにこだわりを持っています。


清水 規模の大きさはお客さまからの信頼の証しだと思っています。生命保険会社として一番重要なのは、お客さまから引き受けたリスクを長期間にわたって保障すること。そのためには、自己資本や財務基盤を安定させ、強化しなければなりません。しかし、会社に対する信頼が得られていなければ、契約を得られず、収益を安定させることもできません。これからは、規模だけでなく社会貢献も含めた取り組み全体で、業界をリードしていく会社を目指していきたいですね。
(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか


A 会社の中長期の収支予測や財務を預かる主計部というところに長くいました。残業の毎日でしたが、徹夜したある日の朝、ホテルで食べたエッグベネディクトの味が忘れられません。


Q 「私を変えた本」は


A 『人生で大切なたったひとつのこと』(ジョージ・ソーンダーズ著)です。人生を振り返って、人に優しくすることが欠けていたと書いてあり、私自身も本当にそう思いました。


Q 休日の過ごし方


A プールで定期的に泳いだり、掃除、洗濯など家事に没頭します。仕事をすっかり頭から離すことを心がけています。
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 ■人物略歴
 ◇しみず・ひろし
 1961年生まれ。徳島県出身。徳島県立城南高校、京都大学理学部卒業。83年日本生命入社。執行役員総合企画部長、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員(資産運用部門統括、財務企画部担当)などを経て、2018年4月から現職。保険数理人(アクチュアリー)資格を持つ。57歳。
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事業内容:生命保険業
本店所在地:大阪市
設立年月:1889年7月4日
自己資本:5兆2951億円
従業員数:7万651人(2017年3月末現在、単体)
保険料等収入:5兆2360億円(16年度、連結)
基礎利益:6855億円(16年度、連結)