第70回 福島後の未来:再生エネ主軸の外務省提言は日本固有の事情検討が不十分=石川和男

◇いしかわ・かずお
 1965年福岡県生まれ。東京大学工学部卒。89年通商産業省(現経済産業省)入省、電力・ガス改革などに携わる。2007年に経産省を退官。東京女子医科大学特任教授や東京財団上席研究員を経て11年9月から現職。

 河野太郎外相が主宰する外務省の有識者会議が今年2月、エネルギー政策に関する提言をまとめた。提言には、(1)化石燃料確保が主体の外交から、再生エネルギーを主軸に置いた外交への転換、(2)原子力・石炭については発電コストや環境性の面から廃止、あるいは段階的に依存度を引き下げる必要性がある、との2点の主張が盛り込まれた。再エネは、経済産業省も今年3月、「主力電源として大量に導入していきたい」と表明している。しかし、再エネの大量導入には、自然条件によって出力が変動するという「変動問題」と、コストの高さが難題として立ちはだかる。外務省の提言は、これらの問題を十分に勘案しているとは言い難い。 

 

 ◇減らないドイツのCO2

 

 日本が再エネ政策を進めてきた過程で参考にしたのは、ドイツだ。ドイツが再エネ固定価格買い取り制度(FIT)を施行したのは2000年。それ以来、再エネ導入が進み、17年での再エネ比率は33%(風力16%・バイオマス8%・太陽光6%・水力3%)に達した。


 風力や太陽光は、自然条件によって出力が大きく変動する「自然変動再エネ」であり、バックアップのための調整電源が不可欠だ。ドイツでは、再エネ調整電源として石炭を多く利用してきた。17年の、全電源に占める石炭比率は37%で、再エネ(33%)を超える。さらに10~15年の、二酸化炭素(CO2)排出削減量を国・地域別に見ると、英国0・5億トン(削減幅29%)、欧州連合(EU)1・6億トン(同14%)に対して、ドイツは0・1億トン(同3%)にとどまった(図)。

フランス国有電力会社EDFのレニョー上級副社長は、今年1月に経産省で開かれた有識者会議で、ドイツの状況について「脱石炭の流れとは逆行している。再エネの導入量は拡大した一方で、原発ゼロを政治決定した結果、石炭を使い続けており、10年前からCO2排出量は変化していない」と述べた。


 ドイツは再エネが普及しているとはいえ、その買い取り費用である再エネ賦課金も巨額だ。そして再エネ賦課金は電気料金に含まれ、ドイツの電気料金を押し上げている。経産省資料によると、各国の電気料金(1キロワット時当たり)の17年実績は以下の通りだ(1ドル=110円で計算)。


・家庭向け:独37円、米14円、仏20円、英22円、日本23円
・産業向け:独16円、米8円、仏11円、英14円、日本16円


 確かに、ドイツでは、電気料金に含まれる税金も高いが、再エネ賦課金の影響も見逃せない。


 以上のように、再エネ先進国のドイツでも、課題が残っている。では、外務省提言では変動問題とコストに関して、どのような言及がなされているのだろうか。


 まず、変動問題については、「電力市場の成熟した各国では、限界費用の安い再エネをまず最大限に使い、残りの電力需要には、気象予測を統合した電力取引や系統の広域化、需要マネジメントとともに、天然ガス火力などの柔軟な電源を活用するというシステムに移行している。柔軟性に乏しい原子力や石炭の役割は次第に限られたものとなってきた」と書かれている。


 欧米諸国は、隣国と地続きで送電網が互いに接続されているため、他国間融通が可能だ。島国である日本では、国内だけで上記のような電源調整の方法を取るのは困難だ。外務省提言は、この差異に全く触れていない。やはり、日本の国情にふさわしい対策を示しておくべきだ。


 筆者は日本固有の電力調整手段として、揚水発電の有効活用策を提起したい。揚水発電の本来の機能は、余った電気で夜間に水を山の上部にくみ上げ、電力需要の多い昼間に山から落とすものだ。しかし、九州では近年、小丸川発電所(宮崎県)などで、太陽光発電の普及で余った電気を元に昼間に水をくみ上げて、需要が高まったら水を落として発電している。いわば、余剰な再エネを山の上にためる「再エネの蓄電池」だ。再エネ蓄電を資金的な不安なく推進していくためには、施設の維持や効率向上のための設備更新が欠かせない。再エネ賦課金を財源とする支援措置を提案しておきたい。


 提言では、コスト問題についても、「多くの国々が、良好な競争環境を政策的に用意し、入札によって再エネのコストを低下させているが、日本では、系統連系や優先給電の保証がなく、目標設定が低いことなど将来的な再エネ拡大の展望に欠けるため、事業者がコスト低下に踏み込める環境が整っていない」との記述がある。


 系統連系とは、あるエリアで余剰となった電力を送電系統で他エリアに送ることだ。また、優先給電とは、余剰電力が生じた場合に、どのように需給調整をするかという事業者間のルールを指す。優先給電については現在、まず火力発電から発電量を落とし、次に揚水発電所のくみ上げという形で需要を作り出すことを優先しており、再エネの発電量減は最後の手段と位置づけている。提言書では、このルールが必ず守られる保証がないとして、火力発電などに比べ発電コストの高い再生エネ事業者に不利だと指摘しているようだ。

 

 ◇高すぎるFIT価格

 

 しかし、日本の再エネの発電コストが高い最大要因は、政治的決着によりFIT価格が世界的にも高く、かつ発電開始から20年間固定されているため、事業者に発電コストを引き下げるインセンティブが働かないことにある。系統連系や優先給電がいくら再エネに有利になろうとも、現行のFIT価格・期間が維持される限り、コスト高は解決しようがない。FIT価格から算出される賦課金総額は、18年度2・4兆円、30年度3・1兆円に上る(いずれも推計)。消費税1%分(年間2・5兆~2・6兆円)と比べても、再エネ関連費用が巨額であることは一目瞭然だ。


 さらに、太陽光の設備利用率についても、日本固有の事情がある。世界的に太陽光コストが相当低下しているのは、日照条件などがよく日本よりも設備利用率が2~3倍もあるサウジアラビアなどの国・地域での話だ。日本は設備利用率が低いうえに、設置工事でも元請けが下請けに発注し、さらに孫請けに出す多重下請け構造が根強く、高コスト体質からなかなか脱却できない。


 外務省提言は、こうした日本固有の状況には一言も触れていない。筆者は、再エネの既稼働案件はもちろん、未稼働案件であっても、FIT買い取り価格・期間を変更することを提案したい。日本では12年度にFITが導入されたが、直後の数年間はFITが高値の「バブル期」だった。こうした高値買い取り案件に関しては、買い取り価格は引き下げつつ、買い取り期間は長くする改善が必要だろう。これによって、単年度負担は減らしつつ、総額の投資回収費用は確保することが可能になる。


 再エネ大量導入による電力コスト上昇を緩和するためには、安価な既設原子力・石炭火力発電の稼働率向上を図ることが有効だ。そのために、諸規制の合理化や運用改善を提案したい。具体的には(1)現状で原子力規制委員会の新規制基準に適合していなくても、一定の猶予期間内に適合することを条件とした上で、発電再開を容認する、(2)CO2低減効果が高い「高効率石炭火力」の新設・建て替えに関しては、環境アセスメントを迅速化・簡素化する、などだ。


 この外務省提言だけではないが、再エネ推進論には、導入によるメリットや夢物語に近いことが強調されがちである。しかし、再エネ導入にかかるコスト面やインフラ面でのデメリットを克服するための方策を同時に提起していけなければ、円滑な再エネ導入は実現しないだろう。


(石川和男・元経済産業省官僚、社会保障経済研究所代表)