デジタル技術で新商品・サービス続々 西沢敬二 損害保険ジャパン日本興亜社長  

──少子高齢化やクルマ離れ、自動運転車の開発の進展などによって、主力の自動車保険市場も変化が予想されます。


西沢 当社の売上高にあたる正味収入保険料約2兆円のうち、約1兆円を自動車保険が占めています。将来的には、現在の半分に減ることを念頭に置いています。


 減少の予想される約5000億円分の売り上げから得られる収益を生み出すだけの事業を今から仕込んでおく必要があります。


 ただし、対応にあたっては時間軸も大事です。今やるべきことと、中長期的にやるべきことは分けて考える必要があります。例えば、完全な自動運転車が開発されて、交通事故がなくなるような世の中が実現するのはまだ先のことです。国内の自動車保有台数は約8000万台前後。自動運転車が開発され、販売台数が年500万台で推移したとしても、自動運転車に完全に入れ替わるには15、16年はかかります。

 

── 自動車保険では、昨年8月に国内で初めて「テレマティクス保険」と呼ぶ商品を発売しました。


西沢 安全に運転すると、保険料を最大20%割り引く商品です。スマホにダウンロードできる運転支援アプリ「ポータブルスマイリングロード」で運転手の運転状況を診断し、割引率を算出します。


── 運転のうまさで保険料が変わるのですね。


西沢 そうです。さらに個人向けには1月から、自動車保険の特約として、運転に不安のある高齢者らを対象に、ドライブレコーダーを使った運転支援・見守りサービス「ドライビング!」を展開しています。ドライブレコーダーには通信機能がついていて、事故発生時に家族などに自動的に通報します。綜合警備保障(ALSOK)と提携して事故現場に駆けつけるサービスもついています。

 

 高齢者の「運転寿命」を延ばしたり、事故対応を拡充したりすることで、差別化を図っています。


── 将来を見据えた取り組みは。


西沢 2016年4月に「デジタル戦略部」を設置しました。人工知能(AI)や、パソコンを使った単純作業を自動化するソフトウエア「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」で業務の効率化を図るだけでなく、主にデジタル技術を活用して次世代を見据えた新しいビジネスモデルを探っています。


 昨年10月には、デジタル戦略部で探求した技術を使って、ビジネスモデルを具体化するための「ビジネスデザイン戦略部」を設置しました。


 デジタル戦略部とビジネスデザイン戦略部は本社40階に設けた「SOMPOデジタルラボ」に同居し、席を決めずに自由に座れるフリーアドレス型のデスクや全面ガラス張りの会議室などを使っていつでも議論できる体制を取っています。どうです、保険会社には見えないオフィスでしょう。


── 具体的には、どんなビジネスモデルを考えていますか。


西沢 民泊仲介最大手の米エアビーアンドビーや、フリマアプリのメルカリ、駐車場運営大手のタイムズ24といった成長の期待される企業と連携し、それぞれの分野で特色のある保険商品やサービスを開発できないか、一緒に検討しています。


 将来的には、優れた商品やサービスを持つベンチャー企業や大企業の事業部門と組んで、保険ビジネスとシナジー効果のある周辺のサービス事業そのものにも進出したいです。

 

 ◇変化はチャンス

 

── 技術やビジネスが大きく変化しています。


西沢 産業構造の変化は、保険会社にとっても大きなチャンスです。


 そこで、昨年12月には「ビジネスクリエーション部」を新設しました。生命科学や再生医療、ロボティクスなど五つの分野で「世界初」の技術に着目。大学や研究機関などと一緒に、保険の枠組みにとらわれることなく、新たな事業ができないか研究を始めています。


 3月に提携協定を結んだ慶応大学先端生命科学研究所とは、安心や安全、健康領域について、社会的課題の解決につながる事業にチャレンジしたいと考えています。


── 社長に就任してから丸2年がたちました。就任後、どんな点に力を入れてきましたか。


西沢 就任後にはまず、本当に価値ある商品やサービスとは何かについて、トップの目線から改めて事業や経営を見直しました。変化の激しい時代を生き抜くためには、前例にとらわれないイノベーションが必要です。そのためには大きく変わる必要があります。


── どんな体制が必要ですか。


西沢 まずはシンプルに、顧客や、顧客のことを一番よく知っている現場の声を聞いて、損害保険会社として当たり前のことを正しくやっていく必要があります。そのためには、意思決定のスピードを上げるとともに、自由に物を言い合える風土が必要です。現場に権限を委譲する必要もあります。


── 成果は出ていますか。


西沢 ゼロベースで一つひとつの仕事の進め方や働き方を見直す「仕事の棚おろし」に取り組んだ結果、残業時間だけでも、すべての職種で2割程度減らすことができました。


 また、現場への権限委譲については、17年度末時点で本社が保険を引き受けるかどうかを判断していた年約14万件の契約のうち、今ではその半分にあたる約7万件の判断を現場の判断に任せています。
(構成=池田正史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか


A 20~30代は営業現場と本社部門を交互に経験しました。集中力と粘り強さを強みに、目標に向かって必死に取り組んでいました。


Q 「私を変えた本」は


A 取り立てて1冊を、というと迷いますが、最近は米テスラ最高経営責任者のイーロン・マスク氏関連の本や記事に関心があります。


Q 休日の過ごし方


A 月に2、3回は取引先とのゴルフです。それ以外は読めずにいる本を読んでいます。
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 ■人物略歴
 ◇にしざわ・けいじ
 1958年生まれ。慶応義塾高校、慶応義塾大学経済学部卒業。80年に安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)入社。2010年6月に損害保険ジャパン常務、13年4月に同専務などを経て16年4月に現職。東京都出身。60歳。
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事業内容:損害保険業
本社所在地:東京都新宿区
創業年月:1888年10月
資本金:700億円
従業員数:2万5822人(2017年4月1日現在)
業績(2017年3月期)
 正味収入保険料:2兆5503億円
 経常利益:2422億円