独自の化学製品で世界と渡り合う 山本学 デンカ社長  

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

 「電気炉により化学製品を製造する」が由来の「電気化学工業」から2015年に「デンカ」へと改称。カーバイド(炭化カルシウム)と石灰窒素肥料の製造を原点に、耐性に優れた合成ゴム「クロロプレンゴム」や電子部品材料、ワクチンなど製品は多岐にわたる。

 

── どんなものを作っていますか。


 山本 1915年に設立され、石灰窒素肥料の生産から始まった会社です。石灰窒素の製造を通じてカーバイドの技術を磨き、誘導品(化学反応により生まれる製品)の製造を始めました。カーバイドを水と反応させるとアセチレンができ、ここからさまざまな製品を作っています。


  一番代表的なのがクロロプレンゴムです。耐熱性や耐油性に優れ、産業機械の動力伝動ベルトなどに用いられる合成ゴムです。日本では当社が初めて製造し、世界シェアは40%でトップです。

◇自前の鉱山と電力

 

── 合成ゴムの強みは。


 山本 カーバイドの原料となる石灰石の鉱山と発電所を所有していることです。工場のある新潟県糸魚川市の近くに鉱山を持っており、資源量は豊富です。電力は自前の水力発電所から供給しています。水力発電所は15カ所あり、工場で使う電力の4割は水力でまかなっています。安価な原料とエネルギーの両方を有していることは大きな強みです。


── コスト競争力は高いですね。


 山本 確かに高いですが、競合他社は石油系のブタジエンからクロロプレンを製造しているので、ブタジエンの価格が下がると我々の競争力が落ちます。そこで2015年に三井物産と共同で米デュポンの米国内の工場を買収し、ブタジエンとカーバイドの両方の製造工程を持ちました。これによってブタジエンの価格によって、日米両工場の稼働率を調整する生産態勢になりました。


── もう一つの主力、電子部品材料はどんなものを作っていますか。


 山本 セラミックス系の材料を作っています。電気自動車(EV)向けに需要が非常に伸びており、収益源の一つになっています。


── 製造技術はどのようにして得たのですか。


 山本 セラミックスの開発には高温制御の技術が必要です。当社は石灰窒素肥料の製造でその技術を持っており、発展させて開発につなげました。代表的な製品は窒化ケイ素です。ファインセラミックスの一種で、耐熱性と強度に優れています。EV駆動用モーターを制御するパワーコントロールユニットの放熱用基板の材料で、伸びていく分野です。生産能力が不足しており、増強を図っています。


── 他に注力しているのは。


 山本 リチウムイオン電池に必須の導電材料、アセチレンブラックです。アセチレンの使用と自社の技術により純度の高い導電材料になります。世界で最も高純度なカーボンブラック(炭素の微粒子)で導電率に優れた製品で、非常に需要が拡大しており、今後も生産能力の増強を積極的に進めます。


── 今後、どのような経営計画を立てていますか。


 山本 5年間でスペシャリティー(独自技術・製品など)化の進展と生産性の向上、働き方の改革を目指します。海外での売上高は4割程度になっていますが、海外の巨大企業と互角に渡り合うにはスペシャリティー化しかありません。化学企業は為替や原料価格などの影響を受けやすく、変化に強い体質にしないと持続的な成長は難しい。常に新たなスペシャリティーを生み出す体制を作っていかなくてはなりません。


  スペシャリティーで営業利益の9割を稼ぐことを目指します。現在は電子部品材料などスペシャリティーが6割を占めており、十分に達成可能だと考えています。


── どのようにして生産性を拡大する方針ですか。


 山本 スペシャリティー事業を伸ばすには積極的な成長投資が必要で、場合によってはM&A(企業の合併・買収)も必要になります。戦略投資は5年間で750億円で、このうち600億円はスペシャリティー事業の成長に使う計画です。


── 具体的なM&Aの考え方は。


 山本 技術的な基盤が充実したり、事業価値の拡大につながったりするなら積極的に進めたい。高収益が期待できるヘルスケアや需要が伸びている電子部品材料の分野が中心だと思いますし、具体的に検討しているものもあります。


── ヘルスケアではどの分野に力を入れますか。


 山本 子会社のデンカ生研は国内の民間企業で唯一、インフルエンザのワクチンを製造・販売しています。また、15年にはドイツのアイコン社を買収しました。ワクチンは通常、鶏の卵で培養しますが、アイコン社は植物細胞を使ってこれまでより安価かつ安全にワクチンを作る製法に取り組んでいます。一方、がん治療の分野ではヘルペスウイルスの遺伝子を改良し、がん細胞だけを攻撃するウイルス製剤を作りました。悪性脳腫瘍など治験を進めています。


── 海外展開の方針は。


 山本 13年には5カ所だった海外の生産・研究開発拠点は、14カ所に増やしました。シンガポールはさらに強化し、アジアを中心に消費地の生産販売拠点の強化を進めます。海外売上高比率は5割程度まで持っていきたいと思います。


 (構成=米江貴史・編集部)

 

  ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか


A 電子材料の開発など新しい事業の担当や、ドイツ駐在などで視野が広がりました。好奇心が強く、外国人を相手に負けてたまるかという気持ちも強かったです。


Q 「私を変えた本」は


A 高校時代に読んだヘルマン・ヘッセ『荒野のおおかみ』です。世の中の大きな流れから少し離れたアウトサイダーでいることの意味や大切さを教えられました。


Q 休日の過ごし方


A 社長は脳が常に緊張状態にありますので、脳をリラックスさせることに集中しています。妻と買い物に出かけたり、料理を作ったりしています。
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 ■人物略歴
  ◇やまもと・まなぶ
 1956年生まれ。東京都出身。神奈川県立相模原高校、早稲田大学政治経済学部卒業。81年4月電気化学工業(現・デンカ)入社。執行役員電子材料事業本部電子材料事業部長、取締役兼専務執行役員経営企画室長などを経て2017年4月に社長就任。62歳。
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事業内容:合成ゴム、電子部品材料など化学製品の製造
 本社所在地:東京都中央区
 設立:1915年5月
 資本金:369億9800万円
 従業員数:5816人(2017年3月末、連結)
 業績(17年度、連結)
  売上高:3956億円
  営業利益:337億円