第71回 福島後の未来:再生可能エネルギーの技術開発で海外展開を目指す福島県へ=服部靖弘

◇はっとり・やすひろ
 1952年新潟県佐渡市生まれ。東京工業大学・機械卒。東芝の重電部門を経て2008~12年6月まで北芝電機社長。12年8月、ふくしま地域イノベーション戦略支援プログラムのプロジェクトコーディネーターなどを経て17年4月から現職。

 

 2011年3月11日に起きた東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故を受けて、福島県では40年ごろまでに、県内で使う1次エネルギー相当を風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーで生み出そう、という基本方針を掲げています。原子力に依存しない持続可能な社会をつくり、再生可能エネルギーに関連する新産業と雇用を創出し、次世代産業の核とする。この目標達成には、産業集積を支援するための専門家やコーディネーターが必要です。その取り組みを6年にわたり続けてきました。


  始まりは、12年8月に始めた文部科学省の「ふくしま地域イノベーション戦略支援プログラム」でした。私は東芝の重電部門を経て、福島県福島市にある東芝の関連会社、北芝電機の社長を務めているときに震災がおきました。そこで福島県の依頼を受け、産学連携のプログラムの責任者となりました。


  最初に取り組んだのは、県内の四つの理工系大学、福島大学、日本大学工学部、いわき明星大学、会津大学に再生可能エネルギーの専門家を招請し、5年間でさまざまな技術を開発してもらい、県内企業に技術移転する、というプロジェクトでした。県内には、再生可能エネルギーを専門とする企業がほとんどなかったため、まずは大学発で技術を開発し、中小企業に裾野を広げていこうという取り組みです。


  成果として、53社がプログラムに参加し、次世代太陽電池のシステムとデバイス(部品)、地中熱利用システム、小型風力発電、熱電変換システム、スマートグリッド(電力の流れを供給・需要の両側から制御し、最適化できる送電網)の情報基盤などの研究開発が進みました。


  このプログラムが17年3月に終わる頃、さらに発展させていくことはできないか、という議論で始まったのが「エネルギー・エージェンシーふくしま」という支援組織の活動です。大学には引き続き再生可能エネルギーや次世代エネルギーの研究開発を進めてもらう一方で、産業界を支援するための組織として福島県が立ち上げました。

◇地中熱とスマートプラグ

 具体的に事業化に踏み出す企業が出ています。


  一つは地中熱利用。日大工学部の研究開発から始まった取り組みで、地面から数十メートルの深さの穴を掘り、そこから熱を採ると年間を通じて温度が一定のため省エネになる技術です。地中熱利用は既存技術で対応できる参入しやすい分野だったため県内の企業が集まり、技術開発組合をつくっています。井戸のボーリングが主力の「福島地下開発」(須藤明徳社長)がリーダーとなり、昨年県内の7社による組合が発足しました。

 地中熱は日本ではあまり普及していませんが、米欧では日本の百倍から千倍という規模で普及しています。日本は川から堆積(たいせき)した土砂など地層が複雑ですが、米欧は花崗(かこう)岩の地層のため開発が容易で熱効率も良いのです。一方で日本の地層は岩が出たり、砂になったり、水も湧き出すので処理する必要があり、掘削する機械の先端にあるボーリングヘッドという部品をその都度換える、といった取り組みが必要になります。住宅密集地で使える小型の機械も必要です。「地中熱とはなんだろう」というところから始まり、課題解決のための技術開発に取り組んだ結果、事業化が見えてきました。


  もう一つは会津大が核になって立ち上げたエネルギーマネジメントの取り組みが進んでいます。会津大発のベンチャー企業である「会津ラボ」(久田雅之社長)のスマートグリッドの情報基盤開発です。社長の久田さんが会津大を卒業して設立したベンチャー企業で、観光用のITアプリなどを開発していた企業です。この会津ラボが、スマートプラグというコンセントに差し込むとエネルギーの消費量がすぐインターネットで取り込めるデバイスを開発しました。会津ラボはさらにブロックチェーン(電子分散台帳)の技術を使い、電力の取引を合理的に管理する仕組みもつくっています。福島県の補助金により数千個のスマートプラグを使った実証試験を福島県や東京都で進めています。冷蔵庫やエアコンなど電力消費量の多い家電とスマートプラグをつなげることで、「Aさん宅ではエアコンの使用開始」「Bさん宅は暑いけど使っていない」といった情報を把握して、電力を使用する側の最適な制御を進める取り組みです。この会津ラボも文字通り、ゼロからのスタートでした。

 福島県には、12年7月に立ち上げた福島県再生可能エネルギー関連産業推進研究会もあり、県内の企業を中心に680団体が参加し、セミナーなどを通じてさまざまな活動を展開しています。さらに国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)が産総研の新たな研究開発拠点として14年4月に郡山市に設立されました。地中熱の組合や会津ラボは、産総研とも連携しています。


  エネルギー・エージェンシーふくしまでは、この研究会の運営やFREAとの連携で企業間ネットワークを構築し、情報共有やビジネスマッチングで新規参入を促進することを一つの柱とし、地中熱やスマートグリッドなど具体的な事業化プロジェクトの支援、販路開拓支援、海外展開の支援──という四つの取り組みを通じて、福島県での再生可能エネルギー産業の集積を実現しようとしています。


  海外展開の支援では、福島県はドイツのノルトライン・ウェストファーレン州(NRW)と連携しており、毎年ドイツで展示会に出展しています。前述の会津ラボは、スマートプラグを欧州市場でも販売しようと取り組んでいます。

◇ドイツ展示会にも参加

 

  福島県の技術力は高く、製造業の出荷額は東北随一です。しかし東京から近いこともあり、大手企業から図面をもらい、それを製造するという業態の企業が少なくありませんでした。その結果、自社製品を持つ企業が少なかったのですが、これまでの6年の取り組みで確実に変わり始めました。


  現時点では福島県はまだ再生可能エネルギーで世界トップレベルとは言えませんが、大学や産総研、研究会、そして企業の連携が6年前には想像できなかったスピードと量で展開されており、事業化に向けた複数のサイクルが動き始めています。


  今年もドイツの展示会に福島県の企業が5社出展しました。ドイツの中小企業は国の研究所と連携しながら技術開発を進め、アフリカなど海外に進出することが当たり前になっています。日本はまだそうした動きは定着していませんが、福島発の世界に通用する技術で国際展開するのが一つの目標です。再生可能エネルギーの最大市場は日本ではなく海外だからです。


 (服部靖弘、エネルギー・エージェンシーふくしま代表)